今の幸せ
処女作となりますので文も下手だと思いますし、投稿スペースも遅いかもしれませんが温かく見守っていただけますと幸いです。
あなたは大切な誰かを失ったことはあるだろうか。俺、大友和樹はまだ四十二年しか生きていない人生でそのような体験をしたことはなく、そんな自分を幸せな奴だと思う。もちろん今は幸せだがこれからどうなるかわからないし、俺だって簡単に幸せを掴んだわけじゃない。色々な人や環境があったからこそだと思う。
会社の扉が開いたところで肩がすくむような風が吹いた。会社を出る前から覚悟していたとはいえ暖房のかかりきった部屋からいきなり外に出れば、自然と声は出てしまうものだ。
「さっむ!!」
「大友先輩声大きいっすよ」
「しょうがねぇだろ、寒いもんは寒い」
「まあ、真由さんが言うにはマイナス二度っすからね」
「お前もいい加減、お天気お姉さんのことを名前呼びするのやめろよ」
「僕はあの人を嫁にします」
「週刊文春が熱愛報道とか言ってたけどそれでもいいのかよ」
「あ、先輩!街が輝いていますよ!綺麗ですね!」
露骨に話を変えたこいつはお天気お姉さんにガチ恋をしている小山だ。街が輝いて見えるのはクリスマスの味方、イルミネーションである。定時で仕事を終えたから夜ほど輝いていないが十分綺麗だ。
世の中はクリスマスで、ビルやイルミネーションが祝福しているようにも感じる。まあビルの光は誰かの残業でうまれているわけで確実に祝福はしていないだろう。
「大友先輩、クリスマスなのに真由さんが相手してくれないので飲みに行きましょうよ。」
「お前のその妄想はかなり気持ち悪いぞ」
「今の彼氏と別れて僕にチャンスが回ってくるかもしれないじゃないっすか!」
「結婚報告もしてたけどな……」
「それは言わないでください!!で、先輩生きますか?」
「いや、俺は愛する妻と娘のためにケーキと花束を買って即帰る」
「先輩ってラブラブっすよね」
「当たり前だ」
照れる人もいるだろうが俺は誇らしいことだと思う。幸せが滲み出ているも同然でクリスマスはそんな愛する人に日々の感謝と好きという気持ちを伝えるための絶好のチャンスだ。別に何もない日に伝えるのもかっこいいが、あまり伝えすぎると薄っぺらく感じてしまうだろうから俺は言わない。
「先輩って特別な日には敏感ですよね、何かあったんですか?」
「……まあな」
「歯切れ悪いですね、結婚記念日でも忘れて怒られたんですか?」
「そんなんじゃなくて、色々あって絶対に忘れないようにしてるんだよ。あ、俺はこっちだからじゃあな」
「あ、はい。その約束聞かせてくださいね!お疲れ様です!」
「おう、お疲れ」
俺がそう思うようになったのも二十五年前のことがあって……美月姫がいたおかげだ。美月姫がいなかったら今の俺はいないだろう。今もあの時みたいに黒いボブカットの髪の毛を揺らしているのだろうか、俺みたいにケーキと花束を買っているのだろうか……。そうあいつのことを考えていると自然と目は空に上がり、あの時みたいに空で三日月が俺を見下ろしていた。
程なくしていつもより少し高い店でケーキと花束を買って家に向かう。店で娘の好みをとるか妻の好みをとるか悩んだ結果、両方とも買ってしまったが今日くらいはいいだろう。花束は妻のためだし小山が言っていた通り本当にラブラブだと思う。そのおかげでボロボロで茶色の財布はかなり軽くなったが今日は二十五日、つまり給料日なので全く問題はない。妻にはいい加減買い換えたらどうかと言われる財布だが、換えるつもりは全くない。
悩みすぎたのかさっきより暗くなっておりイルミネーションが眩しくてついつい眉をひそめてしまう。街にもカップルが増えてクリスマスらしい街になったと思う。
夜のはじめ頃、住宅街が立ち並ぶようになると大規模なイルミネーションもなく、チカチカとクリスマスツリーが光っており住宅街らしい静かなクリスマスになっていると思う。俺の家まではまだ少し歩かなければならないが、なぜかいつもより足が軽くて早く家に帰れそうだ。
家の二階に電気がついているので、来年高校一年生になる娘の美樹がいるのだろう。毎日思うことだが電気がついているだけで嬉しく思う。かれこれ二十年くらい毎日握ってきたドアだがクリスマスの日はなぜか緊張する。冬の空気を味わうように一気に息を吸ってからドアを開ける。
「ただいまー」
すぐに二階からドタドタと音がして美樹が階段から降りてきた。
「おかえり!」
「ただいま」
美樹は黒髪ロングヘア、贔屓目なしで我が娘ながら整った顔で可愛らしい顔をしている、動きもめちゃくちゃ可愛い。
世の娘は絶賛反抗期だと思うが全くそんな素振りはない。正直めちゃくちゃ嬉しい。
「あ、ケーキだ!冷蔵庫まで持ってくよ」
「ありがと」
そうしてリビングに続く扉を開けるとキラキラと光るクリスマスツリーが見える。我が家もクリスマスを満喫するために毎年こうして家を飾るのだ。
「花束まで買っちゃってホントに好きだね~」
ケーキを冷蔵庫にいれながらニヤニヤといじらしい顔をするが俺には全く効かない。
その間、俺は妻へ渡す花束を隠しておく。
「いいだろ?」
「うぅ…正直羨ましい」
「美樹もいい相手が見つかるといいな」
「いないんだよね~」
ケーキをしまい終えた美樹はソファに座り項垂れている。
「学校にはいないのか?」
「うん、高校生になったらいい人見つかるかなー」
「美樹なら余裕でみつかるだろ」
「お母さんにラブラブなお父さんが言うならそうなのかなぁ、お母さんを捕まえた人だしね~」
「まあ相思相愛だからな。別に焦らなくてもいいんだぞ」
「私も素敵な人と出会って、結婚して今みたいな楽しい家庭をつくろ!」
「じゃあそのためにも、今日はお母さんの代わりに夕飯を作ろうな」
「うん!なに作るの?」
ソファから身を乗り出してキラキラとした目で聞いてくる。
「美樹が好きなハンバーグとあいつが好きなミネストローネ、そしてクリスマスといえばローストチキンだろ!あとは、適当にサラダを作って終わりだな」
「いつも通りお父さんが好きな食べ物はお母さんが作るんだね、まだ帰ってきてないけど」
「七時半には帰ってくるんじゃないかな」
時刻はまだ六時なので今から料理を作り始めても余裕で間に合うだろう。美樹はハンバーグはやたらと上手にできるので任せていいだろう。そして俺はミネストローネとサラダを作っておこう。よく作るメニューだが今年はいつもとは違うアレンジをしようと思う。毎回同じでも面白くないからね。
三十分程でミネストローネとサラダが完成し、程なくして美樹が作るハンバーグが完成した。とはいえみんなが揃うまではハンバーグは焼かないので完成とは言い難い。ソファでお茶を飲んでいたら美樹が隣に座った。
「ねぇ、お父さんの初恋ってどんなのだったの?」
「どうした?気になってる奴でもいるのか?」
「そうじゃない!単純にお父さんがどんな恋をしてたか気になるだけ……」
「そうか?かなり長くなるぞ?」
ニヤニヤしながら言うと少し嫌な顔をされた。
「……えぇ、初恋がそんなに長いの?」
「今も影響与えてるからな」
「うわっ、初恋拗らせたんだ」
「ある意味そうかもな、じゃあお母さんが帰ってくるまで話そうか」
話を始めようとすると美樹の顔が引き締まって、そんな顔も可愛いなぁと思う。
「今から三十五年くらい前のことで七歳かな。彼女は家の近くに住んでいて幼馴染というやつだ。後からその衝撃の感情を知ることになるが完全な一目惚れだった。」
これは俺たち幼馴染4人が美月姫を中心に巻き起こす、小さい俺たちから今までこれからも続く絆と償いの話である。