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長政記~戦国に転移し、家族のために歴史に抗う  作者: 象三
第一章 家督の継承と織田家との同盟
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九 浅井の一族

1560(永禄3)年10月上旬 近江国小谷城 浅井新九郎

 姉たちを訪ねてから数日後、親戚の一人が訪ねてきた。

 小姓から来客を伝えられ、客間として使っている部屋に行くと、平伏している者がいた。

 「新九郎殿におかれては、浅井家の当主となられた由、誠に重畳至極に存じまする。」

 「伯父上、顔をお上げください。それに堅苦しい挨拶も止めてください。」

 来客は井口経親いのくちのりちかだった。亡くなった母の兄である。

 「いや、当主となられたからには、主君と家臣の関係だ。」

 「人前ではそのように振舞うべきかもしれませんが、このように余人のいないときは以前のように接してください。」

 「それが殿のご希望であれば。」

 一礼してから、叔父上は以前の話し方にもどった。

 「新九郎殿、家督の継承、本当におめでとう。それにあの久政を竹生島に追放すると聞いた。嬉しさのあまり、駆け付けた次第だ。」

 久政の母に対する仕打ちに腹を立てていた伯父は、母が亡くなってから伊香郡の領地に引きこもっていた。

 「ありがとうございます。もう父には実権は渡しません。」

 「是非そうしてほしい。それに儂がそなたの家督継承を喜ぶのは、あの男への恨みだけではない。戦上手な当主を得たことで、浅井家は生き残る目が出てきた。評定では外交にも知見を示したと皆は騒いでおる。息子が優秀な当主に育ったことを妹も泉下で喜んでいるだろう。」

 伯父は途中から穏やかな口調で祝いを述べてくれた。

 長政の記憶では、父の久政との間には家族としての情は無く、母が亡くなってからも親身になってくれた伯父こそが年長の家族だった。ずっと長政の身辺の世話をしてくれた老女は井口家の人だ。

 「母が少しは喜んでくれているのであれば嬉しく思います。しかし私はまだまだ至りません。これからは小谷城に顔を出して、支えてもらえますか。」

 「もちろんだ。これから井口家は新九郎殿を全力で支える。」

 真心のこもった声というのは、温かいものだな。

 「ありがとうございます。早速ですが、伯父上は水車みずぐるまをご存知でしょうか。」

 「聞いたことはありますが。」

 「浅井家を大きくするのは戦ばかりではないと思っています。米の収量を増やし、高値で売れる産物を開発し、民を富ませ、税を多く得ることも肝要と思います。そのために水車が必要なのです」

 「当家はご承知のとおり、高時川の水を管理してきました。水車を作ることはできます。」

 「おお、それは嬉しいことです。」

 良かった。これで揚水水車と米を磨く水車を作れそうだ。


 また数日が経ち、領地の北西の端である高島郡高島郷から伯父が訪ねてきた。

 名を田屋明政という。祖父の亮政の長女である鶴千代の婿だが、祖父は実子の久政ではなく明政に後を継がせようとしていたらしい。明政は亮政の通称である「新三郎」を受け継いでいる。しかし亮政が急死したことで、お家騒動にならないように身を引いたようだ。

 名前も浅井明政と名乗っていたのを旧姓の田屋に戻した。家中には、お家騒動を避けた明政を称える声と、当主にならないことを惜しむ声が相半ばしたという。

 「新九郎殿が久政から家督を奪ったこと、祝着至極に存じます。あの戦下手では乱世を生き残れますまい。これで浅井家も盛り返せるというものです。」

 「伯父上、私の家督継承を祝ってくださり、ありがとうございます。」

 「いやいや、新九郎殿が当家の主じゃ。そのような話し方はお止めくだされ。」

 「当主になったとはいえ、伯父上が一族の先達であることは変わりません。」

伯父とはそこまで深い付き合いはなかったが、浅井家を国人領主から大名にした祖父が見込んだ人物だ。

当主となった久政よりも器量は上だと家中でも言われている。粗略に扱いたくない。

 「新九郎殿は戦に強いばかりではなく、政も秀でていると皆は申しておる。頼もしい当主が現れて、あの世で義父も喜んでおられよう。」

 「ありがとうございます。しかし、浅井家は西に六角、東に齋藤と大きな敵を抱え、舵取りは容易ではありません。私にはまだまだ力も経験も足りません。この難局を乗り切っていくために、伯父上の力をお貸しください。」

 「確かに浅井家の周囲には難敵も多い。しかし、新九郎殿は若いのに大勝利に浮かれることもなく、冷静に状況を見ておられる。何とも心強いことじゃ。儂に出来ることがあれば、何でも申し付けてくだされ。」

 田屋の伯父上ならば、重要な役割もお任せできるだろう。

 そして、田屋家は浅井一族であるだけでなく、三好家の外縁でもある。確か歴史では、田屋家の末裔は三好家を名乗り、徳川家の旗本となっていたはずだ。

いずれ京を支配する三好家と外交する際には頼りにさせてもらおう。

 その前に高島郡だ。

 「心強く思います。ところで早速ですが、伯父上の領地は高島郡にありますが、高島七頭の中心である高島家について、お伺いして良いでしょうか。

 「高島家のことであれば、隣にあるので、それなりに調べております。」

 「それはありがたい。」

 高島七頭は東西の六角、斎藤と違い、浅井家よりも小さい勢力だ。なるべく早く呑み込みたい。


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