ネーミングセンスは人それぞれ
『だめ。もう動けない』
自分は力尽き、どこかの自宅に倒れ込んだ。
あそこからの脱出のため、殆どの力を使いきってしまったからな。
『自分は失敗作じゃない』
白衣を着ている奴らが自分を見るなり何回も言ってきた言葉。
『廃棄されてたまるか』
自分の廃棄処分が決まった日に自分は、自分の力を使いあの場から脱出した。
『でも、それも無意味だったな』
結局、倒れるなら意味がない。
自分の意識がなくなっていくのがよくわかる。
『誰か助けて』
自分は誰にも聞こえない声で呟きそのまま意識を失った。
『誰か助けて』
「ん?」
俺は下校中にいきなり声が聞こえてきたので立ち止まり周りを見回した。
「どうしたの?レン」
乃亜が俺の行動に不思議に思ったので立ち止まり聞いてきた。
「いや、さっき声が聞こえてきたんだ」
「声?そんなの聞こえてこなかったよ」
「おかしいな。確かに聞こえた筈なんだけど」
空耳か?
「一昨日の疲れがまだ残っているんじゃないの?」
「そうなのかな?」
俺たちはまた歩きだした。
一昨日、俺は桃先輩の依頼でストーカー退治をした。その時、能力もかなり使ったので体のあちこちが筋肉痛になっている。ちなみに、ストーカーに殴られて付いた傷とかはもう完治している。
「そうよ。それより、早く帰ろうよ。今日はレンにボクが満足するまで可愛がってもらうんだから。しかも、ベッドの上で」
「あはは、遠慮しとくよ」
俺は苦笑いをする。
たく、こいつはいつも俺と既成事実を作ろうとしているから、困ったものだよ。
「なんでよ。可愛がってよ」
乃亜は俺に文句を言ってくる。
「やっぱり、レンはボクみたいな小さい女の子より、真衣ちゃんや桃先輩みたいな綺麗な人がいいんだ」
それから、いじけだした。
はあ~、なんでそうなるかな。
「乃亜、確かに真衣や桃先輩は綺麗だけど、お前はすっごく可愛いと思うぞ」
「本当?」
「ああ、本当だ」
「えへへ、ありがとう」
乃亜は嬉しそうに微笑んだ。
俺はそれを見て、照れてしまった。
あまり、こういうセリフは言うもんじゃないな。
俺と乃亜はそんな話をしながら自宅にたどり着いた。
「ただい」
そして、俺が家の鍵を開け、中に入ろうとしたら、中庭である生き物を見つけてしまった。
「ん?どうしたの?」
乃亜も俺に釣られて、中庭を見た。
そこにいたのは一匹の子犬だった。
いや、子犬みたいなものだった。何故みたいなのかというと、姿形は子犬なんだけど。毛並みは青く、背には羽が生えており、そして、一番気になったのが額に白い水晶が埋め込まれいたことだ。
「なんだ、これ?」
俺は子犬の首根っこを掴み、拾い上げた。
指先にぬくもりを感じるということは、生物でいいんだよな?でも、犬に翼が生えているなんて聞いたことがないぞ。
「かわいい。レン、ボクにも抱かせて」
乃亜は子犬?を見た瞬間、俺にせがんできたので、渡した。
「気持ちいい。ふわふわしている」
乃亜は子犬?を優しく抱きあげた。
「でも、なんだか元気がないね」
乃亜は心配しながら子犬?を覗きこむ。
「そうだな。見た所、衰弱しているみたいだし。早く家の中で手当てをしないと」
「なら、善は急げ」
乃亜はすばやく家の中に入っていった。
「やれやれ」
俺はその後ろに続いて家の中に入っていた。
暖かい。
自分は温もりを感じた。
死んだから暖かく感じるのだろうか?
自分はそう思いながらぬっくりと目を開いた。
「あ、起きた」
そしたら、目の前に赤い髪のツインテールの女の子がいた。
「レン。この子、目を覚ましたみたい」
女の子は嬉しそうに自分を覗いてくる。
「そう、大きな声を言わなくてもわかるよ」
そうしたら、奥の方からエプロン姿の蒼髪の少年がやってきた。
「うーん、とりあえずまだ意識ははっきりしていないみたいだな」
少年は鋭い目つきで自分を覗きこんできながら言ってくる。
どうやら、自分はこの二人に助けられたみたいだ。
『ありがとう』
自分はどうせ通じないと思いながらもお礼を言った。
「ん?」
そしたら、蒼髪の少年が周りを見まわした。
「どうしたの?」
女の子が不思議そうに聞いた。
「んー、また空耳が聞こえた」
「なんて?」
「ありがとうだって」
自分はこの時、驚いた。まさか、自分と繋がる人間がいるとは思わなかったから。
「もしかして、この子が言ったりして」
女の子は優しく自分を撫でてくれた。さっき感じた温もりはこの子だったのだろう。
「まさか。それよりも、もう少しで飯なんだがそいつのはどうすればいい?」
「一応、ボクたちと一緒でいいんじゃない?」
「わかった」
少年はそう言ってまた奥に行ってしまった。
「でも、良かった。気がついて、なかなか起きないから死んだのかと思ったよ」
少女はまた自分の頭を優しく撫でてくれる。
「あ、まだ自己紹介はまだだったね。ボクの名前は透咲乃亜。よろしくね。それでさっきの少年はボクの婚約者で紅沙花蓮斗っていうの」
乃亜は自分に自己紹介をしてくれた。
「君のお名前は何?って、見た所、野良みたいだし名前ないでしょ」
その通り、自分には名前がない。あそこでは周りの者たちは自分の事を実験体や失敗作と呼んでいたから。
「それじゃあ、ボクが付けてあげる。う~ん、そうだな。青い毛並みだからアオ。でも羽があるし、エンジェル?」
あ、この子。ネーミングセンスがない。
自分はすぐにわかった。
「おい、飯できたぞ」
そしたら、蓮斗がやってきた。
「あ、レン。今、この子に名前付けているんだけど何が良いと思う?」
「ん?名前?そうだな。アオでいいんじゃない?」
あ、駄目だ。この人たちネーミングセンス一緒だ。
「ただいま~」
そしたら、蒼髪で短髪の女の子が入ってきた。
「あ、子犬だ。どうしたの?」
「中庭で拾って、只今名前を付けているんだが。玲、お前なら何が良いと思う?」
「名前?そうだね、ミコトっていうのはどう?」
「ミコト?」
「うん。命と書いてミコト。翼が生えているし、額に水晶が付いていて、なんだか守護獣って感じしないかな?だから、みんなの命を守っていくって意味を込めてミコト。どう?」
ミコト。・・・・・なんかいいかも。
「ミコトか。いいね。それに決定。今日から君はミコトね。それじゃあ、今日からよろしくね。ミコト」
乃亜は嬉しそうに自分の名前を呼んでくれた。
「ん?ちょっと待て。今日からって、お前飼う気か?」
「もちろん。こんな小さい子をこんな世間に出すなんてボクにはできないよ」
「お兄ちゃん。私もこの子を飼いたい。きちんとお世話をするからお願い」
「玲。お前もか。わかった。いいよ飼っても」
2人ががんばってお願いしたおかげが、蓮斗は諦めたようだ。
どうやら、自分はここに住むことになったみたいだ。
「それじゃあ。飯しにしよう。ちょうど玲も帰ってきたしな」
「「はーい」」
2人は元気に返事をした。
「おい、ミコト。もちろん。お前も食べるよな」
蓮斗はそう言って自分の頭を撫でてくれた。
自分の中に暖かい温もりを感じた。