はじまり
それは太陽光が燦々と照らしつける真夏の暑い日の事だ。僕達はファミマシでドラゴンバスターズに夢中だった。仲間と広大なマップをモンスターを倒しながら、レベルを上げ、様々な街や村での事件に直面し、解決する。そして、全てが整った状態でラスボスに挑み、勝利すれば物語は完結。単純でわかりやすい。しかし、その中にも様々な深みがあり、少年達の心は鷲掴みにされ、友人や人によっては親とまで議論を交わす程の大ヒットしたゲーム。ドラゴンバスターズ。続編がリリースされ、現在もその熱狂ぶりは変わらない。大人になったあの頃の少年達も深く思い出に刻み込み、今を生きているだろう。日常の中では忘れていても、時々思い出して、過去の楽しかった日々に思いを馳せる。何の展望もない現代社会を生き抜くためには適度の息抜きが必要なんだと僕は思う。
今日は昔の3人との飲み。新作ドラゴンバスターズ10の感想を言い合う事になっている。と言っても、新作が発売される度にこの集まりがあるのだが、結局原点である1の話になり、終始それで盛り上がる。冷たい社会で生きる大人達の息抜きのひとつだ。店に着き、3人と合流。巨漢で強面だが誰よりも優しい洋七郎。真面目そうなメガネとスーツ姿からは想像もつかない女癖の悪いクズ野郎の蒼太。小柄でお喋りで天真爛漫という言葉が似合うお調子者の俊平。そして、一番無個性で、体型や性格など標準で、身長、体重や女性関係に至ってもその歳の平均値を見事に叩き出しており、よくもこの個性の塊のような3人と仲良くやっているなと少し自画自賛する僕、孝の4人によるドラゴンバスターズ座談会が始まった。
一通り、新作の話をした後、やはり今まで通り初代の話になり、少年時代の話で盛り上がる。好きだった女の子の話から、好きだったテレビ番組、ゲーム、音楽など様々で話題はその時々による。今日は少年時代の夢の話だった。洋七郎はパイロット。蒼太はロックシンガー。俊平は芸人。そして、僕は作家。その夢のためにこんな事をしていた、あんな事をしてきたという話で盛り上がり、やがて今という現実とのギャップで落胆。あの頃の記憶が蘇り、何か鬱憤めいたものが、4人の心で渦巻く。そして、僕はふとこんな事を口に出す。
「ドラゴンバスターズの世界に行けたらな〜。」
全員が何を馬鹿な事をという反応で、それならどれだけいいかとまたドラゴンバスターズの話で盛り上がる。そして、夜会は程なくして終わり、僕達はそれぞれの生活へと戻るはずだった。
しかし、4人の前に現れたローブを纏った人間らしきもの。意味のわからない言語を発しながら、こちらへ向かってくる。全員の顔が緊張から恐怖へと変わり、一目散に逃げるも洋七郎、蒼太、俊平、僕の順番でローブのひとつに飲み込まれ、言葉では言い表せないような身体的感覚や不安と恐怖と焦りで心はめちゃくちゃ。まさに死んだという事を悟った瞬間だった。
そして、目が覚めるとどこかわからないが青空が広がっており、心地のいい風と温かい空気が漂っていた。一瞬死んだかと思い、体を起こすとそこには3人が横たわっていた。とりあえず3人を起こし、自分達の状態を確認し合いながら、死んだのかや超常現象でどこかへ飛ばされたのかなど考えをはりめぐらせている内に蒼太がある事に気付く。
「ここ、トスタータ平原じゃね、、、?」
すかさず洋七郎が肯定する。
「絶対そうだよ。始まりの平原だ。やっぱり僕達死んで天国か何かに来ちゃったのかな。だから、僕達の大好きなゲームの世界がここにあるんだよ。」
そんな話をしていると背後から気品のある女の声がした。
「ここは紛れまなくトスタータ平原です。しかし、天国とは違います。」
その女の周りには執事のような男が5人ほどおり、全員がこちらを見ている。鼻が高く、金髪で青い瞳。絵に書いたような白人の美しい女がその中央にいた。自分達がいた世界であれば見とれていただろうが、そんな余裕はない。しかも、天国ではないと言った。つまり死んではいないか地獄だという事だろうか。まさか蒼太はさておき、僕は罪も犯していない上に殺した事のあるのはゲーム内のモンスターくらいで虫も殺せない程だ。周りを不快にするような間違いも犯していない。頭の中がぐちゃぐちゃになり、整理が追いつかなくなる。
「どういう事、、、?」
そう僕が言った後、僕達はとりあえずその女の方を見て、次の言葉を待った。