番外編①:とある平凡な少女の話
ハッカーの過去や願いが明らかになる番外編です~。ちょっと胸クソな展開あるから注意してね。
野暮ったいおさげに分厚いレンズの眼鏡。鼻の頭にはそばかすが浮かんでおり、ひいき目に見ても美人とは言えない冴えない顔。それがハッカーの本来の姿、一ノ瀬麗華だった。
現在中学二年生の麗華は、14歳にして社会の仕組みを僅かながらに理解していた。それは、結局見た目が良い奴が得をするということだ。クラスの中でもイケメンや美少女と呼ばれている子たちは、例外なく全員クラスカーストの上位に存在している。ただし、見た目がそこまで良くなくてもその地位に立てる人間もいる。それは、話し上手だったり運動が得意だったりなどの何か優れた特技を持っている者だ。
そして、見た目も良くなく、たいした特技も持たない麗華は、そんな彼らの下でひっそりと生きるしかなかった。
「あ、また地味女がなんか本読んでる~」
「いつも本ばっか読んで飽きないのかな? それにきっとあの本変なオタクモノだよ?」
「え~、きもーい!!」
教室の端にある自分の席で本を読んでいると、いつものようにクラスの派手な女子3人組がこちらを向いてケラケラと笑いながらそんなことを言ってくるのが聞こえた。麗華は聞こえないふりをして本を読み続けようとしたが、ネイルがテカテカと塗りたくられた手によってその本を奪われてしまう。
「あっ!?」
「うわ~!! 思った通りキモオタが読むような奴じゃん!!」
「なにこれ! 男同士抱き合ってるとかマジキショいんですけれどぉ!!」
「ちょww これ皆に曝そうぜ! 男子共マジどん引きするっしょ!!」
麗華は必死になって本を取り返そうとしたが、無駄にスタイルのいい相手に比べ足も手も短い麗華では、頭の絵に掲げられたその本を取り返すことは出来なかった。そして、その女子3人組によって麗華の読んでいたBL小説はクラスの全員にその内容と挿絵を曝され、女子からは軽蔑の目を、男子からは恐怖の目を向けられてしまう。
「う、うわあああ!!」
クラスメイトからの視線が怖い。今まではただちょっと地味で暗い女子という認識だったものが、今回の件でBL好きのヤバい奴になってしまったことは間違いないだろう。麗華は、自分に向けられる視線の圧に耐えきれず、情けない悲鳴を上げて教室を飛び出していった。背後であの3人の笑い声が追い打ちのように聞こえてくる。廊下を走りながら、麗華はあふれ出す涙を袖で拭った。この涙は悔しさからか、あるいは怒りからか。混乱する頭ではよく分からない。ただ1つ分かることは、自分はもうあの教室には居場所がないということだけだ。
麗華は、教室を飛び出したその勢いのまま家へと帰っていった。一瞬先生に相談するという選択肢も考えたが、BL本を読んでいたことがバレてしまって居心地が悪いなど言えるはずもない。それに、あの担任は以前から麗華が苛められているのを見ても何もしようとしなかった奴だ。もし仮に相談したとしても何もしてくれないだろう。
家に帰った麗華は、親に気付かれないようにこっそりと鍵を使ってドアを開け、そのまますぐ自室へと飛び込んだ。目指すは机の上のノートパソコンだ。背負っていた鞄を乱雑に投げ捨てた麗華は、迷うことなくパソコンを起動させる。
「い、いいんだ⋯⋯。私の居場所はちゃんとここにあるんだから⋯⋯」
麗華の目の前に映っているのは、絵や小説などを自由に投稿出来ることで有名なサイトのホームページだ。慣れた手つきでログインの処理を済ませた麗華は、昨日の夜描いたイラストを早速投稿する。すると、1分もたたないうちに高評価を示すマークと共に、多くのコメントがその絵に添えられて送られてくる。
『相変わらずレイカ先生の描く絵はさいこーです!!』
『ヤバい、鼻血出た⋯⋯』
『まさか〇〇と△△のカプを描いてくださるなんて⋯⋯感無量!!』
『尊い』
自分の描いたイラストを賛辞するコメントを眺めているうちに、教室で感じていたネガティブな感情は次第に薄れていき、優越感と満足感が麗華の心を満たしていく。その後もニヤニヤと若干危うい笑みを浮かべながらコメントを眺めていた麗華であったが、シークバーをスクロールする手がとあるコメントのところでピタリと止まった。先程までの満足感と優越感は一瞬で消し飛び、大量の汗が背中をぬらしていく。
「な、なんで⋯⋯!?」
思わず声が漏れてしまった。それほど、そこに書かれてあったコメントは麗華にとって信じられず、また信じたくないものであった。
『このイラストを描いているのは、〇〇中学校に通う一ノ瀬麗華って奴だよ! 写真も載せるから皆見てね!!』
コメントに添付されたリンクをクリックすると、あの女子3人組に強要されて撮られた全裸の麗華の写真が画面に表示された。ご丁寧に両手でピースをした上に黒目を上に向けた所謂アへ顔と呼ばれる表情で撮られたこの写真は、麗華が何度もこの写真をばらまかれたくなかったら言うことを聞けと脅される時に使われていたものだ。
『え、これガチ⋯⋯?』
『うわ、めっさ地味な顔じゃん。なんか幻滅⋯⋯』
『てかスタイル悪いなww お腹ぷよぷよじゃんww』
さっきまで麗華を褒め称えていたコメント欄が、その写真を見て麗華を罵倒するものへと変わっていく。あふれかえる低評価の嵐。目の前に映る信じたくない光景に、麗華はたまらずパソコンの電源を切った。
「ああ、ああ⋯⋯⋯⋯!!」
あのコメントを書いたのは、麗華を苛めていたアイツらで間違いないだろう。どういう経緯かは定かでないが、このサイトを見つけた彼女達は、レイカという人物が麗華と同一人物であることに気付いたのだ。麗華の口から慟哭が漏れ出す。脳内に溢れるのは絶望と怒り。麗華はとうとう、唯一の居場所さえも彼女達に奪われてしまったのだ。
その後、どれほどの間蹲って泣き続けていただろうか。不意に鳴り響いたピロリン♪という音と共に、先程電源を落としたはずのパソコンの画面にメールが届いたことが表示される。そして、そのメールは麗華が見ている前で勝手に開き、その文面を画面一杯に映し出した。
「な、なに、これ⋯⋯? 私が魔法少女に選ばれた? マジカル☆ロワイヤルへの参加が認められました⋯⋯。勝ち残った1人には、願いを叶える権利を与える⋯⋯?」
そこに書かれていたのは、にわかには信じがたい話であった。しかし、精神的に打ちのめされていた麗華にとって、このメールは救いの手に見えたのであった。
「もし願いが本当に叶えられるとしたら⋯⋯私は、皆が認めるような素晴らしい存在になりたい。そして、私から居場所を奪ったアイツらに、必ず復讐してやる⋯⋯!!」
居場所を奪われ、底辺で虐げられていた少女はその時、どんなことをしてでも勝ち残り願いを叶える決意をした。その後、少女は同じように願いを持った少女たちと戦うことになるのだが⋯⋯。
それは遠くない未来のお話。