悪役令嬢の慌てぶり。
メルディナの知らせによりヴァンディミオン殿下が部屋に訪れた。
せっかく思考を別の所に飛ばしていたのに、ヴァンディミオン殿下のお顔をみたら顔が熱く恥ずかしくなってきた。
(・・・誰か私を埋めてください・・・)
そんな私の思いをよそにヴァンディミオン殿下は私のベッドの横に来て手をにぎり
「セシリア、すまなかった。私が軽率だった。」
と謝ってきた。私が黙っていると、二人きりにするように言って渋るメルディナとルシフェルトを部屋から出してしまった。
固まっていた私は二人を呼び止めようと思ったのだが手遅れで、ベッドに半身を起こす私とその横で跪き片手を握るヴァンディミオン殿下しか部屋にいない状態となった。
「いきなり胸元にキスをしたのは、悪かった。」
もう一度謝罪されたので
「いえ、いきなりだったので驚いただけです。ご心配おかけしました・・・。」
思い出すと恥ずかしいので、私は考えないようにした。
それなのに
「セシリアが、『・・・っきゅう』と言って倒れた後は大変だった・・・。ルシフェルトには『あんた何やってるんですか?!』と胸倉を掴まれ、メルディナには私の存在を無視され、倒れているセシリアの状態を確認してすぐ人を呼びに行かれてしまい、私が部屋まで運ぼうとしているのに来た人間全てにセシリアを連れて行かれてしまった・・・。そしてメルディナが来るまで執務室でルシフェルトに説教されていた。」
と、私が倒れた後の状況を詳しく説明されてしまった。
恥ずかしすぎて穴に埋まりたいとしか思えない私に対してヴァンディミオン殿下は、
「ルシフェルトに説教されていて、私はセシリアが異性に興味がなかったと言っていたのを思い出したんだ。私がしたことはとてもセシリアにとって驚くべきことだったのだろうと。女性に対して失礼なことをしてしまったと反省したんだ。」
そう真摯に私の目を見つめて話し出した。
「私はセシリアを唯一の正妃にしたいと思っているけれど、セシリアは私のことを嫌いではないよね?」
悲しそうな顔をして私の顔を覗き込む。
「嫌いだなんてとんでもないですわ!」
慌てて答えた私に安心したように
「私のことは好きだよね。」
「もちろんです!」
・・・あれ?何か私勢いで答えた気がする・・・。
固まってしまった私にヴァンディミオン殿下はとてもとても麗しく微笑んで、とんでもないことを言い出した。
「私のことを好きでいてくれるのに、キスで倒れたのは慣れていなかったからだよね。」
そう言って握っている私の手にキスをし出した。
「少しずつ慣れていけばいいね。」
親指、人差し指と順番にキスをしていく。手の甲や手首までされて私の頭の中はパンク寸前になる。
「今日はこれくらいにしておこうね。セシリア顔真っ赤。」
弾んだ声で言われるが私は答えられない。
(ヴァンディミオン殿下ってこんな人だったの?!)
パニックしながら頭の中がぐるぐるしてきた。
黒い髪に蒼い瞳のとても知性的な顔がただのいたずらっこの顔になっている。
「セシリアは私のことを好きなことは確認できたから、本当に今日はもう何もしないよ。」
そう言って真面目な顔になる。
「ジュリウスについてなんだけれど。」
今までの悪戯っぽい顔から冷徹な表情に変わり、纏う雰囲気も変化した。
「多分、私に会えないとまた抜け出して来ると思う。皇后にジュリウスが溺愛されているのは言ったけれど、ジュリウスがセシリアと会っているのを皇后が知ったら何を考えるかわからないから、申し訳ないけれど、皇帝陛下に会うまで庭には行かないでほしい。」
そう真剣に言って
「せっかくセシリアが私と一緒にランスロット帝国に来てくれたのに、来た早々にこんな不自由な思いをさせてごめん。」
そう頭を下げる。
私は庭に出れないのは残念だけれども、危険を冒してまで外に出たいとは思わないので了承した。
でも、部屋で一日無駄に時間を過ごしたくない。
そこでひとつお願いをすることにした。
「ヴァンディミオン殿下、外に出れないからと言って特に不自由はありません。ですが、私は部屋で読書をしたり刺繍をしたりといったことはしたくありません。イストール国で私は、側室の方々に助けられながら孤児院で人材を育てようとしておりました。こちらで私が同じことをすることはできますか?」
残念ながら、どこの国にも貧民街や孤児院が存在する。
イストール国と違い、一人でしなければならないことがたくさんあるだろうが、私の今の身分は皇太子の婚約者。あまり帝国の政務的な部分に口を出すのも憚られる。それに皇帝陛下も挨拶をした時に推奨してくれた。
「このランスロット帝国の孤児院は、教会が運営している他は、貴族が善意の施しという形だから、教会の方はセシリアが介入することもできるけれど、個人の方は難しいと思う。」
「個人で運営している方は今はいいです。教会に紹介してくださいますか?」
ヴァンディミオン殿下は少し考えて、教会の責任者が皇族出身だからまず自分から話をしておくと言ってくれた。
私はこれでやっと仕事ができると意識をそちらに向けることにした。




