25、旅行前日と、純と、素と、絃
25、旅行前日と、純と、素と、絃
アパート「水車」、屋上。
埃被ったでこぼこのタイル床に、元の姿も知れないくらいに錆びた鉄板や、「立ち入り禁止」と書かれていたであろう、色褪せた看板が辺りに散らかる。
所々にゴミの山を作って、あたりのビル風を呼ぶ。
その、あと一歩踏み出せば落下する、アパートの角の、灰色の手すりに体重をかけている「少女」。
透き通った夜風を聞きながら、何かを考えている。
銀髪が流れ、「少女」の顔をさりげなく隠す。
「そこにいたのか、素」
素は驚いた顔をして、振り返った。その声なら、安心して受け入れられる。
屋上につながる階段の、壊れかけた門に寄りかかり、純は腕を組んで俯いていた。
「純……」
安心すると直ぐに、素は崩れ落ちた。
膝をついて、両腕で顔を隠し、うずくまる。すすり泣きが、かすかに聞こえてくる。
だが純はただチラッと素の姿を確かめただけで、ため息をつくと再び頭を垂れた。
「もう……行かなきゃ…いけないのかなぁ…───ねぇ、純…お願いだがら、返事しでぇっ……」
「……」
「ね゛ぇえ……っ……じゅーんー……!!」
「……知らねぇよ。おれに聞くな」
その時、純も素も、同じことを思っていた。
あの二人の少女───あやと、こまちと別れたくない。
だが、双子はわかっていた。
あの「噂の県」の最高権力者の到来。
それは。
─────近いうちの死を予言する。
別れの、知らせだ。
「……ほんとに…こんな仕事を最初からやらなければよかった」
素はそう言って涙を拭い、立ち上がった。それからおもむろに、服の中から────。
拳銃を握りだした。
純があやに向けたのと同じタイプの銃。
「噂の県」───「乱神県」、最新式の拳銃だ。
「……死ぬ前に、言い残したことはある?」
「おれはねぇよ……にぃにぃは?」
────ガチャッ。
純も苦い顔をして笑い、素の顔に銃を向けた。
にまっと口角をあげた素は、軽く首を横に振る。
「……ない」
────これで……
────終わりだね。
「「さよなら」」




