俺の知らないうちに話がどんどん進んでいるな
「しかし、いつみてもでかいな」
俺は今、乃亜の家に来て、客間らしき部屋のソファーでくつろいでいた。
いや、これは家というより豪邸だな。
何故、乃亜の家に来ているのかというと、乃亜が物を取りにいきたいと言ったので学校の帰りによったのだ。そしたら、乃亜が自分の部屋に物を取りに行っている間に、俺はこの客間に通されたのだ。
「失礼します」
そしたら、扉をノックしながら一人のメイドが入って来た。
「あ!」
俺はこのメイドに見覚えがあった。
「暴力メイド!」
そう、あの時の俺を気絶させたメイドだ
「暴力メイドではありません。夢でございます」
夢は淡々と言った。
「それで、何か用」
俺はメイドに負けたことに悔しさを今頃になって思いだしながら聞いた。
「はい。お嬢様とご主人様がお呼びです」
「わかった。今、行く。で、どこに行けばいいんだ?」
俺は立ち上がり聞いた。
「連れて来てと、言われたので私に付いてきてください」
「OK」
俺は夢の後ろに付いていった。
そしたら、一階の大広間に入るドアまで連れて行かれた。
「夢です。蓮斗様をお連れしました」
「入ってくれ」
夢がノックをしてそう言うと、中から声が聞こえてきた。
「それではどうぞお入りください。蓮斗様」
夢はドアを開け、俺に指示をしてきた。
「失礼します」
俺は夢に言われ、大広間に入って行った。
「待っていたよ。蓮斗君」
大広間には、乃亜の他にスーツに身を包んだ中年の男性と少々小太りの中年男性、その息子らしき青年が一人いた。
「懐かしいね。六年ぶりだっけ?いや、こんなに大きくなっちゃって」
スーツ姿の中年男性は俺を見るなり嬉しそうに話しかけてきた。
「お久しぶりです。おじさん」
透咲仁。乃亜の父親で俺が思わず敬語になるほどの風格の持ち主である。そして、透咲グループの社長である。
「そんなにかしこまらないでくれよ。君は私の義理の息子になるんだからさ。もっと気楽に話してくれ」
今、なんつった?この人
「お言葉ですが。もしかして、おじさんも婚約の件には賛成なんですか?」
「もちろん。もともと、婚約の話は私達夫婦と君の両親が決めた事だからね」
俺の味方って本当に誰もいないんだね。あ、やばいなんか悲しくなってきた。
「オホン、透咲さん。そろそろ私達にもその学生の紹介をしてくれないかな?」
小太りの中年が頃合いを見計らって話しかけてきた。
「ああ、そうだね。蓮斗君。こちらは蒼江鐘次さんと息子の冬馬君。そして、蒼江さん。こちらの青年は紅沙花蓮斗と言いまして、紅沙花一の息子です」
「それでボクの婚約者」
乃亜はそう言って、俺に近づき俺の腕を取った。
おい、乃亜。余計なことを言わないでくれ。
「おお、あの修羅の息子かどおりで凶暴そうな目をしている」
鐘次は俺を見ながら言ってきたので睨みつけた。その途端、鐘次は俺から逃げるように視線を外した。
「と、ところで透咲さん。婚約がどうのこうの言っておりましたが、それはどういうことですか?」
鐘次はなんだか焦りながら聞いてきた。
「どういうことってそのままの意味だよ。まだ、正式には発表をしていないけれど、ここにいる蓮斗君は乃亜の婚約者なんだよ。まあ、簡単に言ってしまえば許嫁だね」
本人の意思確認もしないでね。
「え、で、でもその話は私の息子とする話ではなかったですか?」
「それはそっちが勝手に言っているだけで、私は乃亜を蓮斗君以外に嫁がせる気は無いよ」
「レン。やったね。お父様に認められているよ」
乃亜は嬉しそうに言ってくる。
「・・・・・そうだね」
俺は今頃になって否定はできないので頷くことしかできなかった。
「で、でも、そんな奴より、私の息子の方が優れていますよ?」
相手はどうしても自分の息子を乃亜に婿に行かせたいようだ。
まあ、それもそうか。透咲家は日本屈指の企業だし権力も強いよな、そんなところに婿に行ったあかつきにはやりたい放題だしな。
「ほう、例えばどんな?」
仁は相手を試すかのように聞いてみた。
「息子の冬馬は学園では神童って呼ばれるほどの頭を持っていて、周りの人たちも信頼しております」
鐘次は冬馬の言いところをアピールしていった。それに比べて冬馬は興味なさそうに黙っている。
「レンは鬼人って呼ばれていて、周りからは恐れられているよね」
乃亜はその場の雰囲気を読まないで口を挿む。
「どっかの誰かさんのせいでね。それとお前は少し黙っていようね」
大事な話をしているみたいだしな。
「それだけで、優れているとはつまらないな」
仁はつまらなそうに鐘次に威圧をかけて言ってきた。
「つ、つまらないですか」
「うん。つまらない。私はね、頭がいい。信頼されている。運動能力がある。といろんな人達が自分の息子のいい所ばかりを言う人達を見てきた。みんな、私に自分の息子を気に入られようと必死だったよ。あれは滑稽だったな。みんなして、乃亜のことは考えず、私の後ろにある権力ばかりに眼がいっている」
仁は笑みを浮かべながら話をしていく。
「お、お言葉ですが。な、何を根拠にそんなことを言えるのですか?」
「根拠も何も、もともと、私は乃亜には私の会社を継がせる気はないよ。何故か、みんなはそこを勘違いしているみたいでさ、乃亜の夫になれば会社を継げると考えているみたいだよ。君みたいに」
「え?」
鐘次は驚きを隠せないようだ。
「じゃあ、乃亜に聞くけど。私の会社を継ぐ気はあるか?」
「ない」
乃亜は即答した。
「だって、ボクはレンの妻になって暖かい家庭を築くんだもん」
こいつの頭の中でもう、俺と結婚するみたいだね。
「と、いうことだ。他に質問は?」
「じ、じゃあ、最後に会社は誰に継がせる気なんですか?」
「後継者かい?そうだね。私の孫にでもやらせてみるかな?」
仁はとんでもない爆弾発言をしながら俺と乃亜を見てきた。
・・・・・あれ?これってまさか嵌められた?
俺がそう思っていると、乃亜が顔を赤くしながら「じゃあ、今晩から子作りでもする?」と聞いてきたのは言うまでもない。