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最後のキスは血の味

「私が憎いですか?」

「憎い」

 乃亜は黒い光を放出しながら豊を見た。もはや、その光は乃亜の心を表しているようにすべてを包みこもうとしていた。

「殺したいくらい憎い」

 その光は乃亜が一言言う度に揺らめいている。

「むしろ殺す。絶対殺す。何がなんでも殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロス」

 乃亜はラジカセのようにその言葉を繰り返す。

「やれやれ、物騒ですね。女の子がそんなことを言っては駄目ですよ」

「うるさい。死ね」

 乃亜は豊の言葉に耳を傾けず、右手を豊に向けた。その瞬間、黒い光が豊に向けて放出される。豊はそのまま黒い光に包まれてしまった。

「このまま、お前の精神を破壊してやる」

 そして、乃亜は思いっきり右手を握りつぶした。

「なるほど、あなたの『精神干渉』は精神そのものを破壊する能力があるのですね。だから、洗脳も簡単に解けてしまったんでしょうね。それに、初めて意思を持って扱うの手慣れているのはすごいですね。ますます、私の妻にしたくなりました」

 しかし、豊は嬉しそうな顔をしながら普通に黒い光から出てきた。

「え、なんで?」

 精神を壊した感触は合った。でも、普通にピンピンしているのに乃亜は驚いた。そして、その驚きのせいで体から放出していた黒い光がなくなる。

「驚きました?実は私、精神に何重にもプロテクトをかけていたんですよ。いつ、精神に関わる能力者に出会うのかわからないですからね。たぶん、破壊したのはそのプロテクトを壊した感触ですしょ」

 そして、豊は一歩一歩近づいてくる。

「く、来るな」

 乃亜は自分の能力が効かないことに錯乱し、蓮斗を刺したナイフを豊に向けた。

「ナイフを向けてどうします?私もそこにいる紅沙花蓮斗みたいに刺すんですか?それなら、早く刺してくださいよ。私は避けも抵抗もしませんから」

 豊はわざと乃亜が少しでも前に出ればナイフが自分の胸に刺さる距離まで近づいた。

「さあ、早っくっ!紅沙花蓮斗を刺したみたいに私の胸を刺せっ!」

 そして、思いっきり乃亜に向けて叫んだ。しかし、これは豊の作戦だった。何故なら、豊は知っている。乃亜が自分を刺せないことを。

「だ、駄目っ!」

 案の定、豊の考え通りに乃亜は豊を刺すことが出来ずに一歩後ろに引いた。何故なら、乃亜には先ほど蓮斗を刺した感触が残っており、また、豊を刺せば蓮斗を刺した光景を重ねてしまうからである。

「そう、あなたは刺せない。何故なら紅沙花蓮斗と重なってしまうからね。さて、それじゃあ、そろそろ諦めてくれたまえ。そして、私の者になれ」

 豊は乃亜に対して手を差し伸べた。

「嫌っ」

 乃亜はその手に恐怖し、ナイフを振り回した。

「くっ」

 そして、それは偶然にも豊の手に当たってしまい、豊の手の甲に傷をつける。

「このガキイイイイイイイイイ」

 豊はそれに切れてとうとう自分の本性を現した、乃亜の頬を思いっきり打った。

「きゃあっ!」

 乃亜はそのまま蓮斗の所まで吹っ飛ばされた。

「よくも俺の手に傷を付けてくれたな。こっちが優しく接してやってるのに何をしてくれんだよ」

 そこには、さっきまで冷静でいた豊はおらず本性を現し怒り狂った豊が乃亜のことを睨みつけた。

「決めた。もう、決めた。お前は一生俺の奴隷として扱ってやる。そして、お前の能力を使ってお前の親、友達を壊してやるよ。あははははは」

 豊は狂気に満ちていた。それも先ほど乃亜が出していた黒い光を自らの体から放出していた。

 そこで、ようやく乃亜はもう自分はここから逃げられないことに気が着いた。

「なら、いっそう」

 乃亜はあることを決意し、蓮斗の唇に自分の唇を重ねた。

「いたっ」

 その時、唇から痛みが走った。たぶん、さっき殴られた時に切ったのだろう。

「ごめんね。最後のキスが血の味で」

 乃亜はそう言って、ナイフの切っ先を自分の胸に向けた。

「貴様、何をする気だっ!」

 豊が乃亜の意外な行動に驚く。

「レンがいない世界なんてボクにとっては死と同じだよ。だから、ボクはレンの後を追う」

 乃亜はそう言ってナイフを振りかざした。つまり、自殺だ。乃亜は豊の奴隷になるくらいなら死を選んだ。

「やめろおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

 豊は乃亜の行動を止めようとするがもう遅い。

「お父様、お母様、みんな、そして、レン。ごめんね」

 そして乃亜は目を瞑り自分の胸にナイフを振り下ろした。

 感触はあった。蓮斗を刺した時みたいに肉を刺した感触はある。しかし、いくら待っても胸に痛みが入らない。

 不思議に思った乃亜はゆっくり目を開き、そして、飛び込んできた光景に驚いた。

「お前は何があっても俺が絶対に護ってやる。だから、絶対に死のうとするなっ。乃亜っ!!!」

 そこには、ナイフを自分の手の平に刺して止めている蓮斗の姿があった。


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