悪役令嬢の帝国到着の挨拶。
何度も馬車の中で心臓が止まりそうになりながら、ランスロット帝国にたどり着いた。
(よくもった!私の心臓!)
そう思い、ヴァンディミオン殿下に連れられて宮殿の謁見の間に向かう。
豪華な謁見の間の扉の両脇には騎士が立ち、私達をみると扉を開けてくれる。
謁見の間には真紅の絨毯が敷いてあり視線の先には玉座に座ったランスロット帝国の皇帝、グランディウス・カイザル・ランスロット陛下、そして横には正妃である、ナルディアナ・カイザル・ランスロット皇后陛下が座っている。両陛下の前にヴァンディミオン殿下と共に進み頭を垂れる。
「よく来た。イストール国のセシリア・エヴァンジェリスタ侯爵令嬢。私がヴァンディミオンの父でありこのランスロット帝国皇帝グランディウス・カイザル・ランスロットである。顔を上げよ。」
そう言われたので顔をあげ、両陛下をみる。皇帝陛下は温厚と聞いていたが、穏やかに微笑んでいる。
反対に皇后陛下は微笑んでいるが、目が笑っていない。前世で結婚すると報告している若い女性社員にお祝いを笑いながら言っていたお局様を思い出す。怖い。蛇に睨まれているかのようで怖い。
「はじめまして、皇帝陛下、皇后陛下。イストール国から参りましたセシリア・エヴァンジェリスタです。このたびは・・・。」
「堅苦しいことはよい。ヴァンディミオンがどのような令嬢を連れてくるかと楽しみにしておった。そしてメルディナ。」
私の言葉をさえぎり皇帝陛下は後ろについているメルディナに声をかけた。
メルディナの緊張を背後に感じながら、私は黙って皇帝陛下を見つめる。
「はい。」
メルディナが返事をすると、皇帝陛下が懐かしそうな顔をして話し出す。
「直答を許す。久しぶりだな。元気そうで何よりだ。」
「おかげさまをもちまして元気にいたしております。」
「縁とは不思議なものだな。ここを去って行ったお前にまた会うことになるとは・・・。皇太后もお前に会いたかろう。顔を見せてやってくれ。おぉ、セシリア嬢すまなかったな。このメルディナは私の母である皇太后に仕えていたのだ。実家の事情で辞めてしまったが、皇太子妃としてここに来たそなたに仕えているのは驚いた。後ほどメルディナに皇太后に会いに行く時間をやってくれるか?」
「わかりました、皇帝陛下。」
「皇帝陛下、後でセシリアを連れて皇太后宮にお邪魔しましょう。皇太后陛下の具合はいかがですか?」
「寒くなったからか、また少し寝込んでいるらしい。お前たちが行けば元気になるだろう。なぁナルディアナ?」
皇帝陛下が皇后陛下の方を向き確認するように言うと、皇后陛下は穏やかに優しそうな微笑みを浮かべて
「そうですね。皇太后様はきっと喜んでくださるでしょう。」
そう言って皇帝陛下に同意した。
「セシリア嬢にメルディナが付いているなら学びながら皇太子宮にて婚約期間中を過ごせばいいだろう。皇太子妃は皇后に教育をされるが、正式に皇太子妃となるまでの婚約期間が短い。一緒に住む人間が日々教えた方がいいだろう。」
そう皇帝陛下が言うと、皇后陛下の眉が不快そうに跳ねたが一瞬で、皇帝陛下が皇后陛下の方をみると元の穏やかな微笑みで
「それがいいでしょう。私にも何かできることがあったら言ってくださいね。」
そう言って、何事もなかったかのように優しそうに微笑んでいる。
優しそうな顔をしているが、一瞬眉を跳ねた顔をみてしまっているとその言葉を本気にとってしまうのは危険な気がする。
それに皇后陛下はヴァンディミオン殿下をみていない。視界からあえてずらしている。ただ微笑んで皇帝陛下の言葉に答えているだけ。
金色の髪に碧眼で黒い髪に蒼い瞳のヴァンディミオン殿下とは似ていない母親。
家臣に不貞を疑われ側室たちに蔑ろにされ、ヴァンディミオン殿下の弟を産んで皇帝そっくりの存在を溺愛して権力を振るう皇后。
ひょっとして少しでも母としての気持ちが残っているのではないかと思っていたが、この女性はきっとそんな気持ちない。
会ってみてそう思った。
きっと弟であるジュリウス王子以外この人にとって可愛い子供はいない。
イストールの王妃様はカイン王子が王太子の地位を剥奪されても、命がとられなかったことに安著していた。母として自分の産んだ子供を大事に想っていた。
でもこの女性は違う。ヴァンディミオン殿下を自分の邪魔になる存在としか思っていない。
このランスロット帝国において二番目に権力を持っている女性。
そんな女性に疎まれている皇太子。そしてその皇太子妃となる私。
(怖い。何をされるかわからない。なるべく関わりたくない。)
そう思い、皇后に教育を受けなくて良いことに安心した。
(皇帝陛下はわかっていてのお考えなのかしら・・・。?)
ヴァンディミオン殿下が皇后に疎まれていることがわかっていて側近をつけ、成長してから他国に留学させていた皇帝陛下。
私を皇后と関わらないようにしてくれたことを考えると、皇帝陛下にも何か考えがあるのだろう。
そう考えることにして、両陛下に対して向き合う。
ヴァンディミオン殿下が皇帝陛下と話をしているが、考えに夢中で一瞬聞いていなかった。
「では、セシリアは皇太子宮にて私と一緒に公務をしながらこの帝国のことを覚えてもらいます。夜会やどこかに招待されれば一緒に出席します。」
「それがいいだろう。婚約期間中にセシリア嬢のことをよくこの国の貴族に紹介するように。セシリア嬢、よくこのランスロット帝国を知ってくれ。」
そう声をかけられ、慌てて頭を下げ
「わかりました。皇帝陛下のお心遣い感謝いたします。」
「何かイストール国でやっていたことがこの帝国にも役立つと思えば、ヴァンディミオンに言ってくれ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
そう答えて、両陛下との謁見は終わった。
これから先どのように皇后と関わればいいのか、メルディナは私に女官時代のことを話そうとしてくれなかったが皇帝と親しそうだったとか、私には考えることがたくさんある。
今回ヴァンディミオン殿下の弟のジュリウス王子と会うことはなかったが、どんな方なのだろう?
知りたいこともたくさんあるけれど、ヴァンディミオン殿下を信じていこうと思い皇太子宮に向かった。




