第一章 1
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「将軍!一体どういうおつもりなんですか!?このような少年を我が軍の攻撃部隊に加えるなんて!」
威勢のいい若い声がブリッジから響く。晴れ渡る海上に影を落とすかのような黒い集団・・・、サンドレアス軍の海軍である。
「上の命令だ。・・・・お前も噂ぐらい聞いた事があるだろう。こいつが『撃剣』だよ」
『撃剣』、とそのフレーズを聞いたとたんに若い兵の顔色が変わる。
「げ、『撃剣』!?あ、あの一瞬でスタンリオールを包囲する帝国軍を破ったと言われるやつですか!?し、しかしあれは何の目撃情報もなく、真偽は定かではないと・・」
「上もバカではないさ。そいつが『撃剣』なのかどうかは、ちゃんと確認済みだそうだ」
「そ、そんな・・・、こんな子供がですか!」
―時はオルン暦1090年、世はまさに力が横行していた。オルン暦999年に始まったファイブレットウォーズと呼ばれる戦争は、アレイフィールド全域を巻き込む戦争へと次第に広がっていった。それまでこの大地にここまで大規模な戦争がなかったために、人々が恐怖の真っ只中にいる・・・そんな頃の話だ―
「しかし将軍!こんな『撃剣』などの力を借りなくても我々の力だけで勝って見せます!我々にどうかチャンスを与えてくださいっ!もう一度だけでいいんです、お願いします!」
「クライアットよ、気持ちは分かるが・・・」
といいつつ、リカルスは『撃剣』の方をみやった。
「どうかな?」
声を掛けられた少年はくいと顔を上げて
「・・・・・僕なら構いませんが」
とだけ静かに答える。その少年の表情の中に何か違和感を覚えたリカルスだったが少しの間を置いてクライアットに告げる。
「・・・そうか。よし、クライアットよ」
「は、はい!」
「やってこい。思う存分な」
「・・・・・はいっ!」
指揮官の許可を得たクライアットはすさまじい勢いでブリッジから出て行った。「困った物だ」と言いながらも、何か嬉しそうにしている指揮官を捕らえる視線に気付いたリカルスは、
「ふぅ・・・。いや、すまんな。あれの部下の中に、先の戦いで命を落としたものがいるのだよ。いつもはな、もう少し冷静なんだが・・・。いかんせんまだ若いからな。まぁ気を悪くしないでくれ」
「いえ・・・。使わないで勝てるのなら、それに越した事はありませんから」
「使う?あぁ君の力の事か。・・・ところで『撃剣』よ。おぬしに名はあるのかな?」
「・・・・・・・・」
不思議そうな顔をしてリカルスを見返す『撃剣』。その仕草に名前を聞くこと自体が間違ったことなのだと思ったリカルスは、「い、いや、なければいいんだがな」と言った。数秒の嫌な沈黙が流れた後、何か思いついた子供のように顔を上げた『撃剣』は短く自分の名を告げた。
「ティル・・・、ティル・トーラ」