第一章 3
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―カンテノール国・カンテノール市・一番街・クランベル通り・スクエアビル2階―
「今日は船について話し合いたいと思う」
会議室のようなところで3人の男達が難しそうな顔をして一人の男の話に耳を傾けている。
「まず船と言われれば今一番ポピュラーな交通手段である、と言えるだろう」
と、そこまで言い、会議の取りまとめ役のような男は周りを見渡す。皆一様に真剣に聞く様は、この話を自然に前に進める。
「そして戦争においても、こと海上の戦闘においてはこれを使うのは当たり前のことであるし、そしてこれはここ、アレイフィールを代表する乗り物である」
ここまで言った時点で、話を聞いていた男の中の一人が手をあげる。
「ん、何だ?セバ」
セバと呼ばれた青年は言われると同時に席を立ち、
「しかし一口に船と言っても、その用途別に種々様々な形式のものがあります」
その答えにうんうん頷きながらまとめ役は話を進める。
「そうだな。一般的に船と言えば連想するのは軍用船、つまり戦争の方の船だな。庶民の足として使われだしたのはごく最近だ。まだそこまで根ずいてはいないからな。事情が事情だけに、簡単に船を使って海外に出るという行為自体、あまりおこなわれていないしな」
「この戦争が終われば、大々的に使われるようになるでしょうね」
「うむ。それは間違いない。お互いの事をもっとよく知ること。これは戦争後我々が最初にすべきことだよ」
みな一様に頷いている。今回の会議はこのまま荒れることなく次の議題にに向かいそうだ。3人はお互いにこれからは船の時代だな、とか民間人が船を持つ時代がやってくる、とか論議をしている。そこで議長がパンパン、と手を叩いて注目を集める。
「なんです、編集長?」
セバと呼ばれていた青年が言う。この議題は終わりだと思っていただけに他の二人も少し驚いた風である。すると編集長は手元のファイルから一枚の紙を取り出し
「この写真は最近、カンテノールの沖合い百五十テラのところで写されたものだ」
あまり鮮明とはいいがたいその写真には、高速で移動する何かが写されていた。
「何か写ってますね」
男の一人が食い入るように写真をみている。
「超常現象か何かですか?それなら僕の担当だ」
「フォル、そんなに顔を近付けるな。俺らが見えないだろうが」
苦笑気味にセバが言う。
「あぁ、すまんすまん。ついクセで」
フォルが落ち着いて席に戻ると、編集長がもったいをつけながら言う。
「諸君はこの写真、一体何の写真に見えるかね」
3人は一様に考え込む。実際何の写真なのかはわからないが、セバが思案げな顔で言う。
「雲じゃないでしょうか」
「ふむ。雲か」
「ええ。実際極風が吹く直前の雲と言うのは、普通の状態の雲より高速で動くと言う事ですし。極風がセント・ウィン海独特の気象現象と言う事は周知の事実ですが、同じ世界です。その現象がカンテノール沖合いの海で起きたとしても何ら不思議ではありません」
「なるほど。興味深い話ではあるが違うな」
「違い・・・ますか。では一体何でしょうか」
「これはな、船の写真なのだよ」
「船?そんなまた僕らをかつごうとしてもダメですよ、トランさん」
編集長であるトランに向け、疑惑の目が皆から寄せられる。その視線も意に介さず、トランは続けた。
「いや、諸君を担ぐのは毎回のことではあるが、今回は違うのだよ」
と、少しも笑わないで言う様をみて、セバたちもさすがに驚きを隠せないようだ。
「こ、これが船・・・?これって空を飛んでますよね?」
「あぁ。機械大国ブルトスによって作られた最新型の船、翔空船だ」
「翔空船・・・」
うんうん、と得意げに言うトランはさらに続けた。
「これは極秘情報でまだ翔空船の数もほとんどないようだがな」
「でもブルトスがこんな船を持っているとしたら、それこそ世界の勢力図が塗り替えられるんじゃないでしょうか?」
「確かに・・・。トランさん、これすごいスクープじゃないですか!?」
メンバーの反応に気をよくしたのか、少しばかり胸を張ったトランは皆を手で制して言う。
「まぁスクープはスクープだが、我々は記者である前に一人の人間だ。カンテノール、ひいてはこの世界を無暗に荒立てるわけにはいかない。ましてや確たる証拠もない状況だ。そんな状況で発表したとしても意味はない、ということは」
皆が真剣に耳を傾ける中、トランは宣言する。
「調査しにいこうと思う。ブルトスへな」