悪役令嬢と後宮。
後宮の入り口で慌ただしくしていると年配の女官が現れてヴァンディミオン殿下に挨拶をする。
「ヴァンディミオン殿下。言いつけの通りに側室様方にはお部屋で女官と待機していただいております。何事があったのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
メルディナのように姿勢がよく綺麗なお辞儀をする女性はこの後宮の女官長だと名乗った。
「女官長、まだ詳しいことは言えないのだが皇帝陛下の許可はとってある。これから側室全員の部屋をまわりこの女官に確かめさせたいことがある。」
「ですが、後宮は・・・。」
「ここで問答している時間はないのだ。女官長も来てくれ。」
少し融通のきかない女性のようだけれど、ヴァンディミオン殿下の強い言葉に従うことにしたようだ。
ヴァンディミオン殿下と一緒に数名の騎士とリリアと女官長を連れ、側室の部屋をまわる。
出迎えた側室がヴァンディミオン殿下に挨拶をしようとするが
「緊急の用事だ。挨拶はいらない。部屋つきの女官はこれで全てか?」
そう言って、女官を並ばせ名簿と比べリリアに確認をさせるがリリアは首を横に振る。
何があったか聞きたそうだが、後で皇帝陛下からお知らせがあると言い退出する。
何度か同じやり取りがあり、やっと本命のカロリーヌ様の部屋に着いた。
部屋の前で待機している騎士に異常はないか確認するが
「物音ひとつしていません。」
ここにきて少し不安になってきた。
リリアに頼んだ女官はカロリーヌ様の息がかかっていると思っていたけれども、動きがないということはリリアに頼んですぐに逃げてしまったか、それとも偽物の女官だったのか?
それともカロリーヌ様は関係ないのか?
ヴァンディミオン殿下と顔を見合わせ、カロリーヌ様の部屋をノックする。
入室してすぐに部屋の豪華さに圧倒された。
部屋の主であるカロリーヌ様は中央のソファーに座り笑顔で出迎え立ち上がり
「ヴァンディミオン殿下、セシリア様。カロリーヌでございます。父が大変ご迷惑をかけたようで申し訳ありません。」
そう言い頭を下げる。
「それはいい。この部屋に仕える女官を全てみせていただきたい。」
「申し訳ありませんが、女官が一人顔に大怪我を負いまして錯乱状態なのです。たまに暴れるので一人信頼する女官をつけて看病させておりますのでここにいる女官だけでもよろしいでしょうか?」
困ったように頬に手を当ててヴァンディミオン殿下に願う。
「いや。全ての女官をみせてもらいたい。」
「ですが、女性が顔に怪我を負っているのです。その女官のためにご容赦願えませんか?」
普通ならば女性が顔に怪我をして誰にもみられたくないという気持ちはわかるし、ヴァンディミオン殿下も意見を引いただろうが今回は引くことはできない。
「皇帝陛下の許可はとっている。そうだな・・・。男である私ではなくセシリアに頼もう。」
そう言ってヴァンディミオン殿下はカロリーヌ様に妥協したかのように言うが
「顔に怪我をしたために錯乱状態になることがあるのです。何かあったら・・・。」
どうしても女官に会わせたくないらしい。
「私なら大丈夫です。リリアも一緒に。殿下方はドアの前で待っていてください。」
そう私が言うとものすごい目で睨まれた。
考えたら、大臣の問題が起こってから後宮の出入りは監視していたので大きな物を持ち出した記録はない。そして今回は事があってすぐに後宮の人の出入りも制限した。
限りなく怪しい。
「ヴァンディミオン殿下。いかに皇太子といえどここは皇帝陛下の後宮。私たち側室の住居です。そんな乱暴なことができるとお思いですか?」
カロリーヌ様は皇帝陛下の名前を出すが
「問題ない。皇帝陛下の許可をとってしていることだ。」
ヴァンディミオン殿下に切り捨てられる。
「女官をみせてもらいたいのだが?」
カロリーヌ様は青ざめて震えながら下を向き何も答えない。
「女官長、女官の部屋はどこだ?」
カロリーヌ様に質問するのは諦めて女官長にヴァンディミオン殿下が聞く。
「ヴァンディミオン殿下。ここは側室様の部屋。その側室様の許可がなくては・・・。」
「ここは皇帝陛下の後宮だと言ったな。皇帝陛下に調べるように言われている。確認してもかまわない。」
意見を引かないヴァンディミオン殿下に諦めたのか、女官長がひとつのドアに向かう。
カロリーヌ様をみるとまだその場で下を向き震えている。
廊下にも騎士がいるし逃げ出す心配はないだろうが、何かあったらと思ったので騎士に目配せしそばにさりげなく近寄ってもらう。
ヴァンディミオン殿下と一緒に女官長の開けたドアの中に入ると一人の女性が包帯だらけでベッドに横たわりその傍らの椅子に一人女性が座っている。
ドアが開いたことに驚いたのか、椅子に座っていた女性が振り返ると後ろに続いていたリリアが
「この人です!この人が私に!」
と叫んだ。
その声を聞いた女性は素早く何かを取り出したが、ヴァンディミオン殿下が動くのが早かった。
女性の何かを握った右手をヴァンディミオン殿下が腰に下げていた剣で鞘ごと叩くと、小さな短剣が落ちた。
そのままヴァンディミオン殿下は鳩尾を突き女性の気を失わせる。
後ろで物音がするので振り返るとカロリーヌ様が騎士に取り押さえられている。
「私に触るな!無礼者!この身に触れていいのは皇帝陛下ただ一人!」
そう叫ぶカロリーヌ様だけれど騎士は離さない。
危険はなさそうなので、ベッドに横たわる女性をみると確かに顔に傷を負っているがそれ以上に身体の傷がひどい。
殴打の跡や火傷の跡まである。まるで拷問でもしたかのようだ。
まともな手当てもされていなかったのだろう。少し匂っている。
「すぐに医者を呼びなさい!」
私が叫ぶと騎士の一人が部屋を出て行った。
「ヴァンディミオン殿下、まずはこの女性の手当てをしなければ・・・。」
そう言うとヴァンディミオン殿下は難しい顔をして
「この女性が件の女官だろうか?」
「多分。」
「まるで拷問でもしたかのようだな・・・。」
そう言ってカロリーヌ様の方をみるが、カロリーヌ様は騎士に取り押さえられたままこちらをみない。
ヴァンディミオン殿下はカロリーヌ様の方に向かい
「事情を聞かせてもらいたい。」
と冷たい顔で見下ろし言うがカロリーヌ様は答えない。
「ヴァンディミオン殿下。皇帝陛下に知らせましょう。」
私が言うと、それを聞いた瞬間にカロリーヌ様が崩れ落ちた。
「側室の方を縛るわけにはいきませんが、この倒れている女性は危険なので腕を縛っておきます。」
騎士の言葉に頷きヴァンディミオン殿下は
「セシリア、椅子に縛り付ける必要はないだろうか?」
真剣な顔で私に言う。
「多分大丈夫だと思います。ここで皇帝陛下のご指示を待ちましょう。」
そう言ってこれからのことを考える。




