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マジカル☆ロワイヤルRED  作者: レッドリーフ
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第6話

☆ドリーマー


「よっ! 一塁打! 二塁打!! これで三塁打とホームランが出れば、バッター選手、サイクルヒット達成です!」


 ファンタジーな世界でよく見るゴブリンのような姿をしたモンスター達を、陽気なアナウンスと共にバッドで殴り飛ばしているのはバッターだ。魔法少女の強化された筋力で振るわれたバットはモンスターの頭をボールのように次々と吹き飛ばしていた。


「パ、パンチですわ!!」


 バッターから少し離れた場所で奮闘しているのはファイターだ。バッターに比べるとその動きは多少ぎこちないが、堅実に一体一体その拳に付けられたメリケンサックを使ってモンスターを倒している。


 そして⋯⋯ドリーマーは1人、遠く離れた安全な場所からそんな2人の様子をただ見守ることしか出来なかった。それは、ドリーマーが戦闘向きの魔法少女ではないということが理由ではない。戦わないのは、勇気がなかったからだ。


 非戦闘ゾーンから出たドリーマー達を待ち受けていたのは、無数に群がるモンスターだった。ぱっと見ただけでもその数は100体を超えている。バッターが言ったように、これはきっと最後にあそこから出てきたドリーマー達へのペナルティなのだろう。なんとなくだが、ドリーマーにはこの場所に全てのモンスターが集められているような気がした。

 最初に動いたのはモンスターの方であった。近くに居た数体がドリーマー達が現れたことに気付き、「ぐおおお!!」といううめき声と共に襲いかかってきたのだ。

 バッターの反応は1番早かった。襲い来るモンスターの群れを目の前にしてきりっと表情を引き締めると、先頭のモンスターの頭をバットで殴り飛ばす。そんなバッターの様子を見たファイターも、へっぴり腰ながらも隣に立ち、その拳をふるい始めた。

 しかし、目の前で戦う2人の姿を見ても、ドリーマーは動くことが出来なかった。それは、目の前に棍棒を構えたゴブリンもどきが現れた時ですら変わらなかった。迫り来る棍棒がスローモーションのように見えた。これが所謂走馬灯というものか。ドリーマーは自らの死を悟り、そっと目を閉じた。


「ぱんぱかぱーん!」


 覚悟していた衝撃のかわりにやってきたのは、すっかり聞き慣れてしまった妙なかけ声。おそるおそる目を開いたドリーマーの前に居たのは、自分を庇うようにして前に立つあの仮面の魔法少女だった。驚きに目を見開くドリーマーに、仮面の魔法少女は右手でVサインを送ると、バッターとファイターと共に魔物の群れの中に飛び込んでいったのだった。


 そして現在、仮面の魔法少女はドリーマーを守るような位置でずっとモンスターの襲撃を食い止めてくれている。本当なら、彼女の助太刀をするべきなのだろう。しかし、牙を剥いて唸るモンスターの姿を見る度に足が竦んで動けない。飛び散る血飛沫のショッキングな赤に気を失いそうになる。魔法少女となって強大な力を手に入れても、精神はどこにでもいる普通の女子高生のままなのだ。なんて情けない話だろうか。


「な、なんですの、あのうねうねした気持ち悪い見た目のモンスターはぁぁ!?」


 ドリーマーが自分の情けなさに打ちひしがれていたその時、ファイターの叫び声が聞こえてきた。その声に思わず反応してしまったドリーマーは、あまりの衝撃と恐怖にたまらず胃の中身を地面にぶちまけてしまった。

 そこに居たのは、一言で表すなら巨大な触手の塊だった。テラテラとした赤黒い光を放ち、地面に粘液の線を引きながらゆっくりと迫り来る触手モンスターから涙目で逃げるファイターの姿が見える。


「うわ~、なんかめっさエロい展開を作りそうなモンスターじゃん! R18って命名しようよ!!」


「そんな冗談言っていないで早く助けてくださいまし~!!」


 バッターの冗談に言い返すだけの余裕はまだファイターにもあるらしい。しかし、いつまでも逃げ続けるのは不可能だ。いずれ捕まってしまうだろう。もしそうなったら全員⋯⋯。

 最悪な想像が頭をよぎり、再び吐き気が込み上げてくる。少なくとも、ここで生き残るためにはR18(仮)を倒す必要があるのだ。⋯⋯あんなバケモノを、一体誰が倒せると言うのか?


「――ぱんぱかぱーん!!」


 その声が聞こえてきたのは、まるでドリーマーの心の中の問いに答えるかのようなタイミングだった。R18とファイターの前に割って入り、交差させた腕を天高く突き上げるポーズを決めたのは、勿論仮面の魔法少女だった。


「さあ、私は誰だ!? モンスターを捕まえることに情熱を注ぎ、捕獲したモンスターに性的な興奮を覚える! モンスター捕獲玉でゲテモン、ゲットだぜ!!」


 シルクハットから取り出した、赤と白のカラーリングのどこかで見たことがあるようなボールをR18へと投げつけた仮面の魔法少女。R18の頭上へ飛来したそのボールはパカッと音を立てて開き、そこから謎の光を放出した。すると、謎の光はR18を一瞬にして包み込み、小さなボールの中へその巨体を封じ込めてしまったのだ。

 あり得ない光景に唖然とする魔法少女たちの前で、仮面の魔法少女はR18を捕獲したばかりのボールを得意げに掲げ、お決まりの名乗りを上げる。


「そんな私の名前は、『テイマー』です。以後お見知りおきを!」


 仮面の魔法少女はまだ止まらない。再び簡易式の「ぱんぱか!」を叫んだかと思うと、捕まえたばかりのR18を解き放ち、再度名乗りを上げる。


「速攻改名!! 改めて名乗りましょう! モンスターを使い、成長させ戦わせることに性的な興奮を覚える、そんな私の名前は『トレーナー』です。以後お見知りおきを!」


 自称『トレーナー』となった仮面の魔法少女がパンチを繰り出すと、その動きに合わせて解き放たれたばかりのR18も触手を伸ばし、目の前のモンスター達を一掃した。理屈はよく分からないが、どうやら今の彼女はあのR18を操ることが出来ているらしい。ファイターとバッターもそのことを理解したのであろう、おっかなびっくりながらも、再び前線に出てモンスターを蹴散らし始めた。

 R18という頼もしい味方(?)も加わったことで、ファイター達は一度は優勢に立ったかに思えた。しかし、数の暴力というものは予想以上に厄介だった。倒しても倒しても次々わき出てくるモンスターに、最前線で戦い続けるバッターとファイターからは疲れの色が見え始めた。そしてそんな状況にさらに追い打ちをかけるように、あのR18が執拗なモンスターたちの攻撃についに倒れてしまった。


「あ、アール18ーーーーー!!!!」


 一瞬とはいえ共に戦った仲間を偲び声を上げるバッター。その隣で黙祷を捧げる仮面の魔法少女もどこか悲しげに見える⋯⋯。


「何をしているんですの貴女達は!? そんな茶番している余裕ありませんわよ!?」


 そう、ファイターの言うとおりだった。ドリーマーが視認出来るだけでも、まだ10体以上モンスターは残っている。その上、そのモンスターのどれもがあのR18に負けず劣らずの巨体であった。おそらくはあれが最後の砦、しかしその砦を崩す力は最早誰にも残されていないように思えた。


(私は⋯⋯一度も戦っていない私なら、まだ体力は残っている)


 ここは自分が動かなければならない時だ。それは分かっているのに、どうしても恐怖がそれを邪魔をする。心の中の弱い自分が、「どうせ勝てないんだから行ったって無駄だよ」と囁く。結局、ドリーマーは一度も動くことが出来ず⋯⋯大切な仲間を1人、失うことになってしまうのであった。



☆ファイター


 ファイターが最も大事にしているもの、それは“誇り”だ。『誇りを持たない人間は死人と同じ』。これは、ファイターの祖父が遺した格言である。ファイターはいついかなる時でもこの格言を胸に刻んで生きている。そして、それはこの非現実的かつ危機的な状況でも同様であった。


「⋯⋯皆さん、後ろに下がっていてくださいまし。わたくしのスキルで、この場を乗り切ってみせますわ」


 同意は求めていなかった。たとえ反対されたとしてもファイターがこの決断を変えることはあり得ない。案の定バッターが何やら後ろで騒ぐのが聞こえてきたが、こちらの心情を察してくれたのかあの仮面の魔法少女がバッターを後ろへと引っ張って行ってくれた。あの魔法少女は意外にも気が利くらしい。正直かなり助けられた。後で礼をしなければならないだろう。⋯⋯出来ればの話であるが。


 バッター達が下がったことを確認したファイターは、おもむろにコスチュームであるドレスを脱ぎ捨てる。その下から現れるのは、均整の取れた美しい身体だ。魔法少女になる前より胸は若干大きく、その反対にウエストは若干細くなっている。手足の長さはあまり変わらないが、肌のきめ細かさは比べものにならない。そして、この身体が変身前と最も異なる点⋯⋯それは、胸元からへそを通り、局部まで真っ直ぐに伸びたファスナーがついているところだ。ファイターは、自分に送られてきたスキルの内容を思い出しながら、そのファスナーをゆっくりと開いていく。


〇〇〇〇〇


どんな姿になっても戦う乙女は美しい! 命燃やしてファイトだぜ! 君の名前は魔法少女『ファイター』だよ☆

『ファイター』のスキルは、『暴食の化身』って力!! お腹のファスナーを開いて何でも食べることができるよ! ただ、このスキルを使うと空腹に支配されて自我を失っちゃうから気をつけてね☆


〇〇〇〇〇


「ファイターはファイターでも、これじゃあフードファイターですわよね」


 ファイターは自嘲気味にそう言って笑みを浮かべる。ファイターが先程までスキルを使っていなかったのは、自我を失うという記述に恐怖を感じていたからだ。しかし、この状況で躊躇っている暇はない。ここでファイターが何とかしなければ、ここで全員が死んでしまうだろう。それだけは彼女の誇りが許さない。共に過ごした時間こそ短いが、ファイターはあの3人の魔法少女のことを仲間だと思っている。仲間を守るためなら、ファイターは喜んでバケモノにでもなんにでもなろう。

 くぱぁ。不気味な音と共に開かれたファスナーの中に見えるのは、無数に並んだ歯。その全てが鋭い犬歯であり、ファイターの意志とは関係なくジャキジャキと音を立てて獲物を待ち構える。そんな歯の渦の中心にあるのは、紫色をした巨大な舌だ。その長い舌は、腹部に開いた大きな口からにゅるりと外に飛び出し、ファイターの顔面をぺろりと舐める。しかし不思議と不快さは感じない。今ファイターの心を満たす感情はただ1つ⋯⋯『空腹』、それだけであった。


「オナカ、スイタ⋯⋯」


 口からそんな言葉が漏れる。ああ、お腹が空いた。目の前で動く物体は何だ? ソウダ、あれは食料だ。食べたい、タベタイ、クワセロ!!


⋯⋯そこから先の記憶は、正直あまりない。気が付けば、目の前にはナニカの肉片が散らばっていて、くびれていたはずのファイターのお腹がはち切れんばかりに膨れあがっていた。重たいお腹を抱えながら後ろを振り向くと、そこには恐怖に満ちた瞳でこちらを見つめるバッターとドリーマーが居た。その顔を見た瞬間、ファイターはもう彼女達と共に行動することは出来ないことを悟ったのであった。


 

第6話:『くぱぁ』

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