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彼女は王妃を目指してる  作者: 水月 裏々
本編:わたくしが王妃になるまで
6/9

オマケ

 その日、ティタニア王国の大聖堂では、とても喜ばしく大事な儀式がおこなわれていました。


 宰相様やお父様を初めとする人々の注目の中、宝冠を被ったダリウス様は、神官様から小ぶりの冠を受け取り、厳かに口を開きます。


「第二十九代国王、ダリウス・ランベール・アナクレト・ベルジュ=ティタニアの名において、エイメ侯爵家の娘、ルアンヌを王妃に立てることとする」


 その足下に跪くわたくしは、すっと顔を上げました。そして口を……口を……パクパクさせます。


 胡乱げな紺碧の瞳が、わたくしを見下ろしました。

 あの目はこう言っています。セリフ忘れたのか、と。


 いえいえいえ、まさかそんな。えーと、うーんと。


 はっ、思い出しました。


「……わたくしルアンヌはこれより先、自らより国民を思い、たとえ辛く困難なことがあろうと一人一人に寄り添い、決して裏切りはいたしません」


 王妃の誓い、すなわち王との婚姻の誓い。

 でも、やっぱりこれだけでは味気ないですね。ひと言付け足しましょう。ええと、そして――


「そして、何よりダリウス様を夫とし、信じ、支えはげまし、永遠に愛することを宣言します」


 後ろの参列者さん達が、かすかにざわめきました。何人か噴き出した気配もします。感動したのですかね。


 視線の先のダリウス様は、なんとも言えない顔をしていました。あ、ため息はダメですよ、おめでたい日ですからね。


 とにかく言い終わったら、最後は誓わないといけません。ビシッと決めましょう。美しく!


「唯一のお方を主神とする、この世の数多の神々には、この心の終生変わりませぬこと、ここに誓約申し上げます」


 両手を胸に当て、再び頭を下げました。

 ダリウス様がそっとわたくしの頭に冠をのせます。そして離れぎわ、ささやき声が聞こえました。


「本当に……いろいろと台無しな予感がする王妃だな……もういい、愛してる」



 振り返ったわたくしの前で大聖堂の扉が開けば、国民の歓声が滑り込んできます。

 聖堂の中でも祝福の声が上がりました。



 しくしく泣いているお父様にマントをハンカチ代わりにされて、笑顔で足を踏みつける宰相様が見えます。仲良しです。


 相変わらず女性達の熱い視線を浴びる英雄の兄弟も、彼らには興味なさそうにお兄様に寄り添う美人のお()()様も見えます。


 歓声、歓声、大きな祝福!


 隣ではダリウス様が、わたくしに手を差し出しています。この次はなんでしたっけ。


「ほら、行くぞ。お披露目だ」

「…………はっ。そうでした、参りましょう!」


 純白のドレスに、黄金の冠。わたくしの髪は茶色いので、残念ながらダリウス様のように冠に同化しません。


 それでも、いつかこの宝石だらけで重い冠が、わたくしに似合うようになるのでしょうか。



「王と王妃に祝福を!」

「ティタニア王国ばんざい!」

「お幸せに!」



 ……わたくしは、こうして王妃になったのでした。



 *・*・*



 一年半後――。


「ルル」


 二ヶ月程前に生まれた息子を見つめていたわたくしは、その聞き慣れた声に振り返りました。…………わたくしをルルと呼ぶのは一人だけです。


 ルアンヌですから、ルアとかルンとかルヌだと思うのですけれど。余分のルはどこから出てきているのでしょう。


「ダリウス様。お仕事が終わりましたの?」

「なんとかな。……また夜になっちまった。あの凶悪宰相、ドカドカ仕事を運んできやがって」


 ダリウス様はだいぶ不機嫌です。そんなにあの宰相様は凶悪なのでしょうか。

 でもダリウス様は、わたくしのお父様まで凶悪だっておっしゃるのです。だからきっと誤解ですね。


 紺碧の瞳がムッとしたような顔のまま、眠る王子の顔を覗き込みました。この子の瞳は、残念ながらわたくしと同じつまらない茶色です。

 髪の色は金髪になりそうなのに。


「こいつの顔も、寝てるとこしか見たことねえ。喋るようになって、『僕の父上って誰ですか? 顔も見たことないんですけど』とか言われたらどうしよう」

「……どうしようって言われましても」


 どうしようも無いと思うのですが。


 でも、それはちょびっと困りますね。どうしましょう。


 親子の間にミゾがあるのはよろしくありません。親睦を深めなければ。


「親睦、親睦……。お散歩とかでしょうか?」


 悩むわたくしに、ダリウス様は笑いました。


「じゃあ、頑張って日が出てるうちに仕事を終わらせたら、ご褒美に一緒に散歩してくれるか? 王妃様」

「まあっ。この子も一緒にですのね」


 素晴らしいお誘いです。わたくしも、にっこり笑いました。

 お部屋が微笑みであふれます。


「楽しみにしてますわ」

「ああ」


 ダリウス様が、少し、眩しそうなお顔で頷いてくださいました。


 ――――ああ、わたくしは、幸せです。



 わたくしは、王妃に……いえ、ダリウス様の妻になったのですから!

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