番外編②:願ったのは、共に生きる未来
☆『31』
コードネーム『31』。それが魔法少女となる前ガンナーに与えられた名前だった。ろくに言葉も話せないくらいの歳に捨てられた子供を暗殺組織の一員が偶然拾った。そして、常に人数不足に悩まされている暗殺組織の面々は、その拾った赤子をメンバーに加えるため暗殺のイロハを叩き込んだ。
そうして産まれたのが暗殺者『31』。コードネームの由来は31人目のメンバーだからというなんとも安直なものらしい。しかし、31のことをこのコードネームで呼ぶ者は組織内にほとんど存在しなかった。何故なら、31を拾った張本人である『2』が、31のことを『アイス』と呼んでいるからである。何故アイスなのかの由来は、某アイス店の名前を思い浮かべて貰えば分かるだろう。
「ねえ~、31だからアイスってちょっと安直過ぎない? せめて『ハーゲン』とかにしてよ」
「アンタはそんなお上品じゃあねえだろ? 文句言うなら銃に発情しなくなってからにしな」
一度『2』に文句を言ったがこんな感じで全く相手にされず、すっかり『アイス』の呼び名が定着してしまったた。そのため、31はもうこの呼び名を受け入れている。
そして、どうやら仲間達はこれまでの数字だけの名前とは異なるこの呼び名を予想以上に気に入ったらしく、新たに加わったメンバーにも似たような呼び名を付けたのだった。
『31』から1個とんで番号『33』。彼女に付けられた呼び名は『雛祭り』だった。安直かつ若干長いその呼び名は徐々に縮まり、『ヒナ』の呼び名が定着した彼女こそ、アイスが師匠である『2』を除いて唯一ペアを組んだメンバーであり、そしてアイスが世界一大嫌いな人間の名前だった。
射撃の腕こそ組織内でもピカイチの腕だが、すぐハイになってしまうことで暗殺自体は失敗することが多く、劣等生のレッテルを貼られていたアイスとは違い、ヒナは暗殺任務を任されるようになってから一度のミスもしたことがなかった。
組織に加入した時期こそ差があったものの、同年代のアイスとヒナはよく比較された。その度にアイスに向けられるのは、同情の視線だったり嘲笑だったりマイナスのものばかりであった。そんなことが続けば、自然とその相手のことが嫌いになるのは仕方の無いことだろう。
アイスは自分の感情を隠さない性格なので、2人の仲があまり良くない⋯⋯というよりは、アイスがヒナのことを一方的に嫌っているのは組織のメンバーなら誰もが知っていることであった。そのため、アイスは師匠の『2』がアイスにヒナとペアを組めと命令した時、思わず「ついにとち狂ったかこのクソババア!?」と暴言を吐き、直後頭に大きなたんこぶをこさえることとなったのであった。
「あのな⋯⋯言っておくがアタイは狂っていないし、ババアでもねえ。お前ら2人を組ませるって決めたのはリーダーだ。文句あるならリーダーに言いな!」
拳を怒りで震わせながらそう怒鳴られてしまえば、アイスとしてももう反論することは出来なかった。この組織内においてリーダー⋯⋯つまりコードネーム『1』の言うことは絶対であり、逆らうことはすなわち死を意味する。つまり、アイスにはもう世界一嫌いな相手とペアになる選択肢しか残されていないのであった。
「⋯⋯コードネーム31」
「33。ヒナって呼んでいいよ。今日はよろしくね、アイス」
ペアでの仕事初日。嫌悪感を剥き出しにしてコードネームだけを名乗ったアイスとは対称的に、ヒナは表情こそ乏しいものの、友好的な態度で握手まで求めてきた。そんな態度もまたアイスを苛つかせる。
「ねえ、アンタ馬鹿なの? 私がアンタのこと嫌ってることくらい分かるでしょ!?」
「うん、知ってる。だからこそ仲良くなりたい。私はアイスのこと好きだから」
「⋯⋯は?」
ヒナの言葉の意味が理解できず思わず聞き返してしまったアイスであったが、真面目な表情でこちらを見つめるヒナの様子から察するにどうやら聞き間違いではなかったようだ。いや、それこそますます理解に苦しむ。一体何をどうしたらアイスがヒナに好かれるのか。その要素が全く思い当たらない。
「アンタ⋯⋯頭おかしいんじゃないの!?」
「いや、至って正気。そして付け加えるなら私の『好き』は性的な意味でのソレだから」
「⋯⋯は??」
今度こそ完全に脳がヒナの言葉を理解することを拒み、間抜けにポカンと口を開けることしか出来ないアイス。そんなアイスの姿を見たヒナは、この時初めてその能面のような表情を動かし、柔らかな笑みを顔に浮かべたのだった。
「初めて見た時から好きでした。その顔も、身体も、声も、匂いも、全部全部私の心を掴んで離さないの。私はあなたとペアになるため、32番の子を殺したわ。ねえ、この日をどれほど待ちわびていたか分かる? あなたと一緒に居られるこの時を!!」
最早あのいけ好かない済ました無表情暗殺者の姿はどこにもなかった。今アイスの目の前に居るのは、獲物を前にして瞳をギラギラと光らせるただのケモノ。そしてその狩りの対象は⋯⋯間違いなく自分なのだ。
――その後のことはよく覚えていない。ただ、任務は無事終了し、アイスの抱いていたヒナへの敵意と嫌悪感は、どす黒い愛に染められて綺麗さっぱりなくなってしまったことは事実である。
この任務の後、2人はいついかなる時でも行動を共にするようになった。2人の関係性を知る一部の者は、アイスを『プロフェッショナルネコ』と茶化すこともあったが、その頃にはアイスもすっかり慣れてしまい、むしろ茶化されることに悦びを感じるくらいであった。
「いや~、私にマゾの気があるとは思わなかったな~」
「ふふ、SとMは表裏一体なんだよ?」
固いベッドの上で2人、寄り添って話し合う。そんな些細な一時が銃を撃つときと同じくらい快感を感じるものとは知らなかった。こんな時間がいつまでも続けばいいのに。いつしかそんなことを思うようになっている自分がいることにアイスは驚いていた。
しかし、幸せな時間の崩壊は突然訪れた。ある日、ベッドの上で目を覚ましたアイスは、隣に居るはずのヒナの姿がないことに気が付く。最初のうちは、どうせトイレにでも行っているのだろうと特に気にしなかった。異変を感じたのは1時間を過ぎたあたりだ。いくら便秘でもこれは長すぎるだろうとヒナを探すことにしたアイスは、程なくして彼女の姿を見つけ、そして⋯⋯膝から地面に崩れ落ちた。
「こいつは、組織の掟の1つ、仲間殺しの禁止を破った。掟を破った者には例外なく死を。それがこの組織の決まりだ。⋯⋯アンタも、生首になりたくなければ変なこと考えるんじゃないよ」
師匠の言葉は頭に入ってこなかった。そもそも、アレはホントにヒナなのか? ヒナはあんな風に白目を剥いて涎を垂らしたりしない。ヒナにはしなやかな四肢がある。おっぱいは少し小さいがそれもまたヒナの魅力だ。アレには四肢も胸もなかったではないか。そうだ、アレはヒナではない。違う、違う、違う⋯⋯!!
――ジャキン!
「ああ、これこれ♪ この感触⋯⋯♪ 私のヒナは、ここに居る⋯⋯!! ああ、ヒナ! 可愛い雛!! 可愛い可愛い、マイベイビー♡ 今、た~っぷり血を吸わせてあげるからね~♡」
それから数時間後⋯⋯1つの暗殺組織が、たった1人の少女の手によって壊滅した。しかし、その少女の姿は今はどこにもない。全身に銃弾を受け、血まみれで倒れる少女を包んだ光は、処刑された相棒の愛用していた携帯端末から放たれたものであったという。
名前に深い意味はねえっす。
⋯⋯いや、正直思いつかなくて借りました。許して。




