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第4話

野球部は2回戦で負けてしまった。

始球式のキャッチャー役の彼は、1回戦ではマウンドに上がらなかった。

わたしが見に行けなかった2回戦で、チームが1点リードされていた8回裏に登板して、1イニングを三者凡退に抑えたそうだ。


見たかったなぁ、という気持ちと、

もし投げていたら、ドキドキソワソワして、グラウンドを見られなかっただろうと思う気持ちが、半分ぐらいずつある。



野球部の2回戦の試合の数日後、バレー部の監督から、

始球式の練習のコーチ役だったお友達と食事に行くけど一緒にどうだろうか、と誘われた。

何も考えずに了解して、監督と一緒に現地に向かった。


監督のお友達が先にお店に入っていて、その横には、キャッチャー役の彼がいた。

一瞬、わたしのほうを向いたものの、目を合わせようとはしなかった。


「手を両手で握っちゃって、すみません」

彼は顔を上げて言った。

「謝るほどのことじゃないですよ。ビックリしましたけど」

「チームの人たちに冷やかされました。何をやってるんだって」


そのあと、お互いに沈黙してしまった。

わたしは、あの手の感触を思い出して、体が熱くなるのを感じた。


「今度もし、お互いのスケジュールが合う時があれば……」

彼はそう言うと、また少し黙ってしまった。

わたしの頭の中では、『もしかしたらデートのお誘いだったり』なんて考えていた。


「スタジアムに一緒に行きませんか? ウチのチームは、プロ野球の試合を観戦するのも好きな人が多いですが、ぼくと同じチームのファンの人がいなくて、さみしかったんです」

彼が再び発した言葉に、わたしは拍子抜けした。

いや、頭の中で勝手に盛り上がっていただけなのだけれど。


「もちろんOKですよ!」

お互いのチームやプライベートの予定を確認して、都合が合う日があれば一緒に応援に行くために、連絡先を交換。

隣にいる監督のほうを向くと、ニヤニヤしている。

監督のお友達は、

「もっと、他に言いたいことがあったんじゃなかったのか?」

なんて言いながら、ニッコリ微笑んでいる。


「ずっとSNSを見ていて、ぜひお会いしたいと思っていました」

少し間を空けてから、彼が口を開いた。

「わたしに、ですか?」

「そうです。先輩には、ぼくは女の子に興味がないのかと思われていたみたいだったので、バレーの選手でちょっと気になる人がいるけど同じ会社なのに接点がないんですよ、って話したら、バレー部の監督さんが高校の時の同級生で、連絡を取り合っていることがわかりまして。

どの選手が気になるのかまでは、先輩に話していませんでしたが、始球式のあとにバレちゃいました。結構長めに手を握ってたな、って言われましたよ」


監督のお友達が、監督に、彼とわたしを交えて会おうかと持ちかけたことは、容易に想像できる。

わたしたちを、カップルにしようとしているのだろうか。

でも、彼がわたしのことを『ちょっと気になる』と言っているのは、たまたま、同じ会社で、スポーツをしていて、同じプロ野球チームのファンでもあるから……という理由だけなのかもしれない。

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