悪役令嬢の最後の夜会と面会。
夜会の最終日。今回で公の場でカイン殿下にエスコートされるのは最後となるだろう。
最終日ということで、今回の私のドレスは水色で銀粉を散りばめたように細かく艶があり、髪も結い上げティアラをし、ぶら下がるタイプの細かい細工の耳飾をしている。ブレスレットとネックレスも細かいレースのような細工の私の髪に映えるサファイヤとダイヤモンドも散りばめたおそろいのものだ。
私は華やかな自分の外見と裏腹に内心は少し沈んでいる。
幼少の時から私の隣にカイン殿下がいるのが当たり前だった。お茶会も晩餐会もダンスを踊るのもカイン殿下とだった。当たり前のことが続くと思い、またそのために努力してきた。
その当たり前がなくなることについて少し寂しいという思いと、こんな状況にしたエリスに対する恨みを少しだけ感じていた。
学園でエリスと出会ったカイン王子が取り巻きの一人になり私に冷たい目を向けるようになった時も、卒業パーティーで婚約破棄をカイン王子が言いだしても私には自信があった。
それは、カイン王子が何と言ってもエリスでは正妃になる身分がないということで、王子の正妃に私がなりエリスを側室にさせることしかできないという事実があったからだ。
でももう今回のエリスがカイン殿下にさせたことは覆らない。私には覆せない。
エリスが未だに自分のしたことを理解せず、私のことを今この時も恨んでいるのかと思うといい加減この世界は前世ではゲームだったが、現在は相手は生きている人間なんだと自覚して欲しい。
そんなことを少し思いカイン殿下の待つ控え室に向かう。
カイン殿下は憔悴しているが
「お待たせいたしました。」
声をかけると
「すまなかった、セシリア。」
と謝ってきた。国王様たちに叱られたらしい。
「まだ私は君に甘えていたようだ。今回で最後のエスコートとなるだろうから、どうか今夜は私と一緒にいて欲しい。」
と言ってきた。
今までの夜会では別行動する時もあったが今夜はカイン殿下のそばにいて欲しいということらしい。
「わかりました。まいりましょう。」
夜会のホールに入室してからダンスを踊りカイン殿下の横で来てくださった方々とお話した。
ダンスの誘いはうまく断りカイン殿下とずっと一緒にいた。
夜会の終了は国王様の建国祭の終了とこれからも国の繁栄を願う言葉で締めくくられた。
やっと忙しい三日間は終わった。
そして数日でカイン殿下は病気のため廃嫡となり王都から離れた場所に行く。
それは貴族を城に呼んでの発表となるがまた忙しくなるのだろうか。
そう思いカイン殿下に挨拶し、また後日話をしたいと言われたのでお時間がある時に声をかけてくれるように頼んだ。
そして私はヴァンディミオン殿下との面会のため離宮に戻り支度をする。
私が椅子に座り待っているとヴァンディミオン殿下の訪れを告げられた。
二人で向き合い私から今回のことについてもう一度謝罪し、どのようなつもりで私を帝国に連れて行くのかを聞いた。
「学園で数回会話をしただけだけど、勉強熱心で自制心のあるところが気になったんだ。」
そこからヴァンディミオン殿下は話し出した。
自分は皇后である母に疎まれていること、命の危機があったために諸国に留学していたこと、自分は皇太子となりいずれ皇帝になるのでその時に皇后となる女性にはとても重圧をかけるであろうと考えていたこと。
「でも、君なら大丈夫じゃないかと思ったんだ。こんな女性が隣で、自分と同じ目線で一緒に国を治めてくれたらと思ったんだけど、君は第一王子の婚約者で卒業したら王子妃になる女性だったから一度は諦めたんだ。」
確かに私は自分が仕事をするために、将来王太子となり国王になるカイン王子と支えあうために勉強してきた。
カイン殿下には前世があることを言わなくて劣等感を抱かせてしまったと思っていたので、正直に私は前世があること、自分が仕事をしたいがために勉強をしてきたことを話した。
エリスがゲームのヒロインで私が悪役令嬢であったので修道院に行きたくなかったことも、エリスのように私もゲームの世界だと思っていたことも言った。
そして勉強をしていたことも、現在は国民のためになっているが、全て自分のためにしてきたことだと言った。
「でも君はエリス男爵令嬢と違って、自分のためだって言うけど国のために何かをしたら自分のためになるからと行動していたよね。」
「それはエリス男爵令嬢とは全然違うと思う。それに私が今やっていることは帝国のためになっているけど根本は自分の足場を固め力をつけることだ。」
そう言って私の目を見つめ
「ランスロット帝国は大きい。その帝国を私が将来治めなければならない。この国のように能力のある側室を持って国を治めるというのもひとつの手段だけど、私は唯一の女性と支えあっていきたいんだ。今すぐ答えはだせないと思う。きっと私は伴侶となったら努力を求め続ける。私が伴侶となった女性にできることは側室を持たずただ一人を愛し続けることだけだ。だから今回は帝国に帰るけれど会って話をすることはできないからせめて手紙のやり取りをしてくれないか?そして意見をだしあって、質問しあって君が納得し良ければ迎えに来させて欲しい。」
そう言って離宮から帰って行った。
明日帝国に帰るらしく、私はすぐに答えを出さなくて良いとのことで安心した。
国王様たちは今回の面会を知っているので、お手紙で知らせておくことにする。
ヴァンディミオン殿下のお話はとても帝国にとって重要で、醜聞にもなりかねない情報も隠さずに教えてくれていた。 <ジュエル・オブ・インペリアル> のことを持ち出さずに正直に自分の方の負の部分も話して交渉してくれたことを誠意だと思い、私もその誠意に答えるために真剣に考えなくてはいけないと思った。




