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11人いないっ!  作者: 遥風 悠
13/20

アスタリスク⑥

                        ✽


遠藤 行則がゴールマウスに仁王立ち。小さな体で目一杯『大』の字を作った。

「よっしゃ、こ~い!」と気合一閃。他の7人はペナルティエリアを囲むように陣取った。瞳に光が戻り、特定の人物、伍代 勇樹と本田 成也の目は殺意が宿っているかのように鋭かった。くるなら来い、かかってこいよ、と。グリーンヒルSC、異例のキックオフ。センターサークル付近に相手の姿は無し。主審ですらやや戸惑って、延長戦開始の笛を吹いた。常徳SCに残された道はPK戦。前後半5分ずつの延長戦を守り抜き、PK合戦に引き摺り込むことが勝利への残された道である。その姿、ゴールと遠藤 行則を守るべく7人が手を繋いでいるかのよう。対するグリーンヒルは常徳の強固な鍵をこじ開けること。1度壊してしまえばその扉が再び閉まることはあるまい。常徳の心をおるに足る1点となるはずだ。反撃する力は残っていない。ボールを大きくクリアした所で追って駆けることのできる選手がいないのだから。目下、邪魔するのは制限時間のみ。相反する時への叶わぬ願いを胸に、延長戦が始まった。

 疲れの為か集中力の高まりか。後者は希望的観測かもしれない。常徳SCの8人に外からの声は聞こえていなかった。聴覚に回すだけの余力は残っていなかった。グリーンヒルSCが攻め、常徳SCが守る構図、その間、完成と悲鳴が止むことはなかった。ましてや5分ハーフの短い短い延長戦、観客だってそれを知っているから。それでも、その声を8人に届けることはできなかった。苛立ちを覚えるほど、じょうとくには長い長い分間。いいようにボールを回され、好き放題シュートを打たれた。体は重いし頭は働かないし、呼吸は苦しいし足は痛いし。許されるならこのまま座り込んでしまいたい。走りたくない。立っていることが億劫(おっくう)だった。それでも。運良くという表現が正しいかどうかということは置いていおいて、守りきった。護りきったのだ。どうやったかなんて誰も分からない。常徳SCがボールをキープすることはなかった。ゴールキックで、クリアボールで敵陣までボールを蹴り返しても、常徳SCが攻撃を継続させることはできなかった。ボールを追いかける余力がないのだから攻撃に転じることなど。前半の5分間だけで2回、ゴールポストがボールを弾いた。8人の中で最もボールに触れたのは遠藤 行則だったかもしれない。それでもゴールラインは割られなかった。前半、守りきった。けれどもハーフタイムはなし。そのまま陣地を変えてすぐに後半スタート。気を休めたり一息つく隙もなかった。ただしそれはグリーンヒルも同様だった。常徳にはない焦りが追い詰める者にも訪れていた。負けは、許されないのか。勝って当たり前。もしも常徳SCが勝とうものなら奇跡だ。8人のチームが優勝だと。常徳SCには何の圧力もかからない一方で、グリーンヒルSCの子供達には目に見えない絶対条件が迫っていた。

 こっちは11人で相手は8人。大会前に8人のチームが参加するという噂は聞いていたが、実際に試合をするとは予想していなかった。しかも決勝戦で。勝って当たり前。向こうはハンデを背負って試合に臨んでいる。どうしてサブのメンバーを出場させないのかは疑問だが、負けるわけにはいかないのだ。延長戦にまで持ち込まれてしまうこと自体恥ずかしいのに、下手したらPK戦だ。そこまでいったら人数なんか関係ない。何が何でも優勝しなくてはならない。相撲の横綱って大変なんだな、あるグリーンヒルSCの選手はこんなことが頭を巡ったという。追う側と追われる側。背負う者と持たざる者。強き者と弱き者。どちらが楽かなんて考えたこともなかった。でも今、はっきりしていること。それは、常徳SCに失うものはないということ。何も恐れずに挑んでくるだろう。それが怖い。もちろん優勝したい。決勝ラウンドの決勝戦まできて負けでいいと思っている奴はいない。ただ正確な気持ちというと、、負けるのが怖い。何を言われるか分からない。結果は同じだが、気持ちが後ろ向きだった。


                        ✽

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