悪役令嬢の晩餐会への意気込み。
ヴァンディミオン殿下が皇帝陛下にエメラルドの <ビジュー・オブ・インペリアル> を披露したいと申し出たところ快く応じてくれた。
ただ、皇帝陛下は早くみたいとのことだったので本日晩餐会をすることになった。
ヴァンディミオン殿下が皇帝陛下にエメラルドを使った試作品が完成したことを伝えていたため、すぐにということになり、私はドレスを仕立てる時間がなかったのでイストール国から持参した中で本日の装いにふさわしいドレスを選んだ。
王妃様がしたくしてくれたドレスは多彩な色のものがあり、その中からデコルテが綺麗に見えてシフォンが重なり裾にいくにつれて濃い色になるグラデーションの若草色のものを選んだ。
そしてアクセサリーは小ぶりなイヤリングとブレスレットをつけて、ヴァンディミオン殿下が考えたエメラルドのネックレスが目立つようにした。
皇帝陛下の晩餐会は皇后陛下とジュリウス王子も参加するので緊張する。
朝から私はメルディナを筆頭に皇太子宮の女官に磨き上げられた。
体を清めた後、香油で身体中をマッサージされ、髪をよく梳かされ爪も磨かれた。
これだけでも私は疲れてしまったが、顔をマッサージされると血色がよくなり念入りに手入れをされたデコルテはネックレスがとても映える。
髪の毛は編み込んだ後アップにされて真珠のたくさん付いた髪留めを飾る。
鏡をみるとそこには肌が内側から輝くような私がいた。
悪役令嬢だけあって外見は元から素晴らしかったが、今日の私はメルディナや女官の努力の結晶だろう、とても美しい。自分で言うのもなんだけれど・・・。
準備が終わり部屋でメルディナの用意してくれたお茶を飲んでいるとヴァンディミオン殿下が迎えに来るとの伝言があった。
ヴァンディミオン殿下が以前したことを思い出し、動悸が激しくなりかけた。
(考えちゃ駄目よ。考えちゃ駄目よ。考えちゃ駄目よ。)
そう何度も念仏のように思いながら、皇帝陛下はきっとヴァンディミオン殿下とエメラルドの入手先などを話し合うだろうけれど、私は皇后陛下やジュリウス王子と何を話せばいいのか考える。
皇后陛下は皇帝陛下の前なのできっと以前お会いした時の、穏やかな優しそうな微笑みを浮かべ当たり障りのない会話をしてくるだろう。
気をつけて受け答えをすればいいとしても、ジュリウス王子はどうだろう?
あまりジュリウス王子に懐かれるような会話をしてしまうと、きっと皇后陛下の不興を買う。
これは断言できる。
年齢よりも幼い、何も知らないジュリウス王子は地雷と思わなければならない。
ジュリウス王子に好かれても嫌われても困る。
そんなことを考えているとヴァンディミオン殿下が部屋に来た。
「セシリア、今日はいつにも増して綺麗だね。ネックレスがよく映えているけれど、ドレスを選ぶのは大変だっただろう?申し訳なかった。でもとても似合っているよ。」
「王妃様が用意してくださったものなのです。本当にありがたいことですわ。」
そう言ってヴァンディミオン殿下の言葉に恥ずかしくなった自分をごまかす。
「今日の晩餐会は皇后の相手をセシリアに任せてしまうと思うけれど、あまり気を張らなくていい。皇帝のいる場所ではあの人は何もしないから。」
そう少し厳しい顔で言う。
「ジュリウスのことは気にかかるけれど、私がなるべく会話を振るようにするから。」
そう言って安心させてくれる。
ヴァンディミオン殿下も今日は正装だが、落ち着いたダークグリーンを基調にしている。
私だけではなく、ヴァンディミオン殿下も皇后陛下とジュリウス王子のことを気にしていたことを知り、私に負担をかけないように考えてくれていたのだと嬉しく思う。
とても楽しい家族の晩餐会とは言えないけれど、ヴァンディミオン殿下が私を支えてくれる気でいることを考えると、私もヴァンディミオン殿下を支えられるように努力したい。
「ただ、ジュリウスが私たちとこれからも親密にしたいと言っても、皇后がやんわりとわからないようにジュリウスに対して却下するだろうからその時は何も言わないで。」
そう断言するヴァンディミオン殿下。
(まぁ、そうでしょうね・・・。)
ヴァンディミオン殿下に対する皇后陛下の態度を今までおかしいと思わなかったジュリウス王子は、きっと皇后陛下の本心を隠した優しい言葉で色々なことを制限されてきたのだろう。
皇太子のようにと言う皇后陛下の言葉を表面通りに受け取り、ジュリウス王子だけを溺愛する皇后陛下の本心には気づいていないだろう。
だから無邪気に私にヴァンディミオン殿下と会いたいとお願いしにきたのだろう。
皇后陛下のことをイストール国の王妃様は気の毒に思っていたようだけれど、危害を与えられるかもしれない私にとっては要注意人物だ。
そんな皇后陛下に囲いこまれているジュリウス王子は幼い分、こちらが配慮しなければならにことを考えると晩餐会は憂鬱だけれど、ヴァンディミオン殿下という絶対的に私の味方になってくれる人物がいるのは心強い。
そう思い晩餐会に臨む。




