悪役令嬢の皇太子宮。
謁見の間での挨拶が終わり皇太子宮に連れてこられると、ヴァンディミオン殿下により数人の人間が私の前に呼ばれた。
「セシリア、このランスロット帝国において私に対して絶対の忠誠を誓ってくれている者たちだ。」
そう言って紹介されたのは、皇太子の側近として長年仕えている者たちだった。
ヴァンディミオン殿下より皆少し年上か同じ年齢くらいか。
その中の一人に見覚えがある。
イストール国にヴァンディミオン殿下が留学していた頃に、一緒にいた青年だ。
「お久しぶりです、セシリア嬢。ヴァンディミオン殿下の乳兄弟のルシフェルトです。」
私の前で挨拶をする。
「ここにいる者以外、決して気を許さないようにしてほしい。誰かからの贈り物や呼び出しがあったら確認するように。」
そう言ってヴァンディミオン殿下は私の部屋に案内してくれた。
側近の者たちは、ヴァンディミオン殿下がイストール国に行く時にランスロット帝国に留まり、皇后の動向を探りながら私の部屋の準備をルシフェルト主導で行っていたらしい。
私は落ち着いた感じでまとめてある部屋で少し休ませてもらうことにする。
メルディナの部屋は私の隣でドアで繋がっている部屋だった。
でも、少し休もうと思ったけれどメルディナが何か言いたそうにしているし、私も聞きたいことがあった。
椅子に腰掛ける私の前にいるメルディナに
「何か言いたいことがあるのかしら?」
そう聞くと、メルディナは答えづらそうにしている。
(少し気安い仲になったと思っても言ってくれなかった女官時代のことかしら?)
そのまま待っていると、意を決したように話し出した。
「黙っていて申し訳ありません。私はここにいた頃、皇太后陛下の女官でした。」
そう言い出し
「私が女官を辞めたのは、皇后陛下が絡んでのことです。ヴァンディミオン殿下がお生まれになった頃、皇后陛下が無関心だったとお話したと思いますが、その頃から皇太后様はその事をとても気にしておられました。前皇帝陛下が病にてお亡くなりになり、皇太后様が気落ちされ皇太后宮に篭っていたので、私がヴァンディミオン殿下のご様子をうかがっておりましたところ皇帝陛下が私に声をおかけくださることが多くなったのです。前皇帝陛下がお亡くなりになったことで皇帝陛下が政治的配慮によりご側室をいれる事の多い時期だったため、皇后陛下の気に障ったのだと思います。」
頭を下げたまま言い続ける。
「皇后陛下がジュリウス王子をお産みになった頃から積極的に権力を増し、私は実家の事情ということで辞めざるを得なくなりました。」
「そうなの・・・。ご実家は?」
聞いたことのなかったことを聞いてみる。
私の所に来てくれた時に家族はいないと言っていた。
「全員亡くなっております。」
「配偶者はいなかったのかしら?」
「長年の婚約者がおりましたが、皇后陛下のご不興をかうことを恐れた彼の実家の意向により破棄となりました。」
まだ聞きたいことはあったけれど、これ以上は今は聞かないほうがいいだろうと判断した。
「ここで私と共にやっていってくれるかしら?」
そう私が聞くと、メルディナは驚いたように頭を上げて私を見つめてくる。
「私をこのままにしていてよろしいのですか?」
そう聞いてくるが、皇后陛下にとっては私も邪魔者。
ならば、私の側にこのランスロット帝国を知っている人間は多いほうが良い。
それに今更メルディナを手放そうとは思わない。
「これからも、私に色々教えてちょうだい。皇后陛下にとっては私の存在の方が気に障るでしょう。あなたも十分に注意してね?」
そう言い少しの間休みたいからと部屋に下がってもらった。
一人になった部屋でソファーに移動し、ぼんやりと謁見の間での両陛下の様子を思い出す。
皇帝陛下は穏やかそうな方だったが、この強大な帝国の絶対的権力者だ。
それなのになぜ皇后陛下のヴァンディミオン殿下に対する態度を許しているのだろうか?
ヴァンディミオン殿下に側近をつけ、諸国に留学させるくらい危険だとわかっていてなぜ皇后陛下を放置しているのだろう?
いくら考えても答えがでない。やはり皇太子時代からの仲なので情がおありなのだろうか?
そして皇后陛下。穏やかに微笑んでいたが、こちらを向いている時に目が笑っていなかった。
強いていうなら爬虫類のように無機質だけれど、何というかじっとりとした目でこちらをみていた。
きっと私もあの方にとって、障害物とみなされただろう。
そう思うと、皇帝陛下が皇太子妃としての勉強をメルディナやヴァンディミオン殿下に任せてくれて良かった。
皇后陛下から教育を受けたりしたら何をされるかわからない。
下手すればお茶をいただいたら毒殺されましたなんて洒落にならないこともありうる。
自作自演で不敬罪にされるかもしれない。
そんなことしか思い浮かばない。
皇后陛下のことを考えると憂鬱だが、私ができることはイストール国にいた時よりも少ないだろうが、成果をだし皇帝陛下に認められるようになるしかないのではないか。
ヴァンディミオン殿下と共に生きるために、まずは皇帝陛下に認められるようになろうと私は私のすることを再認識した。
そして、ヴァンディミオン殿下と一緒に住むのだから安心だと思ったところで思い出した。
(・・・どうしよう?これって一つ屋根の下ってことよね?結婚式はまだ先の事だけれど、毎日顔を合わせるようになるのよね?)
そう思うと顔から火が出そうに恥ずかしくなってきた。
自分の方針が決まったら、ヴァンディミオン殿下の事が思い出された。
(寝室は別でいいのよね?でも、こっ・・・婚約者なのだから一緒に寝ることはあるのかしら?この部屋に夜ヴァンディミオン殿下が来たら私はどうすればいいの?)
ソファーで一人悶えるが当然何にもならない。動悸がまた激しくなってきた。
(一応手を握られるのは馬車の中で慣れたわ。でも二人っきりというのはなかったから、ここに住むということはそんな時私は何を話せばいいの?)
馬車の中で手を握られ話していたことを思い出し、ソファーに倒れこむ。
ドレスが皺になることも気にせずに
(これからヴァンディミオン殿下と行動するというのは、仕事もあるけれど生活を共にするのよね?私の心臓もつかしら?)
とその場でごろごろしてしまう。
これから先のヴァンディミオン殿下との関わり方のほうが心配になってきた。
友人がよく冗談で、私が仕事で行き詰まり悩んでいると
『覚悟を決めろ。これはお前の物語だ。』
と何かのポーズを決めて言っていた。
そうだ。もうゲームの世界ではない。私はこの帝国にヴァンディミオン殿下の皇太子妃になるためにやってきた。
そう思い顔を上げ、ソファーに座りなおし深呼吸をして心を落ち着ける。
・・・でもやっぱり恥ずかしい。
またソファーに倒れ込み、ヴァンディミオン殿下と一緒にいた時のしぐさや声を思い出し私は夕食に呼ばれるまでずっと悶えていた。




