第1話
☆ドリーマー
咲が目覚めた時、そこはホテルのロビーのようなだだっ広い空間だった。ただ、ここがホテルではないことは、装飾も何もない真っ白な壁や床から分かる。
この空間自体も十分異様だが、それよりも更に異様なのは、そこに居る人達であった。咲と同じく今目覚めたばかりといった様子の少女達が、ぱっと見でも10人以上はいる。しかも、その誰もが驚くほどの美少女であり、その上全員がかなり個性的なファッションセンスの持ち主だった。
「こ、ここはいったいどこですの!? わたくし、確か変なメールが届いたと思ったら光に包まれて⋯⋯」
狼狽した様子で口を開いたのは、いかにもお嬢様といった容姿の、金髪縦ロールの髪型の少女だった。口調も見た目と違わずお嬢様っぽい。しかし、その拳に付けられた鉛色に光るメリケンサックだけが、お嬢様然とした彼女のスタイルから浮いていた。
「それ、うちも一緒~!! 折角野球中継見てたのにさ~、もう最悪だよ!!」
お嬢様に続き口を開いたのは、ピンク色のユニフォームで身を包んだ、ショートヘアーの少女だ。室内だというのに野球帽を被っているその少女は、ぷりぷりと怒った様子で頬を膨らませている。
その時だ。ピロリン♪という電子音が鳴り、咲の持っているスマホにメールが届いたことを知らせた。慌ててスマホをポケットから取り出そうとした咲は、その時初めて自分の着ている服が学生服から大量のフリルがあしらわれた純白のドレスへと変わっていることに気付き、目を丸くする。まさかと思いスマホの画面に自分の顔を映した咲は、そこに映るのが見慣れた自分の顔ではなく、ここにいる謎の美少女集団に負けないレベルのぱっちり二重の美少女であることを認識し、思わず目眩に襲われた。
あまりのショックで倒れそうになる咲の目の前で、再びピロリンと音を出したスマホが画面にメールの文を表示した。そして、その文面を確認した咲は本日二度目の目眩に襲われたのであった。
「な、なんですのこのメールは!? わたくし達に殺し合いをしろですって!? おふざけにしてもやり過ぎですわ!!」
咲と同じでメールを確認したらしいお嬢様が叫び声をあげる。彼女が叫びたくなる気持ちもよく分かる。なんせ、咲達に届けられたメールはふざけた文面でふざけた内容が書かれてあったのだから。
このふざけたメールの内容を信じるとしたら、ここにいる美少女達は全員魔法少女だということになる。そして、咲の脳内に届いたあの無機質な声によれば、咲は『ドリーマー』という名前らしい。咲が『ドリーマー』であるということは、メールにもしっかり記されていた。
〇〇〇〇
信じ続ければ夢は叶う! 夢に夢見るピュアな乙女! 君の名前は、魔法少女『ドリーマー』だよ☆
『ドリーマー』のスキルは、『予知夢を見る』って力!! ちなみに、このスキルは寝ている時にしか使えないよ☆
〇〇〇〇
「ねえ、皆はなんて名前なの? ちなみにボクの名前はシンガーだよ!」
場違いに明るい声に咲⋯⋯いや、『ドリーマー』が顔を上げると、そこには虹色に輝くマイクを握りしめたツインテールの美少女がいた。そのチェックのスカートからはどこかのアイドルを連想させられる。その少女が自分の名前を告げたのをきっかけに、なんとなく自己紹介をする流れとなった。中にはあまり名前を明かしたがらない子も居たものの、とりあえず全員が名前を告げ、ドリーマーも自分の名前を告げたところで、とうとう名前を告げていないのはあと1人となった。
その時、ドリーマーはメールに書かれていたルールの1つを思い出す。最後のルールに書かれていた参加者の名前。『セイバー』・『ランサー』・『アーチャー』・『キャスター』・『ガンナー』・『ガードナー』・『ブレイカー』・『ファイター』・『シンガー』・『ハッカー』・『ドリーマー』・『バッター』・『ジャンパー』。その13人はそれぞれ自分の名前を告げた。ちなみに、あのお嬢様の名前は『ファイター』で、ユニフォームを着た少女の名前は『バッター』だそうだ。
そうなると、残る1人は、メールで『???』と表記されている、名前が明かされていない魔法少女ということになる。ドリーマーは、改めてその残る1人の姿をじっと観察した。
その少女の格好は、黒のタキシードという魔法少女にしては非常にシンプルなものであった。ただ、彼女の顔の上半分はオペラ座の怪人が付けているようなマスクで覆われており、口元しか見えないためどことなく不気味な感じがする。
ドリーマー以外の魔法少女も視線を向ける中で、その仮面の少女はいきなり両手をばっと横に広げた。思わずビクッと肩をすくめてしまったドリーマーの方に一瞬視線を向けた後、少女は大きく口を開く。
「ぱんぱかぱーん!」
奇妙な魔法少女から放たれた奇妙な声に皆が呆気に取られる中で、その少女は楽しそうにステップを踏みながら、再び口を開いた。
「さあ、わたしはいったい誰だ!? 美少女の頭から生えた獣耳やお尻から生えた尻尾に性的な興奮を覚える! ケモノに愛され~、ケモノに愛された魔法少女!! ほら見てくださいよ、こうやってケモミミをモフる私の下半身は既に大洪水!! びっしょびしょのぐっしゃぐしゃ!!」
仮面の少女は、先程『キャスター』と名乗ったピンクの着物を羽織った魔法少女に近づき、その頭から生えている狐耳をモフり始める。キャスターは怯えた様子で、「や、やめてください~!」と涙目で抵抗するが、仮面の少女は無視して自分の欲望を満たし続けた。
そして、ひとしきり自分の欲望を満たした仮面の少女は、くるりと一回転して自分を見つめる魔法少女たちの姿を確認した後、その頭に被っていたシルクハットを脱ぎ、優雅に一礼してからこう告げたのであった。
「そんな私の名前は、『ケモナー』です! 以後お見知りおきを!!」
一瞬の静寂。その後、仮面の少女以外の魔法少女の声が一斉に揃ったのであった。
「「「「そんなわけあるかーーーー!!!!」」」」
第1話:『以後お見知りおきを!!』