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乗ってしまった!このビッグウェーブに!!

「やっちまったなァ!」


 というのが、一般庶民の部屋ぐらい広いトイレに設置された鏡に映る、アニメチックな幼女を見た初めの感想。

 クルクルと緩くカーブするゴールドの髪、瞬きをする度にバチンと効果音が聞こえそうなほど大きいエメラルドの瞳、薄ピンクに色づいたプルプルのほっぺと唇。

 日本人ではまずあり得ない遺伝子のフルコンボだ。確定演出である。

 となれば思い当たるのは…

 

「異世界転生…」 


 そう、今はやりのアレである。いやはや、乗ってしまった。このビックウェーブに。乗るつもりは全くなかったのだけれども。



 まぁ、我ながら幸福な人生であったと思う。少し気弱な父と、それを補うように勝気な母のもとに生まれ、クソが付くほど生意気な弟と二人、愛情いっぱいに育ててもらった。

 平凡で退屈。そんなこの上なく愛おしい日々を一歩一歩踏みしめるように歩いて、生きてきた。

 だがしかしである。運命というか宿命というか何というか。どうやら私はそんな感じのある種”琴線”的なものに触れてしまったらしい。


 八月も間近のある日。私の通う大学も夏休みに入った。

 キャンパスが地方にあるため家賃やら生活費やらが安く済んだことを言い訳にバイトをサボり、多くの学生よろしく実家に帰省した私は、地元に特段仲の良い友達がいるわけでもなく。

 毎日ダラダラとソファに寝そべって、アイスを齧っては麦茶を飲み、スイカを食べては麦茶を飲み、某漫画の主人公の如くそれはそれは麦茶を飲む生活を送っていたわけだが。

 見かねた母に「アンタ買い物くらいは手伝いなさいよ」と炎天下の中、家を追い出された。

 何でも今日は弟の通う高校の修了式があって、普段寮で過ごしているバカが久々に帰って来るらしい。どうりで母が張り切っていたわけである。

 せっかくだからお姉様が迎えに行ってやるか、と買い出しを済ませたスーパーの帰り道。そのまま弟の通う高校まで車を走らせていた途中の出来事である。

 どこの神からの天罰であろうか。事故だか事件だかに巻き込まれて、死んだ。

 享年21歳である。若い、若すぎるぞ杏○郎。

 実に短い人生であった。が、これといって特筆すべき未練もない。強いて言えばもう一度ママの作ったカレーが食べたかったくらいである。


 最期の最期に脳裏で見たのは弟の不器用な笑顔だった。

 

 ゴチン、と頭蓋骨の砕ける音がして、暗転。

 以上が私の人生の幕引きというか、前世というか…生前というか。

 とにかく私がこの身体に入る前のお話である。


 ◆


 あの日。私は”死んだ”という解釈で間違いないだろう。

 なにせ上半身と下半身の泣き別れ、ゴチンという脳天まで響くような音がなった後に視界がシャットアウト。目が覚めると身体が縮んでしまっていたのだ。勘弁してくれ蘭姉ちゃん。

 推定年齢十歳前後。若くてピチピチ(死語)な全く見ず知らずの西洋美少女の身体にコンニチワしてしまったわけである。

 見た目は子供、中身は21歳の合法ロリが爆誕してしまった。

 

 (にしてもなーんか見たことある気がするんだよなぁ、この顔)


 いや思い出せないけど。

 むむ、と顔をしかめた私に鏡の中の美少女が連動する。物凄い違和感だ。感覚としてはアバターに近い。

 前の私(本来の私?)は黒髪黒目でザ・アジア人!という容姿だったので、この外国のお人形みたいにかわいい見た目にはしばらく慣れそうもない。

 

 さてどうしたものか…とふわふわのおててをほっぺに添えて、目を細めたその時。


 「姫様っ、ご無事ですか!?」


 ドゴンッ、ととんでもない音がなって、トイレの扉がブチ破られた。え?なんで?

 

 (ていうか、ひめさま!?………姫様!!? ヤバい思い出した!!!)


 脳にコンセントを刺されたみたいに電流が走る。

 瞬間、駆け抜けたのは「彼氏いない歴=年齢」だった私の拠り所になってくれていた、愛おしいラブストーリーたち。

 そう、この子の名前はアリス・スプリング。

 なにを隠そう。高校時代の私がハマりにハマった乙女ゲームの、悪役令嬢(王女)ちゃんである。


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