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彼女は王妃を目指してる  作者: 水月 裏々
本編:わたくしが王妃になるまで
1/9

1 お父様のお願い

 その日、お父様はにっこり笑っておっしゃいました。


「いいかい、ルアンヌ。お前ももう十六歳。社交界デビューをしなくてはね。……目指すは王妃様、だよ」

「はい?」


 わたくしはお父様の笑顔を見つめて、耳が悪くなったのかしら? と首を傾げたのでした。




 我が国……ティタニア王国は、大陸の西端で、一方を山脈に、残りの三方を海に囲まれた大国です。


 昔は山脈のこちら側にも沢山の国があったそうですが、前王の時代にすべて版図におさめられました。


 前王陛下は山脈の西を統一した後、すぐに崩御されたそうです。


 今の王様は、八年程前に、二十歳という若さで即位なさいました。


 とても有能な方で、見目も良く、立派な方だそうですが……。


 独身です。


 即位されたのが八年前。現在二十八歳です。


 貴族の適齢期は二十歳まで。どんなに遅くとも、二十三ぐらいまでには結婚するものです。


 それが、二十八歳。


 ありえません。適齢期過ぎすぎです。

 絶対何か……そう、何かあるはずです。一国の王なのに婚期を逃すような理由が、何か。


「お〜い、ルアンヌ? 大丈夫かい?」


 お父様が、わたくしの顔の前で、心配そうに手を振っています。


 わたくしは、ハッと我に返りました。


「大丈夫ですわ、お父様。……それで、なんと仰ったのですか? わたくし、うっかり聞き逃してしまいました」


 お父様は、またにっこり笑いました。


「うん、あのね。王様が全然結婚しないんで、宰相さんがお怒りでね。それで、貴族の娘の中からお妃候補者を募ることになったんだ」


 それは、まあ、国の王様に後継が生まれなきゃ困りますものね。

 でも、問題はその後です。


「それでね、うちも立候補しておいたから。そうそう、来週その王妃候補を集めての夜会があるんだって。頑張るんだよ、ルアンヌ。目指すは王妃!」

「お〜〜! って、違いますわ。嫌です! どうしてですの!?」

「うーん」


 お父様はぼりぼりと頭を掻きます。


「うちは侯爵家だろう? だけど、私の妻は庶民同然の下級貴族だった」

「まあ、そうだったのですか」


 初耳です。お母様はわたくしが生まれてすぐに亡くなってしまったし、お父様はあまりお母様のお話をされませんでしたから。


 お父様のお話は続きます。


「それで、お前の兄さんの婚約者は貴族ですらないんだ」

「まあっ、お兄様もスミに置けませんわね」


 お兄様に婚約者がいたとは知りませんでした。いつできたのでしょう。

 ……たった二人の兄妹なのですから、教えてくれても良いのに。


 でも、そういえばこの頃よくおめかしして出かけてました。デートでしょうか。


「いや、それでね、ルアンヌ。二代続けてあんまり妻の身分が低いと、我が侯爵家は侮られる。でも、私はできれば恋人同士を引き離したくはないんだ」


 お父様、目が真剣です。


「その点、ルアンヌには好きな人もいないから都合が良いし、王妃になってくれれば、我がエイメ侯爵家は安泰だ。…………王妃になれなくとも、できるだけ上位の貴族を捕まえて欲しい」


 そこでお父様は頭を下げました。


「もちろん、他に好きな人ができたら、父さんは応援するぞ。だが、頼むルアンヌ。お前のお兄さんとお義姉さんと侯爵家の為、王妃候補としてお城に行ってくれ!」

「……」


 なんだか、難しくてよく分かりません。


 でも、大好きなお父様の頼みです。……やってやろうではありませんか。


 わたくしは拳を握りました。


「わかりましたわ、お父様! 頭を上げてくださいませ。陛下をうまく丸め込んで、王妃におさまれば良いのですね。あら、なんというか……悪女さんですのね! 頑張りますわ」


「えっ……いや、悪女って……しかもさんって……えええ……」


 お父様が何か仰ってますが、気にしません。


 大丈夫ですわ。ええ、お任せくださいませ。お父様と、お兄様、ついでにお義姉様の為――。


 わたくし、王妃になってみせますから!



 *・*・*



 それにしても、夜会とは本当に人がたくさんいるものです。


 着飾った女の人がいっぱいです。全員王妃候補なのでしょうか。……いえ、兄弟や、父親っぽい男の方々もいますから、女の方々も全員が王妃候補というわけではなく、候補のご家族もいらっしゃるのでしょう。


 わたくしは、キョロキョロと知り合いや、友人がいないか探しますが、どうも知り合いは参加していないようです。

 わたくしの友人達は、皆婚約者がいらっしゃいますから、やっぱり来ていないのでしょうね。


 しかし、皆さん美人です。


 せっかく真っ赤なドレスを着てきたのに、まったく目立ちません。不思議です。……わたくしの容姿が地味なのがいけないのでしょうか。厚化粧したのに。


 首をひねりつつ、奥の、一段高くなったところの横にある扉を見ます。

 陛下はまだ姿を現しません。


 ……………ううっ。ダメです、人酔いです。


 わたくしはテラスに行き、そこからよろよろと庭園に下りました。


 息を吸って〜、吐いて〜。


 うっ、ダメです。気持ち悪い。


 仕方ありません。まだ陛下も来ないし、ちょっと散歩をしてきましょう。


 ふらふらと庭園を徘徊します。


 ふらふら、フラフラ、ふ〜らふら。


 だいぶ会場から離れたでしょうか。気分も楽になってまいりました。

 もう少し歩いたら会場に戻りましょう。


 あら?


 ……なんだか、話し声が聞こえてきます。ケンカでもしているような…………。


 このまま進んでも良いのでしょうか。

 わたくしは立ち止まりました。


 途切れ途切れに話し声が聞こえます。


「……って言っ……でしょう」

「うる……い……俺……ろ」


 よく聞こえません。

 わたくしは声の方に向かって歩き出しました。


 少し歩くと、開けた場所に出ました。

 魔石で作ってあるのでしょうか、ほんのり光っている噴水もあります。

 そこに、二つの人影が。


 わたくしは木の後ろに隠れました。これは世に言う…………立ち聞きですね!



 なんだか、わたくしシュラバ好きのおば様みたいです。

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