最後の戦い
血の盟約ここに。
そう頭に響いた瞬間、俺は目を覚ました。そして、一番最初に目に飛び込んで来たのは、乃亜が自分で自分を刺そうとする瞬間だった。
ちっ、何をやっているんだよお前はっ!!
俺はすぐに体を起こし、乃亜とナイフの間に飛び込んだ。そして、ナイフを左手で受け止め、乃亜に刺さらないようにする。そして、俺は乃亜に向けて叫んだ。
「お前は何があっても俺が絶対に護ってやる。だから、絶対に死のうとするなっ。乃亜っ!!!」
俺が生きているのに乃亜は驚いている。まあそりゃあ、そうか。俺自身も驚いているんだから。
「嘘、レン死んじゃったんじゃ」
そして今にも泣きそうな声で言ってきた。
「ああ、死んでいたよ。それより、ナイフを離してくれないか?そろそろ手から抜きたいんだが」
「ああ、ごめん」
乃亜はすぐにナイフから手を離した。俺はさっさとナイフを手から抜き、地面に置いた。そして、能力を使い回復力を強化した。驚くことに傷はすぐに塞ぎ、元のままになった。
・・・・・俺の体に何が起こったんだ?胸の傷も塞がっているし、一体俺に何が起きているんだ?
「レン」
乃亜は心配そうに俺を見てくる。
「悪い心配かけた」
「んん、いいよ。元はボクが悪いんだし。それよりどうやって生き返ったの?」
「ん~、俺もいまいちわからない。でも、今、やることはわかっている」
俺は立ち上がり豊を睨みつけた。豊は俺が生き返ったことに驚いているようだ。
つか、あの黒い靄みたいな光は何だ?
「乃亜、ありゃあなんだ?」
「あれはボクの能力の一部みたいなものだよ。あいつが言うには僕には『精神干渉』の能力があるみたいで、ボクの精神干渉の攻撃を受けて理性を破壊されちゃったみたい。で、あれはその名残なみたいな物」
「みたいって、お前が意思をもってやったんじゃないのか?」
「ボクも怒りで我を忘れていたから無意識にやっちゃったみたい」
「ふ~ん、そうか。それともう一つ、そのほっぺの赤い跡はどうした?」
「こ、これは」
乃亜は俺に指摘されすぐに頬を両手で隠した。たぶん、奴に殴られたのだろう。
「そうか。お前が言いたくないそれでいい。でも」
あいつには罰を受けてもらわないといけないな。
「はっ」
俺の殺気を感じ、豊はやっと俺が見ていることに気が付いたようだ。
「まさか、生き返るなんて。あなたはゾンビですか?」
そして、冷静さを取り戻し話しかける。
「ゾンビか。それなら、まだいいな。でも、残念ながらゾンビじゃなくて正真正銘、生身のままだ」
「そうですか。残念ですね。そのまま死んでいてくれた方があなたも楽ができたんじゃないんですか?」
「そうかもしれないな。でもな、俺を寝かしてくれない奴がいるんだよ」
「そうですか。じゃあ、今度こそ。私の手で永遠に眠らせてあげますよ」
豊はそう言って構えた。
「それはこっちのセリフだ」
俺もそれを見て、拳を構える。
「遅いですよ」
しかし、構えた瞬間に豊がもう懐の中に入っていた。そして、豊はそのまま拳を放つ。
「ぐっ」
俺はそれをギリギリの所で手を受けた。
「おや、腹を殴ったつもりでしたが少し遅かったですね。でも」
そして、今度は俺の顔面に向けて蹴りを放っている。
「ぶっ」
こんどは見事に豊の蹴りは俺の顔面に入る。俺はそのまま後ろに飛ばされた。でも、すぐに体勢を立て直した。
「さて、あなたは後何発で倒れるのでしょうかね?」
そして、まだ豊の攻撃は止まらない。腹、後頭部、脇腹、太股などなど、俺が反応できない速度で豊は殴ってくる。
俺はただそれらの攻撃を強化した体全体で受けるしかなかった。
つか、こいつの能力って一体なんだんだ?なんで、反射神経を強化している俺が反応できないんだ?
俺は豊の能力が解るまでただ耐えるしかなかった。
くそ、なんでもいいからなんかヒントはないか?
「ははは、どうしましたか。紅沙花蓮斗。それだとまた眠ってもらいますよ?」
「くそっ」
俺は苦し紛れに一発、豊の攻撃を受けた瞬間に顔面に向かって拳を放った。
「遅いです」
しかし、豊は簡単にそれを避けてしまう。そして、そのままカウンターとばかりに俺の顎にアッパーを放つ。当然のことながら俺はそれを避けられず、見事に当たってしまった。
「くっ」
俺は気絶しそうになったが、ギリギリの所で耐えてみせた。
危ない。危ない。もう少しで危うく落ちる所だった。しかし、あいつの能力はいったいなんなんだ?俺の攻撃も簡単に避けるし、あいつの攻撃も全部かわせないし。あー、いらいらしてきた。時間タイプかスピードタイプだと思うんだが。・・・・・仕方がない、一か八かやってみるか。
「おや、どうしましたか?私を眠らせてくれるんじゃないんですか?」
豊は余裕を見せて、一旦、俺から距離を置く。
「ああ、眠らせてやるよ。ミコト、乃亜を護れっ!!」
『はーい』
ミコトはいきなりの命令も関わらず、乃亜の前に現れシールドを張った。
「喰らえッ!!」
俺はシールドを張った瞬間、ジャケットの裏から小さいボールを指で限界まで挟んで取り出し、豊に向けて投げた。
「おやおや、近距離の次は長距離ですか?まあ、どちらにしてもあたりませんけど」
豊はそう言って全て避けてしまう。
「さて長距離も無理だと解ったことですし、そろそろ、眠って、ぐあっ!」
豊は話している途中にいきなり後ろから衝撃を受けてしまった。
「な、なんだ?ぐっ」
そして、今度は右から衝撃を受ける。
「何をしたっ。紅沙花蓮斗」
「別に何もしてないよ。ただ、これを投げただけだ」
俺はそう言ってもう一つ懐からボールを取り出し、床に思いっきり叩きつけた。そしたら、ボールは跳ね返りそのまま天井に向かい、また、天井に当たり跳ね返った。そして、また床に落ち天井に向け跳ね返る。そのボールはそれを繰り返すだけだった。しかし、何が違うのはそのボールはだんだんとスピードが上がっていく。
「まさか、スーパーボールかっ!!」
そこでようやく、豊はそのボールの正体を知った。
「正解。俺の妹特製スーパーボールだ。これは普通のスーパーボールとは違い、跳ね返るごとに段々スピードが上がって行き、最後には弾丸のスピードになる」
ただし、室内しか使えない。もし、外で使ったらそのままどこかに跳んでいってしまうからだ。玲いわく『うけで作ってみたけど危険すぎるね』だそうだ。
俺はさっきから天井と床を繰り返すボールを豊に向けて蹴った。
「くっ」
ボールは行きよく飛び、豊はそれをギリギリの所で交わした。
「がっ」
でも、その前に跳ばしたボールが胴体に当たった。ちなみに、俺はというと全ての感覚を強化し、ボールが俺に跳んできた瞬間、適当に跳ね返していた。
「まだまだ、いくぞ」
俺はさらにスーパーボールを放つ。
「いいでしょ。なら、ボクはそろそろ終わらせてあげますよ」
豊は俺が気付いた頃にはまた、俺の目の前にいた。俺はこの瞬間に真後ろに向けて思いっきりスーパーボールを投げた。
「これで終わりです」
そして、豊は俺の襟を掴み顔面に向けて拳を放った。普通ならこのまま当たってしまうが、俺の後ろから豊に向けてスーパーボールが跳んできた。
「なっ」
豊はその奇襲に驚き思わず、自分の手の平を突き出した。
そしたらどうだ、早かったスーパーボールがいきなり遅くなったのだ。その遅くなったスーパーボールを豊は手の平で払いのけた。そして、その瞬間、またそのスーパーボールはさっきの速さを取り戻し、早く動き出した。
そうか。わかったぞ。こいつの能力。
俺はそれを見てこいつの能力がわかってしまった。そして、豊がボールに気を取られている内に腕を掴んだ。なら、話が早い。
「なんですか、これは?」
豊は俺が掴んだ腕を見ながら言ってくる。
「お前の能力がわかったんだよ」
「何っ!!」
豊は驚いた。
「お前は時間を何秒間だけ遅くすることができる。だから、いつの間にか俺の懐に入り込むことが出来、俺が攻撃を避けようとも必ず当たることが出来たんだ。また、その逆もしかりで俺が攻撃をしかけた瞬間に、俺の時間を遅くし攻撃を避けたように見せたんだ」
「・・・・・よく、この短時間で私の能力を把握したね。その通りだ。私の能力は15秒間だけ一人の対象者の動きを遅くすることができる」
豊は自分の能力を説明してくれた。
「やっぱりな」
「でも、能力がわかったくらいでどうしたんだ?君は私の能力を防ぐ術がないだろ」
「術ならもうやっている」
「何」
「お前は時間を遅くすることが出来ようとも、その物の力を無くすことはできないんだろ?」
「まさか、貴様」
豊はようやく俺の考えに気が付いたようだ。でも、もう遅い。俺は思いっきり腕を掴んでいる手に力を込めた。もちろん手の強化は使用済み。
「ぐあああああああっ!」
「まだ、俺の攻撃は終わっていないぞ」
俺はそのまま豊の顔面を殴りにかかる。
「くそっ」
当然のごとく、豊は俺の攻撃を遅くし、拳を避けた。
「おりゃあ」
「がはっ」
しかし、避けた瞬間に俺はそのまま裏拳放つと、豊の顔面に当たった。
なるほど、こいつの能力は奇襲攻撃も弱いのか。なら、後は簡単だ。殴って殴って殴りまくる。
「おりゃああああああ!!!!!!」
「ぐっ、ごほっ、がはっ、や、げえっ、止めて、くれ。ごっ、わ、私の、ぎゃっ、負けでいいから」
豊は殴られ続けて、とうとう降参し始めた。でも、俺は止める気がない。
拳を避ければそのまま蹴りを放ち、蹴りを避けたと思えば拳を放つ。また、上下左右からスーパーボールが跳んできて、豊が遅くした瞬間、思いっきり顔面を殴ったりした。また、俺の攻撃に気を取られている内にスーパーボールに当たったりした。もはや、第三者からみれば一方的な苛めだ。ちなみに、蓮斗はいつの間にか掴んでいた腕を離し、両手を使って豊を殴り続けている。しかも、豊は攻撃を受け過ぎて能力を使う暇が無くなってきている。
この時、豊は心の中で思った。私は過ちを犯した。神に近し能力を欲したばかりに、一番敵にまわしてはいけない奴をまわしてしまったと。奴は人間ではない。人間の皮を被った鬼だ。いや、鬼は手緩い奴は化け物だ。
「と・ど。め・だああああああああああっ!!!」
そして、俺は豊の顔面を掴みそのまま思いっきり床に叩きつけた。叩きつけた瞬間、タイル全体にヒビが入り、豊の顔面はそのまま、床にめり込んでしまった。そして、豊は動かなくなった。