悪役令嬢の人生の振り返り。
皇帝陛下から、皇后陛下とジュリウス王子について改善できそうだと聞いていたので、お祝いのような気分でお昼はヴァンディミオン殿下と外で食べようということになり、待ち合わせをした。
大臣については、貴族社会から無視されているらしく側室も大人しいようだ。
気になる女官については、大臣にまったく影響力がなくなったことにより皇帝陛下が側室の部屋を訪れる予定だとか。
今までは大臣や側室が周囲の人間と一緒になって、皇后陛下の言動について言及してきたら・・・と考えて皇帝陛下も行動できなかったのだろう。
大臣と側室については皇帝陛下にお任せして、そして皇后陛下がジュリウス王子に対しての考えを改めてくれれば問題は解決するように思われる。
もちろん、皇后陛下がヴァンディミオン殿下に対しての態度を変えてくれるのが一番いいのだが、根が深い問題なので目先のことから改善していくしかないだろう。
ジュリウス王子は、今のままでは成人してからただの皇帝の弟としてただ無為に過ごすしかないが、きちんと教育されればまだ間に合う。
皇后陛下が囲い込むのをやめて、ジュリウス王子が成長できれば、ジュリウス王子の望んでいるヴァンディミオン殿下のお手伝いをすることも、領地の運営をする方法も、様々な可能性がある。
ヴァンディミオン殿下は自分が母である皇后陛下との関係を改善するよりも、ジュリウス王子を優先して考えているふしがある。
私は、そんな優しいヴァンディミオン殿下が婚約者として誇らしい。
照れながらお昼のために支度をする。
今日は私は執務室で書類仕事だったが、ヴァンディミオン殿下は少し皇太子宮からでている。
戻ったら知らせるとのことだったが、私はなぜか書類仕事がはかどり、こうしてドレスを着替え髪型を変える時間がとれた。
(別にヴァンディミオン殿下との外でのお昼がデートみたいだからっていつもより仕事を頑張ったのではないわ。たまたま、今日の案件が簡単なものばかりだったからよ。)
そんなことを考え、仕事用に主に着ている機能的なドレスではなく、シフォンのひらひらとしたクリーム色のドレスに後ろの髪を下ろしサイドの髪だけをリボンで留めた私の姿を鏡にうつす。
天気のいい外での食事だから、あまりゴテゴテと飾らずあっさりとした姿だが、髪の色が明るいので少し華やかにみえるだろう。
悪役令嬢の設定の女性に転生したが、今の自分のおかれている状況は私にとって前世よりも幸せかもしれない。
高位の貴族の家に産まれたことで、将来の王妃として教育を受けることができた。婚姻関係の解消となってしまったが、皇太子であるヴァンディミオン殿下の婚約者になり経験から公務の手伝いをすることができる。
そして、悪役令嬢であるがゆえか、外見はきつい顔立ちだが美人である。
転生当初、悪役令嬢として断罪され修道院に送られ一生神に仕えることを考え仕事をすることができないと思い絶望し、努力した結果が今現在の私である。
仕事を思う存分することができて、ヴァンディミオン殿下という支えあえる将来の伴侶がいて公私ともに充実している。
私の設定は正直気に入らなかったが、この設定だったからこそ仕事をすることができることを考えると、このランスロット帝国の平民という立場や貧民街に住む人々、そして教育を受けるという機会に恵まれない子供たちのためにもより一層努力しなければバチが当たるのではないかと思えてくる。
そのくらい今の私は幸せである。
ランスロット帝国に来ることに対して一番心配だった皇后陛下とは、イストール国の王妃様たちと同じような関係が築けなさそうなのが残念だけれど、ロックオンされないだけマシだと思うことにしている。
様々なことが起こったが、順調に解決できそうで私は浮かれていたのだと思う。
ヴァンディミオン殿下を先に行って庭で待っていようと思ったのが間違いだった。
私の目の前にはジュリウス王子がいる・・・。
(ジュリウス王子のことは、皇帝陛下にお任せしたはずなのに・・・。)
そんなことを思いながら、後ろに控えていたメルディナに合図をして皇太子宮にいる人たちにジュリウス王子襲来を知らせてもらうことにする。
二人でテーブルを挟んで座り、
「こんにちは、ジュリウス王子。また後宮を抜け出してきたのですか?」
そう話の水を向ける。
ヴァンディミオン殿下が早く来てくれるといいのだけれど・・・。
ジュリウス王子はさすがにちょっとこちらを伺いながら
「・・・うん。」
返事だけしかしない。
(悪いことをしている自覚があるのかしら?)
以前とは違い、どうしても自分がしたいから!という言い訳をしなくなった分、成長したと思っていいのだろうか。
「何か御用ですか?」
微笑ながら優しく聞くと
「抜け出したのは悪いことなのはわかっているのだけれど、僕がもっと頑張れば、ヴァンディミオン兄上が必要としてくれるのか気になって・・・。」
(少し考え方が改善されたのかしら?)
そう思い話の先を促すと
「父上が、僕に付けてくれた教育係に聞いたんだ。今の僕では兄上のお仕事を手伝うどころか、わからないことだらけで兄上の時間を奪ってしまうだけだって。兄上がすごいのは、自分で考えて自分で学ぼうと努力したからだって。誰かに聞けばいいっていう考えだと誰の役にも立たないって。」
目を潤ませながら、ぼそぼそと話してくれる。
皇帝陛下から送られた教育係りはジュリウス王子にとって、自分のこれまでの考えを全否定したのだろう。
そして皇后陛下も、皇帝陛下から任された人物を批判できないのだろう。
否定してほしくて来たのか、努力をすれば期待できるか聞きに来たのかどちらだろう?
「そうですね。ジュリウス王子、ヴァンディミオン殿下はお忙しい方なのはお解りですね。?」
頷くジュリウス王子。
「ジュリウス王子のわからないことを教えていると、その分ヴァンディミオン殿下のできることが後回しになってしまうのは事実です。」
そう言うと涙目でふるふる震えてしまっている。
「ですから、ヴァンディミオン殿下のお手伝いをしたいならば、ヴァンディミオン殿下のお仕事の何を手伝いたいのか、まずご自分で知るべきです。」
私が何を言っているのかわからないのだろうか?こちらを呆然とみている。
「ジュリウス王子がヴァンディミオン殿下のお仕事の何を手伝いたいのか?自分で考えたことはありますか?皇太子としての仕事は多数あります。この案件についてはわからない。というだけではすまないんですよ。」
きつい言い方だっただろうか?
「ジュリウス王子の得意なことは何ですか?」
そう聞くと、にっこり笑って
「詩を作るのが得意です。母上も褒めてくれます。」
・・・公務に直接関係ないわね。いや、代理としてそのような場があったら行かせるのもいいかしら?
少し現実逃避気味になったけれども、ここで踏ん張らなければ・・・!
私が考え事をしていると女官がきて
「皇后陛下からの贈り物です。」
と言ってお菓子の入った籠をテーブルに置いた。
「僕の好きな焼き菓子だ!」
そう言ってジュリウス王子が食べてしまった。
(何かおかしい・・・。)
そう思いジュリウス王子に吐き出すよう声をかけようとしたが、飲み込んでしまい、私の目の前でジュリウス王子が椅子から落ちた。
私は大声で人を呼ぶことしかできなかった。




