悪役令嬢の発言。
皇后陛下とジュリウス王子を何ともいえない思いでみていたが皇帝陛下が
「ナルディアナ、ジュリウスは興奮しているようだ。少し部屋で休ませてやれ。」
と皇后陛下に向かい言い、ジュリウス王子に対しても
「自分のしたいことだけをすることはできぬ。ナルディアナとよく話をして自分のできることをまず考えよ。」
そう言って退出させる。
二人を見送り、ヴァンディミオン殿下と黙って座っていると皇帝陛下が殿下に話しかけた。
「ヴァンディミオン、ジュリウスがお前の役に立てることはありそうか?」
「今現在では無理でしょう。」
簡潔に答えるヴァンディミオン殿下に対して皇帝陛下はため息をつき
「だろうな。ジュリウスはお前と仲良くしたいという幼い考えで動いているだけだからな。セシリア嬢、驚いただろう?」
「いえ、そのような・・・。」
本音では、驚いたというより呆れたという感情だけれど、本音は言えず言葉を濁しておく。
「ナルディアナのことはヴァンディミオンに聞いているだろう。」
そう話しだした。
「ナルディアナは皇太子時代に随分助けて支えてくれた。私の力不足によりナルディアナを悪意から守りきることができなかったのは後悔している。」
苦い顔で言葉を重ねる。
「ヴァンディミオンにも悪いことをした。いつかナルディアナも元に戻ってくれると思っていたのだが、ジュリウスを溺愛し、ヴァンディミオンに危害を与えようとしていると気づいたところで身を守る人間を周りにおき、留学もさせ、その間話し合いをしたこともあったが・・・遅かった。ヴァンディミオンが生まれた時にもっと話す機会を作るべきであった。私がいくら信じていると言っても、もうあの頃からナルディアナは心が壊れてしまっていたのだろう。だからジュリウスを取り上げることができなかった。私にそっくりだと喜び微笑むナルディアナが、ジュリウスがいることで心を保てるならと思ってしまっていた。今回のことでジュリウスにとっても良くないことだと思い知った。表現は悪いが、皇帝にはなれないのだから少し幼くてもヴァンディミオンをみて変化するだろうと考えていたが、悪い方向にいったようだ・・・。つくづく私は父親として失格だったようだ。」
皇帝としてこのランスロット帝国を治めるために努力したが、夫として、父親としては冷静な判断ができなかったのだろう。不敬だが、皇后陛下がヴァンディミオン殿下を蔑ろにした時によく話し合い、冷徹な判断をしていたら今のこの状況はなかったのかもしれないが、それでは皇帝陛下が人間としてどこか欠けてしまう。
ヴァンディミオン殿下にとっても実の母親が・・・というのは避けたいだろう。
『あのときにああしていれば』というのは言っても仕方がないことだと思う。
現在の状況を確認し、これから判断をしていくしかない。
「皇帝陛下、失礼なものいいお許しください。過ぎたことはどうにもならないのです。皇帝陛下はこのランスロット帝国を治める頂点の方です。皇后陛下のお考えはよほどのことがない限りお変わりにならないでしょう。これから良くするために考えましょう。私はヴァンディミオン殿下と支えあうためにこの帝国にきたのです。」
ゲームでない私の人生。
前世の歴史にも、権力争い、革命、乱世、色々あった。
すべての知識を使い、ヴァンディミオン殿下と支えあう。
「セシリア嬢・・・。そうだな。私はこれからはもっとナルディアナとの時間をとることにしよう。」
「皇帝陛下の公務で、できることはヴァンディミオン殿下に少しずつお任せください。私も精一杯覚えます。そして皇后陛下と過ごす時間をお作りください。ヴァンディミオン殿下や私では皇后陛下のお心を癒すことはできません。」
私には人の心を癒すことはできなくても、公務は覚えればできるかもしれない。
ヴァンディミオン殿下が皇后陛下に関わることは逆効果だろう。
それに私は仕事がしたい。皇帝陛下が皇后陛下と過ごす時間が増えれば、皇后陛下がこちらに危害を与えることを少しでも防げるかもしれない。
そう思っていたのだが
「セシリア・・・。そんなにこの帝国のことを考えてくれるなんて。」
ヴァンディミオン殿下が感動したようにこちらをみている。
皇帝陛下は
「セシリア嬢・・・。私やナルディアナのことを心配してくれるのは嬉しいが、仕事をするのは負担ではないかね?」
心配そうに言う。
「いえ。公務はいずれ覚えなければなりませんし、早すぎるということはないでしょう。それに皇后陛下に心の平穏を取り戻していただくには皇帝陛下とのお時間が一番大切でしょう。私は仕事をするためならどんな努力でもいたします。」
そう言いきると皇帝陛下も感動したような顔になる。
(私、何か感動するようなこと言ったかしら?)
皇帝陛下公認でこのランスロット帝国の政務に携われるなら、私にとって好都合。
私主体で行動できないがそれは仕方ない。
でも、私にも発言権があればもしかすると楽しく仕事ができるかもしれない。
ランスロット帝国で私が安全に仕事ができるための方法を私は模索する。




