風邪を引いたらなにするかわからない。
「ふあ~」
なんだか体がだるいな。なんでだろう?
俺はそう思いながらリビングの扉を開けた。
「あ、レン。おはよう」
朝ご飯の準備をしていた乃亜が俺に気がつき挨拶をしてきた。
「ああ、おはよう」
俺も乃亜に挨拶を返す。
「朝ご飯はもう少しで出来るから待っててね」
「ああ、わかった」
俺はそう言って椅子に座り、乃亜を眺めた。
そういえば、乃亜ってこの家に住むようになって二ヶ月経つんだけど、ほとんどの家事をやってもらっているよな。俺、お礼を言った記憶がないな。つか、頭がぼ~とするな。
「はい。ご飯とお味噌汁」
乃亜は俺の前にご飯とお味噌汁を置いた。
「ん、今日も旨そうだな」
「えへへ、ありがとう」
「ところで、乃亜。いつもありがとうな」
「何、突然?」
「いや、お前が来てからほとんどの家事をしてもらっているからさ」
俺の家は乃亜が来るまで当番制だったんだけど。乃亜が来てからはいつの間にか、乃亜がほとんどやっている。
「気にしないで、ボクも好きでやっているんだし、これも花嫁修業だよ」
「ならいいんだけど。日頃のお礼に俺がお前に何かをしてあげようか?」
おい、なんでそんなことを言うんだ俺は?そしたら、乃亜が求めてくるだろ。
「それって何でもいいの?」
「ああ、いいよ」
よくない。全然よくない。自分で自分の首を絞めているようなもんだぞ。
「じゃあ、キスして」
「それでいいのか?」
いやいやいや、俺はこれ以上何を求めるつもりなんだ。
「うん。レンからボクにってあまりないでしょ。だから、キスがいい」
乃亜は顔を少し赤くしながら言ってきた。
「・・・・・って冗談だよ。お礼なんて、ボクはレンと一緒にいられるだけで幸せなんだから」
「わかった。キスでいいんだな」
おい、待て。何をする気だ。
「え?・・・ん」
俺は乃亜の後頭部に手を回し自分の顔に引き寄せ、唇同士を重ね合わせた。
そして十秒ぐらいで離した。
それでも俺はそれが長く感じ、離した後も自分の中にもっと乃亜を感じていたいと思ってしまう自分がいた。
「レン、どうしたの?」
乃亜は顔を赤くしながら不思議そうに聞いてきた。
「さあ?自分でも驚いている」
普段の俺なら絶対やらないだろう。
「何か変な物でも食べた?」
「いや、全然。ただ朝から頭がボーとして、体がだるいぐらだな」
「え?まさかそれって」
乃亜は俺のおでこに手を添えた。
「大変。熱があるじゃない」
「あ、やっ・・ぱ・・り・・・」
俺は乃亜に言われた瞬間、意識を失った。
「えっ、ちょ、レン!」
意識が無くなる瞬間、乃亜の驚く声が聞こえてきた。
「いいか。蓮斗。これから、お前には俺の親友の娘の相手をしてほしい」
大きい扉を前に、親父と共に並んで立っていた。
俺は何も言わずとりあえず頷いといた。
「よし、それじゃあ。入るぞ」
親父はそう言ってドアをノックした。
「どうぞ」
「失礼」
親父は扉を開け、中に入って行った。
「よく来てくれたね、一」
中には中高年の男性がいた。
「そりゃあ、俺の親友の頼みなんだから来るよ」
「ありがとう。それで、その子が蓮斗君かい?」
「ああ、そうだ。ほら、蓮斗挨拶しな」
親父は俺を自分の目の前に出した。
「紅沙花蓮斗です。四歳です」
「うん。よろしく。私の名前は透咲仁と言って、君のお父さん、紅沙花一の子供の頃からの親友だ」
おじさんはそう言って俺の頭を撫でてくれた。
「実はね今日は君にある頼みがあるんだ。君のお父さんからも聞いたと思うけど私の娘の相手をしてほしい。頼めるかな?」
「うん」
俺はなんとなく頷いておいた。
「ありがとう」
仁は微笑んでお礼を言ってきた。
「あなた。乃亜を連れてきました」
そしたら、ツインテールの女の子を連れて。女性の方が部屋に入ってきた。
「ちょうどいい所に来たね。ほら、乃亜おいで」
おじさんが女の子に手招きすると、女の子はおじさんの所までやってきておじさんの後ろに隠れてしまった。
「乃亜。この子が前に言っていた、今日から乃亜の友達になってくれる、紅沙花蓮斗君だよ」
女の子はおじさんの後ろから顔だけを出し、俺を見てくる。
「紅沙花蓮斗です。よろしくね」
俺が自己紹介するとまた女の子はまた顔を隠してしまった。
恥ずかしいのかな?
「ほら乃亜。蓮斗君が挨拶したんだから。あなたもきちんと挨拶をしなさい」
「と・・き・・の・・・。よ・・ろ・・く」
女の子はおじさんの後ろで声を小さくしながら何かを言ってきた。
はっきり言って、何を言っているからわからない。
『ごめんね。聞き取れなかったよね』
そしたら、頭の中に突然声が聞こえてきた。
『ボクの名前は透咲乃亜。よろしくね』
俺は周りを見回したが喋っている人は誰もいなかった。
『こっち。こっち。君の前にいるボクが話しているの』
目の前を見てみると、女の子はおじさんの後ろに隠れながらも俺を見ていた。
『君の名前はなんていうの?』
「紅沙花蓮斗」
「れ・・か・・・・い・・な・・だ・・」
『蓮斗君か。いい名前だね』
乃亜は聞きとれなかったと思ったのかまた、頭の中に響かせてきた。
「ありがとう。乃亜って名前もいい名前だね」
『ありがとう』
緊張がほぐれたのか乃亜はおじさんの後ろから出てきた。
「さて、自己紹介も終わったみたいだし。後は子供達だけにして、私達は久々にお喋りをするか」
「お、いいね。それじゃあ、早速行こう。んじゃあな、蓮斗。後で迎えに来るから、それまで乃亜ちゃんの相手してやってくれ」
親父たちはそう言って、部屋から出て行った。
「・・・・・」
「・・・・・」
俺達は親父たちを見送った後、ただ見つめ合っていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
まだ見つめ合う。
「・・・・・」
「・・・・(ぽっ)」
まだ見つめ合う。でも、何故か乃亜の頬が少し赤くなった。
『そんなに見つめられていたら照れちゃうよ』
また、頭の中に話しかけられた。
「あ、ごめん。所でこの頭に話しかけているのってなんなの?」
『これ?これはボクの能力だよ。ボク、喋るの得意じゃないから話す時はいつもこうやるの』
テレパシーみたいなものかな?
『所で蓮斗君って』
「レンでいいよ。親しい人達はみんなそうやって呼ぶから」
『じゃあ、レン。君はボクのこれを聞いてどう思う。怖い?変な人だと思う?』
「いや、全然」
『よかった。みんなはこれを聞いただけでボクに近寄んなかったから、寂しかったんだ』
「俺はそれだけでノンちゃんから離れたりしないよ」
親父から相手をしてやれって言われているしね。
『ありがとう。ところでノンちゃんってボクのこと?』
「うん。そうだよ」
『初めてだよ。ボクの事そう呼ぶ人は』
乃亜は本当に嬉しそうだった。
「よかったね。ところで、俺、ノンちゃんときちんとお話したいな」
『でも、ボク喋るの苦手だし』
「関係ない。苦手で間違っても俺は馬鹿にしない。だからお話しよう」
「うん」
今度こそ、きちんと乃亜の声が俺に聞こえた。
「あれ、ここは?」
俺は自分の部屋の天井を見ていた。
あ~、そうか俺朝食を喰う時に気を失ったんだっけ。しかし、懐かしい夢を見たな。あれって俺と乃亜が初めて出会った頃の記憶だよな。しかし、俺って乃亜のことをノンちゃんって呼んでいたんだっけ。
「ノンちゃんか」
俺は独り言のつもりでぼそっと言った。
「呼んだ?」
そしたら、俺の布団の中から乃亜が顔を出した。
「・・・・・いや、呼んでないけど何してんの?」
全然気が付かなかった。
「レンの汗を拭きとっている」
「ちなみに何で?」
乃亜の手に何も握られていなかったので俺は不信に思い聞いてみた。
「舌」
それは、拭くというより舐めるの間違いでは?
「ところで、熱は大丈夫なの?」
「ああ、朝よりは楽になったよ」
「そう、よかった」
乃亜は一安心したようだ。
「なら、もう少しで夕食を持ってきあげるから、もう少し寝ていてね」
「ああ、わかった」
俺はそのまままた眠りについた。
「おやすみ。レン」
「おやすみ。ノンちゃん」
俺はそう言って眠りについた。