1、第48県と、異能と、ランタン少女
初めまして 最近ティラミスにハマってるめっちです♪
ストーリー、いかがでしたか?……って、ここ前書きでしたぁああ……っ!!
……
さて、早速!!
どうぞお読みくださいな♪
1、第48県と、異能と、ランタン少女
「まーたあの『噂の県』、ですか」
暗闇の図書館のカビた壁に、ほのかに揺らめくふたつの影。
少女、二人。
その片方───背の低い方がやれやれ、とため息をつくと、もう一方が、
「うん。千葉の港を手に入れたらしいね」
と頷いて応えた。
死んだように静かな、本の密林。その隙間を少女二人はすり抜けていく。
「きゃあっ」
突然、少し背の高い方の少女が叫び声をあげる。それに続くような、大きな物音の余韻。
ぼんやりとした光が、大きく振動した。
片付けがなされず放置されていた本の山に、どうやらつまずいたようだ。
コロコロと、何かが転がる音がかすかに響く。
「大丈夫ですか!?」
駆けつけるもう一人。両手を伸ばす。
「うん、平気平気。ありがと……あちゃー…ごめん、ランタンがどこかに行っちゃった。えっと確か棚の向こうに転がっていったような気はするんだけど……」
しゃがみ込んで、むぐぐぅ、と棚の奥に手を伸ばす。
「…取れないなぁ」
「大丈夫ですよ。また『作ります』から」
「おおっ頼もしい」
一息置く。
「──────『綻び放て、ナイトフェス』!!!」
言葉が降りた途端、部屋中は一瞬パッと明るくなった。
詠唱したほうの少女の小さな手に、真新しい鉄製のランタンが握られる。もう一人が棚の下から手を戻し、手を叩きながら、
「おおおおおおぉぉ〜、助かったー! ……やっぱりアヤちゃんの異能、面白いよねー! 見飽きない♪」
「えへへ…。コマチちゃんだってすごい技沢山持ってるじゃないですかー」
そう言って照れたのは、わたし、「火丁あや」、高校一年生。
黒髪セミロングの一角をヘアゴム束ね、カチューシャをつけるという割とシンプルなスタイル。服装は制服のままだ。
「えー、そお?」と返す少女「夕夕こまち」。
わたしが、約一か月前に出会った女の子だ。
わたしの相棒、親友。
一つ年下だが、背は彼女の方が高い。羨ましい。
ハイツインテールと派手なピンクリボンに、白黒のチェック柄のワンピース。わたしとは真逆で、元気で明るい性格だ。
「……それで──────」
オレンジ色の光を散らすランタンを本棚の一番下の段に置き、わたしはスカートを気にしながらしゃがんだ。
「あの『噂の県』が、異能を受けている人を…………海外から受け入れようとしている、と…?」
「そうそう」
噂の県。
異能。
────この二つについて、少し説明をしよう。
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日本は元々、何百年前くらいまでは「四十七都道府県」体制であった。
ところが、ある日。
──────────「第48県」が誕生した。
ちょうど世界中で突然、「特殊な能力を持つ者」が現れ始めた頃だ。
ある者は就寝中に与えられ、ある者は生まれた時にそれを得る。
───────それはしだいに「異能」と呼ばれるようになった。
『神様の褒美だ』と喜ぶ者がいれば、『試練だ』と嘆く者もいる。
そして。
────人々が口々に話題を膨らませている間に、新しい県は爆誕した。
「噂の県」。
東京都、神奈川県、静岡県、山梨県から土地を奪い、異能を持つものを集め、奴隷を集め、日本中の大手会社と手を結ぶ。
「帝国」のような存在なのだ。
……ある噂によると、東京都が約三回にわたって特殊武装隊を「噂の県」に忍び込ませたが、一人も帰って来ることはなかったらしい。
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「やっぱりちょっと暗いかな───『綻び放て、ナイトフェス』!!!……はい、コマチさんもひとつどうぞ」
もうひとつのランタンを手から製造し、わたしはコマチに渡した。
照明を受け取り、ニコッと笑うコマチ。
かわいい。
「ありがとっ」
「いえいえ。なんなら百台くらい用意しておきましょっか? あ、ストーブでもいいですが」
「……片付け大変じゃない?」
わたしも、コマチも、「異能」を得た「異能力者」だ。
「異能力者」などと聞くとなんだか強そうなイメージがあるかもしれないが、現実は厳しいものだ。
わたしの「異能」は、これだ。
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《照明》
『照明器具類を身体から、体力のある限り生産することが可能』
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ボツ。
……見ての通り、戦闘能力ゼロのハズレ能力だ。
「お前も能力者か。一発殴らせろ(要は戦え)」……なんて言われたら一瞬で首が吹っ飛びそう。
実際、わたしは異能を得てから、上級者らからの嫌がらせを度々受けてきた。ダメージはなくとも、いい気分ではない。
みんなわたしと同じで、照明製造機になればいいのに……
「「…………」」
しばらくの間、わたしたち二人は喋らなかった。
適当に本棚から気になった本を取って、ペラペラめくっては、元の場所にしまう。
迷路のような夜の図書館の中を歩き回る。
そばで、ふはぁっと大きな欠伸をするコマチ。目を擦りながら、あちこちを見回している。
(もう深夜ですね……そろそろ寝るところを見つけなきゃです…)
……ピタッ。
突然、コマチが立ち止まった。
「……どうかしましたか?」
「アヤちゃん」
「…はい」
だが、気を遣ってくれて、言葉を頑張って選んでいるのか、しばらく会話は途切れた。
それから、
「あなたってまだ───────逃げてるの?」
「……っ!……」
わたしはハッとなって、目をそらすようにそっぽを向いた。
そして、言葉の代わりに軽く頷き、本棚に寄りかかる。
曇った大きな月が、高い夜窓の外に浮かぶ。
「まだ、…嫌い?」
何がと聞かなくても、異能のことだとわかった。
「……あの時ほど、嫌いでは無くなりましたけどね」
「……そう。───確かに出会ったばっかりの時のアヤちゃん、毎日のように『早くポテンシャル消したいですー!!』って叫んでいたもんね」
「えっ、そんな叫んでいましたか!?」
「夢の中で」
「夢の中……!!」
異能《照明》。
もしも、もっと強い能力だったら。
あるいは、いっそ能力ごとなかったら。
─────わたしは今どれほど幸せなんだろう。
この一ヶ月間、わたしはずっとそんなことを繰り返し思っていた。
この世界には、一つの鉄則がある。
『異能力者は、目立つ。狙われる。』
弱ければ、弱いほど。
なおかつ、強ければ、強いほど。
狙われても、コマチみたいに圧倒的な強さで押し切ることができるならまだしも…
「まあでも、やっぱり居づらいのは変わんないです……」
「まぁ、でしょうね。狙われるもんね…」
そう。
授業中でも。就寝中でも。
生きていれば、必ず。
わたしみたいに、日常的な能力しか持たない人にとって、その差別と虐待は耐えられるものではなかった。
だから逃げようとした。
ずっと。ずっと。
中学一年生の頃の「某日」から、ずっと。
逃げて、逃げて、逃げて。
とにかく、自分の能力持ちの事実を隠す。
そして、力試しの猛者なんかに出くわさないように、慎重に毎日を送る。
苦しい。
苦しいけど、死ぬよりはマシ。
『あいつは異能持っていても弱い。虐めてもいいヤツだ』
──────早く、一刻でも早く、そんな悪夢から開放されたい。
異能を、消したい。
いつもの生活に戻りたい。
……まあでも、そう思うと。
「──────コマチさんとであって、良かったです」
そう言って、吸い込まれるように月を見つめたわたしは、傍から微かないびき声が聞こえた。
わたしの肩に頭を乗せて、すっかり眠ってしまったコマチ。
コマチさんがいなかったら、今は瓦礫の下に埋もれていたのかもしれない。
八つ裂きにされていたのかもしれない。
少なくとも、生きる気力はなたったと思う。
ふと彼女が何かを呟いたのが、耳に届く。
「…しんゆう……」
親友。
そうですね。
……そうだ。
あの時。
血みどろの視界。
緋色の濁った空。
そこに、一筋の光が差し込んだ。
夕夕こまちと、出会ってから。
ちょっとずつ、ちょっとずつ。
わたし、ランタン少女は変わっていった────────。
あれはちょうど、一か月前のことでした。
いかがでしたか?
あやちゃんと、こまちちゃん……寝ちゃいましたね…。すやぁ…
次から、回想が入ります♪
さぁ、一体どんなことがあったんでしょうか……!?