第四話 悪役令嬢、従者を恋人と勘違いしたまま過ごす
手紙を書き終え、便箋を封に入れグルリー商会会長の焼印で封を綴じる。蝋を垂らして持ち歩いてる印を押し付けるのだ。
コンコン――
「どうぞ」
「失礼します」
ベストなタイミングで商業ギルドのギルド長が直々に金を渡しに別室へ入ってきた。
そう、なにせロルフはグルリー商会の創設者。王家御用達の商会の会長様なのだ。ギルド長が直々に来ておかしくない人物までのし上がっていた。売り込むのに何度もギルド長とも対面している。
「今回は金貨ではなく全て銀貨でとの要望でしたので、こちらとなります」
「ああ、ありがとう」
マジックアイテムである、収納袋(小)に使いやすいように全てを銀貨で頼んで入れてもらう。
銀貨は日本円でいうところの千円札だ。
銅貨1枚が百円、銀貨1枚が千円、金貨1枚が一万円、大金貨が十万円、白銀貨1枚が百万円、白金貨1枚が一千万円だ。
一応、更に上もあり黒銀貨1枚が一億円、黒金貨1枚が十億円であるがあまり登場しない。ほぼ、白金貨10枚で一億円は対応されるし、数億単位で常に商売する商会にしかない。人生で一度も見たことない人々がほぼだ。
最も世に出回るのが銅貨と銀貨。金貨すらこの異世界ではあまり店では見ない。ジャラジャラと銀貨を大量に支払うのが一般だ。日本で一万円を出しても驚かれはしないが、この異世界では金貨を出すと少し驚かれる。千円札を何枚も出すようなシステムだ。
大金貨なんて見せたらどこの貴族だと驚かれるし金貨がそれ程市井では流通してない為に釣りに困らせることになり、扱ってないと言われてしまうのがここでの常識だ。白金貨なんて市井じゃ見ないから使えもしない。
主に、商業ギルドでの大きなやり取りにだけ使われる。何万円単位で動く取引にのみ使用されるのが白金貨、白銀貨、大金貨だ。
もっぱら、百万単位でのやり取りになると大金貨はあまり登場しないので、主に白金貨が主だ。
市井では銀貨、商業では白銀が使用される貨幣のメインになる。
この通貨はギルドが発行しており、ギルドがある国ではどこでも使える。ギルドはほぼ全国にあり、隣国にもあるので問題なく仕える。
魔族の国以外のドワーフ、エルフ、人間、と別の種族間ですらこの貨幣は使えるのだ。
「あと、馬車を五日後に手配するよう商会に依頼したので、こちらで引き取りをお願いすると思います。何かあった場合は宿泊してる宿へ連絡をお願いします」
宿の名前を書いて渡した。
「かしこまりました。本日は商品の購入は如何されますか?」
いつもなら、新商品を売り込みに来るか大量の米や緑茶を購入したりしている為、新商品の売り込みでないのなら購入と思っているのだろう。
「ああ、今日は会長として動いてなくてね。妻とお忍びデートをしようと思ったんだが具合を悪くしてしまって…そうだ。ギルド長に一つ頼みがある」
本当なら、レリーナが記憶喪失にならなければ、お嬢様と従者の関係のまま道中は過ごし、隣国に到着した時にネタばらしをしようと思っていた。
その為にマジックアイテムは没落貴族になった公爵家から出るのに持ち歩いているというのもおかしくなるので隠していたのだが、まさかの事故でレリーナは記憶喪失になり、荷物を諦めなければならなくなったりしたので計画変更でオープンにしようと思う。
「なんでしょう?ははぁ、噂の奥様へのプレゼントですか?」
心得たとばかりにギルド長が笑みを浮かべる。残念ながら宝石を買ったりしようと思っているわけではない。
ただ、レリーナへのプレゼントというのは正解だ。
「ああ。実はここへ来るまでの道中で事故にあってね。色々すでに商会へ手配を依頼はしたが五日後になる。そこで、ここに滞在中に着る服を何着かお願いしたいんだ。旅の途中ではあるから軽装で、それでいて公爵令嬢でも喜んで着るような上質な素材でドレスワンピースを何着か用意して欲しい」
「ドレスワンピース、ですか?グルリー商会がこの街にも降ろしてる店舗分の在庫ならありますが…グルリー商会会長が商会ギルドで注文ですか?」
そう。ドレスワンピースも日本の現代風のやつを俺が流行らせた。どうしても貴族がお忍びで市井に行く時は裕福な商人のような服装になるが、どうしても貴族から富裕層の平民へと流行が下へ広がる関係から、レリーナからすると流行遅れのそれも下位貴族が着る服に感じてしまうようで、お忍びをしたがるのに着るのを嫌がった為に俺が公爵家に出入りするデザイナーに受注したのだ。もちろん特許を取った。今ではそのデザイナーもグルリー商会お抱えデザイナーになっている。
だから、降ろした自社製品を仲介業者から会長が買い戻すようなものだ。
「ああ。あと男物も数点見繕ってくれ。それとポーションも欲しい」
予定変更して道中からオープンにすることにしたのだから、そもそもそんなに用意がなかった上に事故で着替えも失った。ここはせっかくの会長というポジションをフル活用して服を何着も用意してマジックアイテムで収納してしまい今後は豪華に移動することにした。
「商業者用ポーションでよろしいですか?冒険者用ポーションは数が少ないながらもいくつかならご用意できます」
冒険者用ポーションとは、冒険者ギルドで販売されているポーションだ。冒険者の為に開発されたポーションであり、馴染みの回復アイテムだが、即効性があり味は改良され悪くはないが機能性重視で美味くはない。初級ポーション中級ポーション上級ポーション最上級ポーションの四種類だ。
商業者用ポーションとは、商業者ギルドで販売されているポーションだ。ジェネリック薬品のようなもので、冒険者の為に開発されたポーションを商品化しようと味にこだわった品になり、冒険者用ポーションとは違ってバリエーションが豊富だ。即効性のものもあればゆっくり効果を発揮するものもあり、とにかく飲みやすく味が美味しい。一応こちらも初級中級上級と分類はするが数が違う。最上級はまだない。
ちなみに、協会ではどちらも購入できる。協会が薬局のようなもので、ポーションを作ったり販売していたりするからだ。冒険者ギルドは冒険者用のみで、冒険者用などとも呼ばない。商業者ギルドでは一般では商業者用ポーションしか売られていないが、お得意様には求められれば何でも売る精神から数は少ないが冒険者ポーションも売る為にあったりする。
「商業用ポーションと冒険者ポーションそれぞれ2つずつ全種用意しておいてくれ。今持ち帰るのに商業用ポーションを1つ用意して欲しい」