第2話
野球部の試合の当日を迎えた。
東京ドームには、プロ野球の観戦に来たことが何度かあった。
でも、自分が始球式で投げるとなると、とてつもなく緊張する。
都市対抗の1回戦の始球式は、両チームから、マウンドを挟んでバックネット方向に投げるのだ。
マウンドの上からではないとはいえ、わたしにとって初めての(で、最後になるかもしれない)始球式。
バレーの練習の時に着ている赤いスポーツウエアで、ベンチの前に立つ。
会社からは、わたしのために野球部と同じユニフォームを作る話も出たけれど、始球式のためだけにユニフォームを作るなんて申し訳ないし、この試合の主役は野球部の方々なのだからと、遠慮させて頂いた。
「キャッチャーを務めさせて頂きます。よろしくお願いします!」
わたしに近づいてきたかと思えば、自分の名前を名乗ったあと、大きな声であいさつをしてきた選手。
今回の始球式の件で、コメントをくれた人だった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「始球式の練習に励んでいる、って、ブログに書いてあったから、ぼくもキャッチャーの練習をしていました」
「でも、あなた、ピッチャーですよね?」
始球式は、キャッチャーの選手がボールを受けるのが通常なのだけれど。
「大丈夫ですよ。ぼくは今日の先発じゃないし。野球を始めてからずっとピッチャーだったから、キャッチャーをやってみたかったんです」
涼しい表情で語る彼を見ていたら、緊張が一気にほぐれた。
対戦相手のチームの始球式は、チームの地元の市長さん。
わたしの父と近い年代の方と思われる。
実家にはなかなか帰れないどころか、連絡すらあまり取っていないのだが、今日の始球式と、このあとの試合の報告はしておきたい。
そして。
いざ、始球式。
ミットをめがけて――。




