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忘れちゃいけないことがある

作者: りいち



 本当は言うつもりなんてなかった。少なくとも今はまだ。だって心の準備ができていなかったし、何よりそれを聞いた時の周平の顔を見るのが怖かった。できれば言わずに自然と終わってくれたら……そんな卑怯な考えがあったから、こんなことになったのかもしれない。

 案の定、周平は目の前で抜け殻のように私を見ていた。

ほらね、思った通りの反応。周平が悪いんだよ。ずっと一緒にいような、なんて柄にもないこと言うから。だから私、耐えきれなくなっちゃったの。その優しさも、私に対するあなたの気持ちも重くて重くて仕方なかった。思わずそれら全てを払いのけるように口をついて出てしまったの。本当にまだ、言うつもりなんてなかったのに。



「……好きな人ができたの」



 そう、そうなのよ。周平のことを好きだと言った私はもうどこにもいないの。

 怖い顔した彼に、相手は誰だと聞かれて正直に彼の親友の名前を言った。余程意外だったのか、周平は一瞬驚いた顔を見せるもすぐにまたいつもの冷静な表情に戻った。それがあなたの強い所であり、悪い癖だと私は思う。健、つまりあなたの親友は決して自分の感情を隠そうとはしない。そりゃ頭はあなたより悪いけど、それ故の純粋さを彼は持ってる。私はそこに惹かれたの。



「酷い女だって罵っていいよ」



 罪悪感に紛れて、気持ちが変わることだってあるんだよ、と言い訳を盾にしている自分がいた。

 だけど周平はこんな最低な私を責めるわけでもなく柔らかく微笑む。

 健のことは本気みたいだな、と呟くその言葉に私の胸がキリリと痛む。怒るどころか、気付けなくて悪かったと逆に謝る周平。違うんだよ、周平が悪いんじゃない。周平のことは本当に本当に心から好きだった。あなたのクールな性格も、時折見せる優しさも。

 自分から別れを告げたくせに目から溢れる涙を止めることができなかった。本当に、周平だけが好きだったんだよ。私だってずっと一緒にいれたらいいなって思ってた。それでも今は、あの人が好きなの。ごめんなさい、お願いだからそんな風に笑わないで。




忘れちゃいけないことがある

(重ねてきた時間に嘘なんてなかった)





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