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マジカル☆ロワイヤルRED  作者: レッドリーフ
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第4話

☆ガンナー


「あの⋯⋯だいじょうぶですか? わたしの声、聞こえますか?」


 どこからか声が聞こえてくる。弱々しく、自分に自信のなさそうな感じの声だ。それは、ガンナーが最も嫌いなタイプの人間の声。その声を聞いたことで唐突に湧き上がる怒りの感情により、ガンナーは意識を取り戻しかっと目を見開いた。


「ひぃっ!? び、びっくりしました~。だ、だいじょうぶですか?」


 ガンナーの目の前でぴょこぴょこと動くのは、ふわふわの毛で覆われた狐の耳だ。思わず目でその動きを追っていると、その下からひょっこりと美少女の顔が現れる。この顔は何となく見覚えがある。反射的に目の前の相手を撃とうとしたガンナーは、襲い来る激痛に叫び声を上げて地面をのたうち回った。


「ああ!? まだ完全に治ってないんですから動いちゃダメですよ~!!」


 そう言うと、ぴょこぴょこと耳と尻尾を動かしながらその少女⋯⋯キャスターは、ガンナーの右腕に杖を向け、何やらもごもごと口の中で唱えだした。すると、先程まで感じていた痛みがすうっとなくなっていく。


「⋯⋯これ、アンタが私を治してくれたってことでいいわけ?」


 先程ガードナーによって切り落とされた右腕は綺麗に再生していた。ガンナーのスキルには再生の能力はない。送られてきたメールに記されていたスキルは、『音をなくす』という大して役に立ちそうもないものであった。ならば、この腕を治したのは目の前の魔法少女しかいないであろう。ガンナーは右手を開いたり閉じたりして感触を確かめつつ、確認の意味でキャスターにそう尋ねた。


「は、はい! わたしが治しました⋯⋯。偶然あなたが倒れているのを見かけたので⋯⋯」


 キャスターはおどおどとした様子でそう答える。そんなキャスターに対しガンナーはニッコリと笑顔を向けると、両手にマシンガンを出現させて揺れ動く狐耳へと狙いを定めた。


「じゃあアナタが命の恩人だね! ありがとっ!! そして⋯⋯バイバイ☆」


 死にそうなところを助けて貰ったのはありがたいが、だからといってこんなチャンスを逃すわけがない。もうとっくの昔に戦いは始まっているのだ。それに、ガンナーはキャスターみたいなタイプの人間がだいっきらいだった。

 一切の躊躇いなく放たれた銃弾の嵐。ほとんどゼロ距離で放たれたそれからキャスターが逃げられるはずもなく、鮮血と共に片方の耳が吹き飛ばされる。

 何が起こったのかまだ理解が追いついていないのか、ポカンと口を開けて間抜けな顔をさらすキャスター。そんな顔もまた苛つくな~などと思いつつ、ガンナーは乱暴にキャスターの髪を掴んで引っ張ると、涙目のキャスターの眉間に銃口を突きつけ、こう要求した。


「ねえ~、これ以上痛い目みたくなかったら、私に協力してよ~? 甘々弱々なアンタなら、断るはずないだろうけれどさっ!」


 もしまたガードナーと戦うことがあっても、キャスターのこの治癒能力があればなんとかなるかもしれない。そんな完全な打算によって申し込まれた同盟の申請を、案の定抵抗する意志を見せる気配すらなく、キャスターは首を縦に振って了承した。その反応を見て、ガンナーは嗜虐的に口の端をにっと吊り上げたのであった。



☆ハッカー


「は~、つっまんないな~! どうせなら怪物とバトルしてみたいとか思っていたのに、一匹もでてこないじゃん! もし現れたら私の黄金の右ストレートをお見舞いしてやんのによ!!」


 隣を歩くジャンパーは、シュッシュッ! というかけ声と共にシャドーボクシングを始める。そんな彼女を横目で見ながら、ハッカーはジャンパーをいつ罠に仕掛けるかをずっと考えていた。


〇〇〇〇〇


どんな機械も私の友達! あなたの心もハッキング! 君の名前は魔法少女『ハッカー』だよ☆


『ハッカー』のスキルは『スマホを好きに操れる』って力!! 念じるだけで勝手に自分や他人のスマホをいじってメールを送ることもできちゃうよ☆


〇〇〇〇〇


 ハッカーは他の魔法少女と比べると戦闘力はほとんどない。そんなハッカーが最後まで勝ち残るためには、このスキルを使ってあえて間違ったメールを他人のスマホから運営に送り、脱落させていくしかないだろう。

 ハッカーのこのスキルには1つ制約がある。それは、1回視界に映したことのあるスマホしか操ることが出来ないというところだ。しかし、その制約を考慮してもこのスキルはなかなかに強力である。なにせ、1度相手のスマホを見ればほぼ確実に脱落させるためのデタラメメールを運営に送りつけることが出来るのだから。

 ジャンパーと同盟を結んだのは、一緒に行動していればいつかはスマホをいじる姿を見られると思ったからだ。しかし、ハッカーと同年代くらいの見た目にも関わらず、ジャンパーはなかなかスマホをいじろうとしない。いや、これは魔法少女の姿なのでもしかしたらかなり年上ということもあり得るかもしれないが⋯⋯。


「⋯⋯ねえねえ、さっきからなんかぼーっとしてるけれどどうかしたの? ぽんぽんでも痛いの~?」


「ぽんぽん⋯⋯? い、いや、何でも無いよ⋯⋯」


 ジャンパーのスマホをどうやって見ようか、そればかり考えていたらジャンパーに下から覗き込まれるようにして近づかれた。突然目の前にニコニコ笑顔のジャンパーが見えてびくっと肩を震わせたハッカーであったが、内心の動揺を気付かれないように平静を装って返事をする。そんなハッカーの顔をじとーっと眺めていたジャンパーであったが、興味を失ったのか「まあいいや!」っと言ってぴょこんと後ろに跳ねハッカーから離れた。何とか怪しまれずに済んだらしい。ハッカーがいつの間にか額に浮かんでいた汗をこっそり拭っていると、ジャンパーが再び無駄に明るい声で話しかけてきた。


「あ、そうだ!! ハッカーちゃん、はいこれ!!」


 そう言ってジャンパーがハッカーの目の前に差し出したモノを見て、ハッカーは自分の目を疑った。そこにあったのは、ハッカーが先程からずっと見たい見たいと思っていたジャンパーのスマホだったのだ。


「え、ど、どうしていきなりスマホ!?」


「だって、私たち同盟結んでるじゃん? それなのにメールの1つも送り合えないのは不便かな~って思ってさ。私のメルアドここに表示してあるから、登録しといてよ!!」


 思いもよらぬ幸運に思わず歓声を上げそうになる。自然とこみ上げてくる笑みを必死に抑え、ハッカーは何食わぬ顔でジャンパーとメールアドレスを交換しあった。


「やっほ~♪ これでいつでもハッカーちゃんといちゃいちゃできるね~♪」


 無邪気に喜んでいる様子のジャンパーを見ると、今から自分がやろうとしていることに若干の罪悪感を覚える。しかし、これも自分の願いを叶えるためだ。ハッカーはもう、底辺で虐げられるだけの生活は嫌なのだ。

 一度相手のスマホを見てしまえば、後はスキルを発動させるだけだった。脳内でデタラメな内容のメールを作成し、それをジャンパーのスマホから運営へと送る。すると、その数秒後、ジャンパーが突然胸を押さえて苦しみ始めた。


「う⋯⋯!? な、なんか胸が痛い⋯⋯。これ、いったい何!?」


 苦しげに呻くジャンパーの目や耳や鼻から、赤黒い液体が徐々に漏れ出していく。おそらく、これが間違えたメールを送った魔法少女を脱落させる方法なのだろう。予想よりもはるかにグロテスクな光景に吐き気が込み上げるが、それよりも作戦が上手くいった達成感がハッカーの頭を満たしていた。


「ふふ、冥土の土産に教えてあげるよジャンパー。これは私のやったことなんだ。私のスキル、『スマホを好きに操る』力でアンタのスマホから運営に間違ったメールを送ったんだよ。私がアンタと同盟を結んだのは、最初からこれが狙いだったんだ!!」


「そ、そんな⋯⋯!! ひ、ひどいよ!!」


 自分のこの状態がハッカーの仕業であることを知り、非難の声を浴びせてくるジャンパー。しかし、ジャンパーには最早どうすることも出来ない。そんなジャンパーを見下ろし、ハッカーは優越感に浸っていた。


――ああ、成程。私を苛めていたアイツらは、こんな気分だったんだ。この優越感は、確かに⋯⋯癖になる♡


 やがて、ジャンパーはハッカーがじっと見つめる中、ピクリとも動かなくなった。それを確認したハッカーは、満足げな笑みを浮かべ、その場をゆっくりと立ち去る。

 ピロリン♪ ポケットで着信音が鳴り響いた。そういえば、誰かが脱落した際にはメールで知らせるとルールに書かれたいたな~などと思い出しつつ、ハッカーは届いたばかりのメールを開いた。


〇〇〇〇〇


【脱落者のお知らせ☆】


ジャンパーの報告によってハッカーのスキルが運営に伝えられたため、ハッカーが脱落となります!

自分が死んだことにも気付かない馬鹿は一生底辺のまま、賢いアナタはこれからもその頭脳をピカリンと活かしてね☆


〇〇〇〇〇


「⋯⋯は?」


 メールの文面を理解することを脳が拒む。脱落したのはハッカーではなくジャンパーのはずだ。だって、ハッカーは確かにジャンパーが死ぬのをこの目で見た。まさか運営が間違ったメールを送ったのか。そうだとすれば実に腹立たしい。

 ぷりぷりと怒りながらスマホをポケットにしまおうとしたハッカーは、その時初めて目の前のスマホが自分の物ではないことに気が付いた。同時に、自分の両手は今何も持っていないことにも気付く。

 それならば、このスマホはいったい誰のものだ?


「ハッカーちゃ~ん、ちゃんと見てくれているかな~? 君が脱落したことが書かれたメールだよ! それにしても残念だよ。私は、本当にハッカーちゃんと友達になりたいと思っていたのにさ。でも⋯⋯先に殺したのはそっちだし、仕方ないよね?」


 聞こえるはずのない声がハッカーに話しかけてくる。「何でアンタが生きてるのさ!?」そう叫ぼうとしたハッカーだったが、それが声として形を持つことはなかった。

 

「じゃあ、私はそろそろいくよ。また来世で会おーね!!」


 ジャンパーはそう言うと、スキップしながらその場を立ち去っていく。虚空を見つめる瞳から真っ赤な涙が零れ、ポチャリと音を立てて地面に落ちる。残されたハッカーは、ぐったりと地面に倒れたまま、二度と動くことはなかった。


第4話:『また来世で会おーね!』

 

ガンナーに届いたメール公開


撃って快感見て快感! 刻め銃声のの16分音符!! 君の名前は魔法少女『ガンナー』だよ☆


ガンナーのスキルは『音を消す』って力! 銃声はもちろん、足音やお喋り声まで消せるんだから!! これで授業中でもお喋りできるね☆

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