悪役令嬢の恥ずかしい自覚。
ヴァンディミオン殿下がこの国に来るということは、とくに公にせずに歓迎の夜会もいらないとのことだったが、晩餐会は開かれることになった。
もう私は王太子妃ではないので、王妃様方が『私に一番似合うドレスを』と豪華なドレスを仕立ててくださった。そんなに日にちがないからと遠慮したのだが、この国で結婚式をしないのだからといって職人さんやお針子さんを総動員してくださり、とても私に似合うドレスを贈ってくださった。
銀の髪に紫にも見える瞳を考慮したという白い布地に金の縁取りと刺繍をしてあり、緻密な刺繍が銀糸でしてあり真珠が縫い付けられていた。
『ベールがないだけで花嫁のドレスのようです。』
思ったが口に出せなかった・・・。
知らされていた日にヴァンディミオン殿下が到着したが、私は晩餐会まで離宮にいるように言われ侍女たちに、朝目を覚ましてからお風呂に入れられ、マッサージをされ、頭のてっぺんからつま先まで手入れをされた。
そして髪を少しおろし、あとは複雑に結い上げられ小さなダイヤモンドの周りをぐるりと真珠で囲んだ花をいくつか着けられて、両耳の上には、それより大きなものを着けそれに細かな鎖が連なり後頭部ろをキラキラと飾っている。
首には以前いただいた <ビジュー・オブ・インペリアル> をつけて、手首にダイヤモンドと三連になった真珠のブレスレット。
(王妃様付きの侍女もいたけれど、王妃様はよかったのかしら?)
そう思いゆっくり紅茶を飲んでいたら、晩餐会の時間だと侍女が知らせに来た。
ヴァンディミオン殿下にお会いするのは久しぶりなので、なぜか自分の姿が気恥ずかしくなってきた・・・。
晩餐会では、国王様や王妃様がヴァンディミオン殿下と話していて、時折視線を向けられるだけだった。
食事が終わった後に
「セシリア嬢と少しお話があるのですが・・・。」
とヴァンディミオン殿下が国王様におっしゃい、離宮にてお話することになった。
お会いしたらあれを話そう、これを話そうと思っていたけれども、自分の格好が気恥ずかしくて言葉が出せない。
「とてもお似合いのドレスです。」
「ありがとうございます。王妃様方のお心遣いです。」
それしか言えなかった。
カイン王子との結婚は、ゲームの世界ということと貴族に生まれたから当然と思っていたけれども、ヴァンディミオン殿下はよく考えたら私のことを気遣ってくれている。
お手紙もランスロット帝国に行った時の仕事についての事務的なことだけではなかったし、今回は実家にまで挨拶をすると言って来て下さった。なぜか調子が狂う。
そんなことを考えていると、ヴァンディミオン殿下が立ち上がり私の横に来た。跪き
「私は、同じ目線でものをみてくれる女性を伴侶として望んでいました。学園でお会いした時あなたにその資質があると思い、今回帝国にお連れしたいと望んでいます。私の伴侶になる方は一人。母達をみているので側室はとらないと言いましたが、私はあなたに皇太子妃としての義務だけで一緒にいて欲しいと思っていないのです。愛し愛される夫婦となりたいのです。どうか私と結婚してくれませんか?」
手をとられ熱心に言われ顔が熱くなった。
学園でお話をした時楽しかった。建国祭でお会いした時はお姿が目にとまった。ヴァンディミオン殿下のことは人として好ましいと自分では思っていたけれど、違ったらしい。
支えあえる夫婦として理想的とか理由をつけていたけれど、どうも私はヴァンディミオン殿下に好意を抱いていたらしい。
黒い髪に蒼い瞳だったとか、以前よりも精悍になったとか、王太子妃としてという意識が先に動いていて感情を直視していなかった。
ただ、ヴァンディミオン殿下の立場を考えて私は自分を納得させていたらしい。
ドレスをみて結婚を意識して、ヴァンディミオン殿下にお会いして実際にプロポーズされて自分の感情に気付くなんて、どうしてこんなに鈍感なんだろう。
いただいたネックレスも私にあったものを贈ってくれて嬉しかった。
でも皇太子妃としての自覚を促されているような気持ちもした。
前世も含めてこんな感情になったことがなかった。恥ずかしい・・・。
ゲームとか、立場とかそんな考えを抜かして考えると本当に私は、ヴァンディミオン殿下を意識していたのに気がついた。
言葉で言われて実感した私は
「はい。」
としか言えず、意識も朦朧としてきたようで何とか返事をしたことにより
「では、また明日お会いしましょう。」
と言い手にキスをして立ち上がったヴァンディミオン殿下を見送り、自室のベッドでゴロゴロと身悶えるしかなかった。
私はカイン王子は幼少の時から一緒にいて、エスコートされるのが当然だったのでカイン王子を除き、男性とダンスの時以外触れ合うこともせずにいた。
それが手をとられプロポーズをされ、手にキスまでされるとは私の脳内で処理できず、ドレスのままベッドで転がり、侍女に声をかけられるまでずっと一人唸っていた・・・。




