悪役令嬢の目標。
実家での挨拶では安心した。
きっとカイン王子のことで心配させていたから、両親達はヴァンディミオン殿下のことも心配していたと思う。
城に帰る時の馬車の中は私にとって多大なる苦行だったが、何とか無事に離宮にたどり着けた。
離宮に着くと侍女から王妃様が呼んでいるとのことで後宮に向かった。
王妃様は側室の方々と仲良くしているけれど、国王様を独り占めしたいと思ったことはないのだろうか?
私はカイン王子と結婚する時に、仕事がしたくて国に嫁ぐ覚悟だった。
ヴァンディミオン殿下のことを私は好きらしいという気持ちに気づいてから色々なことを考えるようになった。
側室の方々の能力はとても素晴らしく、他国にもその能力を認めさせている方もいる。
もちろん女性としても素晴らしく、国王様が王妃様を筆頭に平等に気持ちを与えていらっしゃる。けれ、私が考えてしまうのは、王妃様は国王様を一人の男性として想っていたら今の立場を辛いと思ったことはないのだろうか?今まで考えたこともなかったことが浮かんでくる。
ヴァンディミオン殿下が側室を持たないという言葉に喜んでいる私がいる。
きっと私はこれから先ランスロット帝国に嫁いだら、ヴァンディミオン殿下をはじめ色々な人間に皇太子妃として、皇后として様々なプレッシャーをかけられることになると思うけれど、女性としてヴァンディミオン殿下が私一人を選んでくれたことを誇りとして対処していくことになるのだろう。
様々な価値観があるし、この国の王太子妃になると決めた時エリスも側室として役立つ人物ならば歓迎しようとしていたが、自分の感情を知ってしまうと自分の想う男性に他の女性がいるということがいかに我慢を強いられることなのか。
王妃様はカイン王子のことで、人に対して初めて感情的に言葉をぶつけたことがあった。
ヴァンディミオン殿下に対して <ジュエル・オブ・インペリアル> が欲しいとカイン殿下がエリスに勘違いさせられてお手紙を書いたと知った時、カイン殿下の破滅だとヒステリックに叫ばれた。
自分の産んだ子供が王太子の地位を剥奪されることが嫌だったのではなく、命をとられるかもしれないという恐怖が王妃様の自制心を超えたのだろう。
私は王妃様を慈悲深くお優しい方だと思い敬愛を込めて接してきたが、改めて王妃として素晴らしい方だと尊敬の念を抱いた。
そんなことを考えていたら、王妃様に呼ばれた部屋についた。
侍女に王妃様にお伺いをたててもらい入室する。
王妃様は一人でいらっしゃった。何か内密なお話があるのかと少し緊張する。
「王妃様、お呼びとうかがい参りました。」
主面に立ち挨拶をすると王妃様は私に正面に座るよう促す。
「セシリア、実家にヴァンディミオン殿下と帰宅した気持ちはどうでしたか?」
いつものように優しい声で聞かれたので
「父と母とニコルに久しぶりに会いましたが、元気そうでした。ヴァンディミオン殿下のこともきちんと認めてくれました。」
そう言うと王妃様は笑みを深くされ
「ヴァンディミオン殿下と馬車の中ではきちんとお話できましたか?」
と聞いてきた。私は一瞬で体内の血液が逆流し顔が熱くなった。
「あ・・・その・・・その・・・。」
何も答えられずに意味のない言葉が口からでて、目線がうろうろと彷徨ってしまう。
「落ち着きなさい、セシリア。あなたが自分の気持ちに気づかないままランスロット帝国に行くこと前に私がお話しようかと思っていましたが、大丈夫だったようですね。」
扇で口元を隠し、ころころと笑い面白そうにこちらをみている王妃様をみると、この方には敵わないと実感する。
「王妃様は・・・あの・・・私の気持ちを・・・。」
何と言っていいか悩んでいると
「気づいていましたよ。カインをみる目と違っていましたから。」
寂しそうに微笑んで言われた。
「申し訳ありません・・・。」
私が思わず俯くと、首を振りこちらにいらっしゃいと促されソファーに座る王妃様の横に座らされた。手を握られ背を撫でられ、私はまだまだ未熟だと思い知った。
「カインとは幼い時から一緒にいましたから、姉弟のような関係だったのでしょう。エリスがいなければ結婚しお互いにまた感情は変わってきた可能性はありますが、先に裏切ったのはカインです。あなたを私の娘にできなかったのは残念ですが、あなたが気に病む必要はありません。私からみてもヴァンディミオン殿下は素晴らしい方だと思います。ですがなぜセシリアが自分の気持ちに気づいたか私に教えてくれますか?」
私は恥ずかしいながらもつっかえながら、離宮にヴァンディミオン殿下が来た時のことをお話しした。
王妃様は私がどもっても、ただ黙って話を聞いてくれた。
「そうですか・・・。愛し愛される夫婦になりたいと。側室を持たないことであなたに重圧をかけても自分が守ると。セシリア、素晴らしい人に愛されましたね。」
しみじみと言われて私は王妃様の顔を見つめてしまう。
「私だって人間であり一人の女性ですから、どんなに側室に助けられているか王妃である私自身がよく知っていても、国王に自分だけ愛して欲しいと思ったことはありますよ。」
微笑みながら言われてしまう。
「セシリア、人は皆感情を持って生きているのです。以前のあなたの言動はどこか焦燥感を感じているようでしたが、今は自分の感情に素直になったように感じます。私は今のセシリアのほうが人間らしくていいと思いますよ。ヴァンディミオン殿下がそのように想っていてくれているなら私にはあなたが羨ましい。」
そう言って私の頭を撫でてくださった。こんなに王妃様に甘やかしていただいたのはいつぶりだろう?
「政治的な配慮によって側室をとった方がヴァンディミオン殿下にとっても楽なことでも、殿下はあえてその楽な道をとらず、セシリアと共に歩んで行く覚悟なのでしょう。セシリアは私たちが育てた大事な娘。ヴァンディミオン殿下にふさわしい能力があります。私はそう信じています。だからセシリア、ランスロット帝国に行っても何かあったらヴァンディミオン殿下を頼りなさい。あなたは自分で何でもやろうとするのが悪い癖ですよ。」
そう私に言って小箱を渡してきた。開けるように言われたのでそのとおりにすると、小さな指輪が入っている。小指サイズだろうか。
「王妃様、これは・・・?」
「あなたが王太子妃だった時の宝飾品は王家に返還してもらいました。今まで王妃から王太子妃に渡したものもありましたが、これは私個人からセシリアに対する贈り物です。あちらに行って辛いことがあったらこれをみてこの国を思い出しなさい。私はこれでも王妃です。そしてあなたにはこの国の側室たちもついています。ランスロット帝国はイストール国にとって強大ですが・・・。これ以上はやめましょう。セシリア、私たちはいつでもあなたの味方ですよ。」
そう言ってお話は終わった。
王妃様の気持ちを聞いて私はランスロット帝国に行っても味方はいるのだと、一人ではないのだと、もちろんヴァンディミオン殿下は味方でも、私と意見が食い違うことがあるだろう。その時に帝国でただ一人ではないと、寂しい思いをしないようにと個人的に贈り物をくれた王妃様を、私はやはり目標にしていくのだろうと思った。




