悪役令嬢の心臓の危機。
離宮で一人ランスロット帝国に行った時のことを考える。
王妃様からの贈り物の指輪を常に小指につけていればきっと孤独を感じず、私の心の支えとなってくれるだろう。
そう考えると、ヴァンディミオン殿下の母である皇后のことを考える余裕ができてきた。
私はヴァンディミオン殿下やこの国の王妃様や側室の方々が味方になってくれる。でも皇后は誰が味方だったのだろう?
不貞を疑われた時に皇帝はきちんと気持ちに寄り添ってくれたのだろうか?
ただ一人できりで、自分を疑い蔑ろにする人間のなかにいたとしたら強くならなくてはならないと思ったのではないかと想像できる。でも自分の息子を否定するのは間違っている。
私は、ランスロット帝国に皇太子妃になるために行くのだからヴァンディミオン殿下の弟を溺愛する皇后にとっては敵と思われるのだろう。
こちらは敵対するつもりはないが、あちらが敵対する姿勢を向けてきたらどうすればいいのだろう。
ヴァンディミオン殿下を全面的に頼るつもりはない。
私は私のもてるもの全てで皇后の攻撃に対して抵抗しよう。
そう思うと少し心が楽になった。
もうランスロット帝国に行く準備はできている。
この世界が前世でやったゲームだと気づいた時に、私は修道院送りを免れて仕事をするために努力してきた。
これからは本当にゲームの世界ではない。以前は『ヒロイン』であるエリスがいたけれど、これからは予想がつかない。
ランスロット帝国で私はシナリオのない人生を私は歩んで行く。
私を想ってくれる人々を蔑ろにすることのないように、ヴァンディミオン殿下と生きていこう。
そう決心して、私は国王様や王妃様方に見送られて私はランスロット帝国に旅立った。
・・・格好よく決心をしてヴァンディミオン殿下と馬車に乗ったのはいいけれど、この空気を誰かどうにかしてください。
馬車は広くメルディナも一緒に乗っているのだけれど、ヴァンディミオン殿下にこちらをみられると動悸がする。
窓の外をみているヴァンディミオン殿下をちらちらとみてしまう私はきっと不審者のように挙動不審だろう。
メルディナの呆れたような目線が痛い!
ヴァンディミオン殿下が話しかけてくれるけれど、動悸と顔の熱さによりうまく会話ができない!
・・・しかたがない。こうなったら私の得意分野で話をするしかない。
「ヴァンディミオン殿下、<ビジュー・オブ・インペリアル> の加工でお聞きしたいことがあるのですが?」
「なんだろう?」
「宝石のカットを増やすと輝きが増すのではないかと私が言ったことを実行なさったとうかがいましたが、それはどのようになさったのですか?」
「あぁ、それは工房の職人と相談したんだよ。宝石の硬さによって耐久性が違うから。ダイヤモンドは一番固いからカット数も多くできるけど、エメラルドは硬いけれど内部に傷が多い宝石だからあまり多くカットできなくてね。」
「そうですね。エメラルドは扱いの難しい宝石ですから。無理にカットできたとしても、衝撃にとても弱く破損してしまっては・・・。大きめのものを中央に配置するというデザインのものを生産するのはどうでしょう?」
「そうだね。エメラルドを多く産出する国はどこだったかな?」
「クロムナル国が安定して産出していると聞いておりますが・・・。」
「その国には友人がいるから、エメラルドのことを聞いてみよう。」
結局仕事の話になってしまう。もっと何かこれからの生活についてとか聞いたほうがいい気がするのだが、会話をどのようにしたらいいのかがわからない。
手元をみると王妃様にもらった指輪が輝いている。
「ヴァンディミオン殿下。実は王妃様がこれを下さったのです。」
そう言って左手の小指に嵌っている指輪をみせる。
七色の宝石のフルエタニティタイプの指輪で、はまっている宝石の意味が私にとって何よりも王妃様の心遣いを感じさせてくれる。
「今まで王太子妃として、王家の豪華な装飾品を許されてきましたが、これは王妃様が個人として私、セシリア・エヴァンジェリスタに贈ってくれたものです。私は王妃様のくれたこの指輪に誓ってヴァンディミオン殿下の善き伴侶となれるようランスロット帝国で努力したいと思っております。」
そう言うのが精一杯だった。ヴァンディミオン殿下にはっきりと言葉で私の覚悟を言っていなかったのに気づき言ってみたのだが
「うん。セシリアが私のために努力してくれるのは嬉しいけれど、イストールの王妃様に後押しされてというのが少し妬けるかな?」
そう言って私の指輪を見せるために差し出した手を握る。
私の手をすっぽり隠してしまうヴァンディミオン殿下の手の温度が私に伝わり、顔から火が噴出しそうに熱くなる。
「私に力不足な部分はあるかもしれないけれど、きっとセシリアを幸せにしたいと思っているよ。」
そう目を見つめて言われると、不安が吹き飛び変わりにじわじわと恥ずかしさが這い上がってくる。
何を言って良いのかわからなくなり頭の中がぐるぐるする。
もう何も考えられない。呼吸することも忘れ口をぱくぱくさせてしまう。
ヴァンディミオン殿下は、目を細め面白そうに私をみている。
(これは、あれですか?私をこの馬車の中で羞恥で責め殺す気ですか?メルディナも微笑ましそうにみてないで助けてください!)
私はこんな事で無事にランスロット帝国まで辿りつけるのか不安になり、気が遠くなった。
「でも、本当にイストールの王妃様や側室方には感謝してるんだ。」
手を握ったままで、真面目な顔でヴァンディミオン殿下が言い出した。
「セシリアにイストールの王妃様や側室方がついているということで、ランスロット帝国の貴族が君の事を尊重するだろう。そうなったら母である皇后でも君にうかつに手をだせない。君に何かしたら外交問題となりイストール以外の国にも突き上げをくらうからね。」
そう言って少し寂しそうに笑った。
「君に母のことで一番苦労をかけると思うけれど、何かあったら絶対に私に言って欲しい。二人でこれから先歩んで行こう。」
そう言って私の手にキスをした。
本当に真面目な話をしているのに私は、もう無理です。気が遠くなります。
ランスロット帝国に着いた後のことよりも、今この瞬間、私の心臓がもちません。
こんなことで無事に旅を過ごせるか不安になった・・・。




