第9話
ごめんなさい、予告ではランサーとアーチャーサイドの話を書く予定でしたが、ネタの神様が降臨してどうしてもこのネタを書けと囁いたので⋯⋯。
ドリーマー達と分かれたファイターがとある魔法少女を助けるお話となっております。あの子の意外な一面が見られるかもしれませんね~。そして次回こそランサーサイドを! お楽しみに~!!
☆ファイター
ファイターが別れを切り出した時、バッターとドリーマーはそれぞれ何かしら言いたげな顔をしていたが、結局は引き留められることはなかった。無理もないだろう。誰だってあんなモノを見せられた後でファイターに近づきたいとは思わないはずだ。
それでも⋯⋯本当は引き留めて貰いたかった。バッター達と過ごした時間はそこまで長くはないが、ファイターは勝手に彼女達のことを仲間だと信じていたために、どこか裏切られたような気分にもなった。バッター達と別れるのは彼女達のためなのだと自分に言い聞かせても、自然とあふれ出す涙を止める方法をファイターは知らなかった。だから、泣いていることを気付かれないよう顔を伏せつつ走ってその場を立ち去ったのであった。
どのくらいの時間走っていただろうか。ようやく涙も収まり、ファイターはぐっと顔を上げた。
「⋯⋯いつまでもくよくよしてはいられませんわ。今のわたくしにできる精一杯のことをいたしませんと」
ファイターは、小さくガッツポーズをして気合いを入れ直す。そしてその時、ファイターはすぐ近くでぎゅるるる⋯⋯という妙な音を聞き、それが聞こえてきた方向へと反射的に顔を向けた。
すると、そこに居たのは、うつぶせで地面に倒れる魔法少女であった。一度見たら忘れない特徴的な尼風の衣装、確か彼女の名前は『ガードナー』だったはずだ。
「こんなところで倒れて、一体どうなさいましたの!? まさか誰かに襲われたとか⋯⋯」
ファイターの呼びかけに、ガードナーは返事をする代わりにお腹の鳴る音で答えた。なるほど、先程の妙な音はガードナーのお腹が鳴る音だったようだ。そして、おそらく今倒れている原因は空腹によるものだろう。この辺りは荒野ゾーンになっているようで、実をつけるような植物は見当たらない。その上、肉になりそうな魔物は先程ファイター達でほぼ狩り尽くしてしまった。
「ここで会ったのも何かの縁ですわ。わたくしは殺しはしないと決めておりますし、貴女を助けることにいたしましょう」
そうは言ったものの、ファイターの手元に食料はない。食べ物のありそうな場所までガードナーを運ぶという選択肢も頭に浮かんだが、「空腹、絶倒⋯⋯」などと存在しない四字熟語をうつろな目でぼやいているガードナーは見るからに危険な状態だ。一刻も早く何か食べ物を与える必要がある。
「しょうがないですわ。これはあまり使いたくはなかったのですけれど、背に腹は代えられませんしね⋯⋯」
そして、ファイターは再びドレスを脱ぎ、彼女に与えられたスキル、『暴食の化身』発動のトリガーとなる腹部のファスナーを少しだけ開いた。
「くっ⋯⋯!!」
ファスナーに手をかけたその瞬間、暴走しそうになる暴食の衝動を必死に抑え込むファイター。結果、ファスナーを少ししか開かなかったおかげかファイターは無事自我を失わずに済んだ。
ファイターがやろうとしていることは、非常にシンプルだ。先刻の魔物達との戦いで食べた肉は完全に消化しきれてはいない。その肉をお腹から取り出し、ガードナーへと与える。所謂口移しのようなものだ。
うつぶせのガードナーの身体をひっくり返し、仰向けにしたファイターは、その白く細い指先をガードナーの口の中に入れこじ開ける。多少強引な気もしたが、こうしないと食べ物を渡すことが出来ないのだから仕方ない。幸い、ガードナーは空腹で力が抜けているせいかろくに抵抗することもなく、楽に口をこじ開けることが出来た。
口を開ければ、後はその中に消化仕切れていない魔物の肉を移すだけだ。ガードナーの口の上に覆い被さるようにして、ファイターは自分のお腹の口とガードナーの口をドッキングさせる。ここまでセッティングしてしまえば後は簡単だ。ファスナーの中にある紫色の大きな舌⋯⋯それを使い、自分の胃の中にある物質を掻きだし、鋭い歯で細かくかみ砕いてから、かみ砕いた物質を舌に絡ませガードナーの口の中へと流し込む。作業自体は単調なものであったが、ファイターはその間暴れそうになる衝動を必死に抑えこむのに必死になっていた。自然と息は荒くなり、身体もドンドン熱くなってくる。舌が大きいせいだろう、時折ガードナーが苦しげに呻く声が聞こえてきたが、そこまで配慮する余裕は残されていなかった。
そして、ファイターが我に返った時には、先程まで空腹で動けない様子だったガードナーが、今度はぽっこりとふくれたお腹を押さえて苦しげに呻いていた。⋯⋯やり過ぎてしまった。たらりとファイターの額から冷や汗が流れる。いや、しかし、結果的にガードナーの命を救ったのだからセーフではないだろうか? 現に、ガードナーは若干苦しげな表情ながらも、ファイターに対し「謝謝茄子」とお礼? のような言葉をくれた。
「れ、礼などいりませんわ! オーホッホッホ!!」
ファイターは、自身の失態を誤魔化すべく、高笑いしながらその場を後にする。そんなファイターに対し、律儀にずっと頭を下げ続けていたガードナーであったが、唐突に鳴り響いた着信音に、ようやく頭を上げてポケットに入れていたスマホを手に取った。
『もしもし、ガードナーちゃん? 元気してる~?』
「元気溌剌」
『そっか~、元気なら良かったよ。貴女は私が作ったホムンクルス型魔法少女の中でも最高傑作なんだから、ちゃんと他の参加者ころして無事に帰って来なさいよ? シャド博士との約束なんだから!』
「委細承知」
スマホの向こうではまだ何やら喋っている気配がしたが、ガードナーはそれだけ言うと通話を切ってしまった。そして、先程ファイターが去って行った方をちらりと見て、ぽっと頬を染めたのであった。
〇〇〇〇〇
「お、お腹空いた⋯⋯。う、動けない⋯⋯」
「あ、貴女ブレイカーじゃないですの!? どうして空腹で倒れる魔法少女が2人もいるんですの!? ちょっと待ってくださいまし、今わたくしが助けてあげますから⋯⋯」
第9話:『礼などいりませんわ!』




