馬鹿は馬鹿でも大馬鹿者
感想おまちしております。
「うーん、よく寝た」
俺はその日の夕方に屋上で眼をさました。
え、何故、夕方なのかって?それは午後の授業をさぼったからだよ。だって、考えてみろ、その日の午前中に体育をやって、午後に護衛の訓練なんかできるわけないだろ。
「しかし、寝すぎたな」
あ~、東の空が暗くなってきているよ。
俺はそう思いながら携帯をチェックした。
「げっ、乃亜からメールが来てる」
乃亜からメールが15件、着信が5件。
そのほかにもスバル、楓太、龍次などから授業をさぼってどこにいるという感じなメールが来ていた。
この三人はいいとして、あとで乃亜にはきちんと謝んないとな。
俺はそう思いながら携帯をしまい、体をほぐしながら立ち上がった。
「さて、帰るか」
乃亜の言い訳どうしよっかな?
「お前、しつこいんだよっ!!」
そんなことを思っていると叫び声が聞こえてきた。
「なんだ?」
俺はその叫び声が気になり、聞こえた方の所を覗いていた。
そこには、数人の男子生徒が全身ボロボロになっている男子生徒とそれを見て涙を流している女子生徒を囲んでいた。
「喧嘩か?」
俺はそう思いながらそれを見ていた。
「しかも、あの女子生徒って桃先輩だよな」
女子生徒を良く見てみれば、あのストーカー事件の時に俺に助けを求めてきた桃だった。
俺は話声を聞く為に聴力を強化した。
「おい、もう諦めたらどうだ?冬馬?」
リーダーらしき生徒が今にも倒れそうな生徒に話しかける。
冬馬?冬馬って確か桃先輩の幼馴染の奴だとな。
「い、嫌だ」
蒼江と呼ばれたボロボロの少年はリーダーを睨みつける。
「俺は今まで桃の苛めに気が付いてやれなかった。いや、気が付いていても知らんぷりしていた。自分に飛び火が来るのが怖くて」
「なら、そこをどけ。優等生のお前が俺達に敵う筈がないだろ」
「それは知っている。でも、知っていても戦わなければいけない、それは負ける戦いであっても。俺はもう、桃の傷つく姿を見たくない!俺はもう自分を偽るのは嫌なんだ!」
冬馬はリーダーに思いっきり叫んだ。
お~、冬馬。かっこいいセリフを言うな。
「あっそ、じゃあ、潰れてな」
リーダーはそう言って冬馬をいとも簡単に殴り飛ばし、うつ伏せに倒れた。
あれは、モロに入ったな。
「冬馬っ!」
桃はそれを見て泣き叫ぶ。
「さて、今度はあんたの番だぜ。壱草桃」
リーダーはいらやしい笑みを浮かべながら桃に近づいていく。
「や、止めろっ!桃には手を出すな!」
冬馬は必死に立ち上がろうとしていた。
お、あれでまだ気絶していない。
「ちっ、誰がそいつを押さえろ!」
リーダーに指示され、生徒Aと生徒Bが冬馬を抑え込む。
「よし、いいこと思いついた。こいつの前で壱草を犯してやる」
リーダーの思いつきで周りの奴らも笑いだす。
「嫌。だめ」
桃はリーダーに腕を掴まれ、必死に逃げようとしたが、リーダーの力の方が強く逃げることはできなかった。
「止めろ。止めろおおおおお!頼む。俺はどうなってもいいから、桃だけ頼む」
女の為に自分を犠牲にするか。
「うるせんだよ」
生徒Aが冬馬の後頭部を思いっきり踏みつけた。
「誰でもいい。誰でもいいから助けてくれえええええええ!」
それでも、なお、冬馬は必死に叫んだ。
「無駄だ。ここで、叫んでもここから職員室からは離れているし、今、この時間帯では誰も生徒が残っていない。残念だったな冬馬」
リーダーは勝ち誇った笑みを浮かべた。
さて、そろそろ帰るかな。
俺は一部始終を見終えそんなことを思っていた。
「頼む。誰でもいいから桃を助けてくれ。そいつは俺にとって大切な人なんだ」
「だから黙れ!」
生徒Aはさらに強く冬馬の後頭部を踏みつける。
大切な人か。俺にとって乃亜みたいなもんか。
「お前みたいな奴を助ける馬鹿なんていないんだよ」
生徒Bが冬馬に向かって叫んだ。
確かにな、馬鹿はここにはいない。でも
「馬鹿はいないが大馬鹿者ならここにいるぜ!!」
俺はそう叫んで、転落防止柵を乗り越え、屋上から飛び降りた。
俺も損な性格だよな。
「なっ!」
「えっ!」
「あっ!」
全員して俺に注目する。
スキル発動! 全下半身強化!
俺は下半身を強化し、勢いを乗せたまま地面に着地した。
あ~、強化はしたものの結構痺れるな。
「お、お前は紅沙花蓮斗」
リーダーは俺の名前を呼んで来た。
「・・・・・・どけ」
「「ひっ」」
でも、俺はそれを無視して、冬馬に近づき生徒Aと生徒Bをどけさせた。
「き、君は確か」
冬馬は力を振り絞って顔をあげ、俺を見てくる。
「聞いてもいいか。先輩の名前ってなんて言うんだ?」
まあ、もう、知っているが。
俺は冬馬を覗きこみながら聞いた。
「俺は蒼江冬馬。そんなことよりも、君に頼みたい事が」
「蒼江冬馬かいい名前だ。先輩、俺はあんたが気に入った。だから、助けてやる」
俺は冬馬にそう言って立ち上がり、リーダー達を睨みつけた。
「まあ、そういうことだから。恨みはないが潰れてくれっ!」
そして、俺はそいつらに襲いかかった。
それから、十分後。
「おい、いいか?またこの人たちに手を出してみろ。その時は俺がお前に地獄を見せてやる」
俺はリーダーの首を片手で絞め、壁に押し付けていた。
「あが、えっ、ああ」
リーダーは口から泡を噴きながら頷いている。しかも、股の部分が少し濡れてきている。
「よし、わかれば。よろしい」
俺はそう言って片手を離した。
リーダーはそのまま地面に倒れ込む。その他にも冬馬達を囲んでいた生徒は口から血を吐いたり、腕や足などを庇いながら倒れていた。
う~ん。やばいな。少しやり過ぎた。
俺は頭を掻きながら周りを見回していた。
「す、すごい。これが紅沙花蓮斗」
「あ、先輩達。大丈夫ですか?」
俺は声が聞こえた方を見ると、桃の肩を借りながら冬馬が立ち上がっていた。
「ああ、なんとかね」
冬馬は苦笑いをしながら俺に話しかけてきた。
「ところで、君は俺のことを気に入ったと言っていたがそれはどういうことだ?」
「ああ、それは」
PiPiPi、PiPiPi、PiPiPi
そしたら、俺の携帯が鳴りだした。
「ちょっと、失礼」
俺は携帯を取り出し、画面を覗いた。
「げっ、乃亜だ」
連絡すんの忘れていた!
「はい。もしもし」
無視しても良かったが、それはそれで後が怖いので出る。
『レンっ!今どこにいるのっ!』
電話口から乃亜の叫び声が聞こえてきた。
「えっと、学校」
『なんでまだ学校なのっ!ボク、もう家に着いているんだよ?』
「それには深い訳が」
『訳?どうせ、授業をさぼって屋上で寝ていたんでしょ!』
さすが、幼馴染。俺の行動をよくわかっている。
『そんなことよりも早く帰って来て。さもないと』
「さもないと?」
『今日の夜、レンを寝かさせてあげないから』
「あ、それだけは勘弁だわ」
『なら、さっさと来なさい。ボク、レンのTシャツの匂いを嗅いで待っているから』
いや、その待ち方はおかしいから。
「ああ、わかった。すぐに帰る。それと人のTシャツを勝手に嗅ぐんじゃない。それじゃあな」
俺はそう言って、電話を切った。
「すみません。自分の命が危険になりそうなので、説明は後でいいですか?」
「えっ、あ、はい。構いません」
「ああ、俺もいいよ」
「すみません。それでは」
桃と冬馬に了承をもらい、すぐに家に帰った。
帰ったら帰ったらで、乃亜に御仕置きを受けたのは言うまでも無い。