第5話
お互いの都合の合う日に、大好きなプロ野球チームを一緒に応援しよう――。
ついにその日が訪れた。
でも、二人きりじゃなくて、それぞれの後輩を連れて行くことにした。
電話した時に、話を持ちかけてみた。
「いつも一緒に野球観戦に行っている後輩を、連れて行っていいでしょうか?」
「じゃ、こっちも1人連れて行きます。うるさいかもしれないけど」
「いや、こちらこそ騒がしいかもしれません」
後輩たちは、二人とも、この日の対戦相手のチームのファン。
自分たちのごひいきチームが、試合の序盤から大量得点を挙げたこともあり、すっかり調子づいた。
初めて会ったばかりとは思えないほど、打ち解けたのだ。
試合が終わった後、後輩たちは、わたしたちの前を二人並んで駅に向かった。
笑い合う声を聞きながら、後輩たちに付いて行く。
「今度は、二人きりで会えませんか?」
前を向いたままで、彼が言った。
「いいですよ」
後輩を交えずに、二人で野球観戦をしようという話だろうと思って、すぐに返事をした。
「行きたい場所は、ありますか?」
「また、このスタジアムに来たいですね」
そんなわたしの答えに、彼は切り返す。
「野球以外で、一番行きたい所ですよ。大人も楽しめるアミューズメントパークとか。夜景が一望できるレストランとか」
「安くておいしいなら、それで大満足です」
口に出してから、悔やんでしまった。
なんと、色気のないことを言ってしまったのだろうかと。
「安くておいしいお店、行きたいですね! しっかり食べて、練習も試合も頑張りましょう!」
「ごめんなさい。ムードも色気もなくて」
「いや、一緒に過ごせれば、ぼくはどこでもいいんです」
話しながら歩いているうちに、駅に到着した。
バレー部と野球部の寮は、反対方向になる。
乗車するホームも別々だ。
また、ぜひ会いたいな。
今度は、いつ会えるのだろうか。
思いを巡らせていたら、彼がわたしの前に立った。
「ぼくと、付き合ってくれませんか?」
心の奥底では、この言葉が聞かれることを願っていたが、どんなふうに答えればいいかな、ただ単純に『ハイ』でいいのかな、などと悩んでいたら、彼の表情が曇ってしまった。
「ダメ、かな……」
「いいえ。ダメじゃないんですよ。こういう経験がないもので、どんな言葉で返答をしたらいいか、わからないんです」
「じゃ、OKだと思っていいんですね?」
「もちろんです!」
わたしが力を入れた声で返事をしたら、後輩たちが振り向いた。
「何が、もちろんなんですか?」
彼の後輩の言葉に、彼は堂々と答えた。
「これから、お付き合いするっていうことだ」
「だけど、逆方向だから、今日はこれでお別れなんですね……」
わたしの後輩は、名残惜しそうな顔で、彼の後輩のほうを見つめている。
後輩たちは、これからどうなるかわからないけれど、
わたしたちの恋は、始まったばかり。
…end…
やっと完結いたしました。
最後は、無理やり詰めた感じもしますけど。
「始球式ものがたり」は、今後もシリーズとして書いていくつもりです。
実際の社会人野球での始球式をヒントにして、恋のお話を書くというのは、かなり手こずりますが、楽しいですから。
このお話にあたっての、特に最後の追い込みを書いた時についての思いなどは、活動報告に書きたいと思います。
令和元年5月1日の朝
こだまのぞみ