戦いの世界
このゲーム、フリーダムバトル、通称フリバトを始めてから、3日たったある日の事だ。
とあるハッカーによりゲームがハッキングされ、当時ログインしていた者達はログアウト不可能な状態になってしまっていた。
しかもそのハッカーの能力は凄まじいらしく、全く手をつけられない状態らしい。
唐突すぎて何を言っているのか、最初は俺自身も分からなかった。まだレベル4の初心者が、フレンドもおらず、装備も貧弱、そんな状態でログアウト不可ともなれば打ちひしがれて最初の町に引き篭もってしまうのも無理は無いと思う。
だがまぁログアウト不可ってだけで他に問題は無いらしい。
ログアウト不可ってのは問題だが…、現実の身体の方は病院の方でなんとか生命維持活動を行っているんだとか。
ならばこのオンラインゲームを楽しむしか無いと割り切り、3日ぶりにフィールドへ来てみた所存だ。
「とりあえずは…レベル上げか?」
現在のレベルは4だ、いわゆる、雑魚モンスターを倒し、チュートリアルクエストを終えてみれば、このレベルになっている、そんな所である。
聞いたことろによると、他のプレイヤーは既に行動を開始しているらしく、トップ層になれば既にレベル30後半がいるんだとか。
カンストレベルはやはり100か99何だろうと思う。
サービス開始1週間でトップ層が30後半とすると、まだまだ最序盤と言った所であろう。
ということで俺もレベル上げを開始しようと思って、始まりの草原1Fに来ているという訳だ。
手には初心者用のナイフ、防具一式だ。
となると、一撃でも結構痛手になるのは初心者の俺でも明白だ。
「居たな……」
数秒走り回っていると、脚が異常なほどに発達している兎を見つけた。
「…!?」
その兎は俺を見つけると即座に脚に力を込め強靭な脚を使い突進してきた。
避ける事もガードする事も出来ずに突進を喰らった俺は数メートルほど吹っ飛ばされてしまった。
「ぜぇい!!」
怒りをあらわにして、兎にナイフで切りかかる。
しかしそのナイフは兎に当たることなく、空を切った。
「ぐっ!」
俺の攻撃を避けた兎がまたもや俺に攻撃してきた。
今度は突進ではなく、脚を使って蹴りかましてきた。
その脚力から放たれる蹴りの威力は始まりの草原のモンスターとは思えないほど強かった。
「まだだ!…む」
目を開くとそこは始まりの町のリスポーン位置に指定されている場所だった。
「やられたのか…たった2発で…」
始まりの草原の兎にすら攻撃を当てることも出来ず、2発で倒されてしまった。
その酷く滑稽な事実が『ヒレ』の心を虐げる。
「次こそは…!」
そう言い放って始まりの草原を目指し走っていく。
そもそもあの兎が野郎なのかどうかは分からないが、それはヒレにとってはどうでも良かった。
「っと、見つけたァ!」
発見するやナイフで切りかかる、二、三発の攻撃を当てさえすれば勝てる程度の耐久だろうというのは目に見えていた。
「キュゥア!」
可愛らしい声とは裏腹に3回の攻撃で倒れてくれなかった兎は蹴りをかましてきた。
またもや回避も防御も出来ず、モロにその蹴りをくらった。
それにクリティカル判定が乗ったらしく、俺はその蹴り1発で倒されてしまった。
「そうか、デスペナか…」
リスポーン位置に戻ってきたヒレはチュートリアルの説明を思い出した。
このゲームには倒されるとデスペナルティなるものが適用される。
その内容は、一定時間のステータス半減、レベルに応じて経験値が減ってしまう等だ。
兎を撃で倒せなかったのはこのデスペナルティのせいだと思われる。
デスペナルティのステータス半減の効果時間が切れるまで、始まりの町を散策し、武器、又は防具を新調し、兎に再戦を挑もうと考えた。
「なぁ、武器やら防具やらの売っている店ってのは…」
斧を担いだ男性に目当ての物が売っている店を尋ねた。
「あぁ?…武器屋ならこっちだぜ、着いきな」
男性は厳しめな口調で答えるも、道案内をしてくれた。
「…ん?こっちなのか?しかしそこはフィールド移動の転移地じゃあ…」
男性が連れてきてくれた場所には見覚えがあった。
フィールドへ向かう時に使う転移の石碑がある場所だ。
「あるフィールドにプレイヤーキャラが売っている武器屋があるんだ、そこを紹介しようと思ってな」
変な疑りを掛けてしまった事に恥を感じた、右も左も分からない俺をキルするつもりなのか、とか。
「そうなのか…悪い、おかしな事を考えてしまった。 」
「不思議に思われても仕方ねぇわなぁ、まぁ安心して付いてこいよ」
男性が案内したフィールドは始まりの丘という所だった。
「こんな所に店を構えている奴がいるのか?」
見るからには何も無い、こんな所で商売してて儲かるのか不思議に思い、男性に思ったまま尋ねてみる。
「いるわきゃねぇさ…カモはいるがな」
そう言って男性は担いでいた斧を両手に持ち構え、それを振ってきた。
「ぬぅ!つァ!」
間一髪致命傷は避けれたものの脚に傷を付けられてしまった。
「馬鹿な初心者だぜ…おらァそういう馬鹿をいたぶるのが好きでな、よくこうやって遊んでいるって訳よ」
「野郎!」
ナイフで応戦を試みるも男性の次の一撃をどうにもする事も出来ずに気がつけばリスポーン位置にいた。
「プレイヤーは信用出来ないか…?…なんだと!!?」
「マネー持ってかれてやがる!これじゃあ武器も何も…!!」
プレイヤーキルされた事でヒレのマネーは斧の男に奪われてしまっていた。
「この雪辱、いつかはらしてやるぜ…」
しかしこれではモンスターの一匹、ロクに狩れない。
他のプレイヤーなら初心者ナイフであろうとプレイヤースキルでどうにかなるのかもしれないが、ド素人のヒレにはそんな事が出来ない。
今までに狩れたのはチュートリアルクエストに出てきたゴブリンだけである。
しかし諦める訳にもいかない、デスペナルティの効果が切れたと同時に始まりの草原へヒレは走り出した。
「またまた相手になっていただくぜ…兎ィ!!」
渾身の一撃をナイフでくらわせる。
しかしそれで倒れる兎ではなく、反撃の突進をしてくる。
「ッ!!武器が!」
突進をナイフを持っていた右腕にに受けてしまい、ナイフを落とされてしまった。
それを拾おうとするも、兎の猛攻によりナイフを拾うどころか、回避に専念するあまりにナイフを落とした位置とはかなり離れてしまっていた。
「ナイフが使えないのならば!」
兎の突進を回避し、隙のできた兎に思いっきり蹴りをかましてやった。
すると兎は前方に吹き飛んでいき、岩にぶつかった。
好機を逃すまいと、追撃の蹴りをくらわせた。
「オオオッ!!」
蹴りを数発与えた所で、兎が光の粒子となって消えた。
するとレベルアップを知らせる音が頭に鳴り響いた。
ステータスを確認するためステータス画面を見てみると新たにスキルが追加されていた。
『格闘』
武器を使わぬ生身の攻撃の強化…だそうだ。
さっそく試そう、というところに兎が襲ってきた。
「っと…オラァっ!」
突進してきた兎に思い切って頭突きをかましてやった。
兎の蹴りとヒレの頭突きがぶつかり、周囲には衝撃波が流れる。
格闘のスキルを覚えたヒレの頭突きは兎の蹴りよりも火力があるようで、兎を押し返した。
「いってぇ…だがなぁっ!ちょいさぁっ!」
かなりこちらへのダメージもデカかったがこの際兎を倒せれは万事OKだ。
押し返された兎は怯んでいる。これはチャンスと見て、思い切り腹への蹴りを試みる。
「キュッ!」
かわいい声で鳴きやがる…倒すのが苦になる前に決着をつけるぞ。
蹴りあげられた兎はウェイトがなかったせいか、軽々宙を舞った。
空中では逃げ場はない、この機会を逃す俺でもなく、宙を舞う兎目掛けてアッパーを叩き込む。
さながら昇竜拳だ。
その一撃でようやく倒せたようで、兎はポリゴン状になって消えた。
経験値とアイテムが手に入りましたとの無機質なメッセージだけがあとを残した。
「兎はもうやれそうだな…ふぅ…」
それから何羽か兎を狩り、レベルは7になった。
ヒレ
Lv7
HP:75
MP:20
STR:21
INT:10
DEX:18
VIT:20
LUK: 10
《会得スキル》
格闘
現在のステータスはこんな感じだ。
大抵のMMORPGにはレベルアップと共にステータスポイントを貰え、それを好きに割り振っていくのがセオリーだ。
しかしこのフリバトには、そのようなシステムはなく、ステータスを上げる方法は戦闘時にどういう行動をしたか、で決まる。
俺はさっき殴る蹴るを用いた戦闘を行った。結果、俺のステータスの伸びはSTRが1番だ。
魔法を使えばINTが、攻撃を受け続ければVITが伸びていく。
故に、行動次第で思うがままにステータスを上げることは出来るが、その分ステータスを上げるのが大変だということだ。
「…疲れたな、宿屋行って寝よ…」
兎に2回殺されてPKされて、兎を狩りまくって、もう心身ともにダウンだ。
宿屋ならばPKもされないし、人の目も気にせず眠ることが出来る。
さっそく宿屋へ直行し、今日を終えた。