悪役令嬢の内心。
ヴァンディミオン殿下と護衛をエリスの部屋に案内しながら、エリスがヴァンディミオン殿下に抱きついたらどうしよう?とかエリスがあまりに自信満々だったのでカイン殿下たちのようになったらどうしよう?と頭の中がぐるぐるしていたが、部屋の前で到着を知らせ部屋に入った。
入った瞬間少し警戒したがエリスはおとなしく中央のテーブルの正面に背もたれつきの椅子に座っていた。
そして国王様、王妃様方、カイン殿下、宰相、騎士団長はエリスの左右に立っていた。
抱きつくという予想は回避された。
安心した私はヴァンディミオン様に説明したことを皆に伝え、王妃様の横に立った。
エリスの方をチラリとみておとなしく座っている理由に納得した。
エリスの腕はドレスの袖に穴を紐を通して肘掛に縛られており、腰にリボンが結ばれているがそこから紐がでて背もたれに縛りつけられ、足も椅子の脚に両方縛りドレスの裾で上手に隠してある。
喚かなかったのはきっと騎士団長の剣をチラチラみていることから脅かされたのだろうか・・・?
国王様が最初に今回のことを謝罪し王妃様、カイン殿下も謝罪の言葉を述べた。
側室方は一歩下がり頭を下げている。この国の法律に詳しい側室のシエル様がいらっしゃるということは、この場でヴァンディミオン殿下が断罪を求めた場合自国の刑罰について述べるためだろう。
ちなみにシエル様は代々日本でいう裁判所の裁判官のような機関の長官の元伯爵令嬢で、凛とした黒髪に黒い瞳の公平な心をもった女性である。王妃になったばかりの王妃様にこの国の刑罰について教えていたところ自分の相談相手としてそばにいて欲しいと後宮に誘われた側室だ。
謝罪の言葉の後に
「カインは騙されていたというのはセシリアから聞いたと思う。だが、カインのしたことはランスロット帝国の王位の簒奪を企てていると思われても仕方のないことだと思う。最低限、カインは王太子の地位の剥奪。エリスは実家の爵位剥奪の後王都の追放を考えている。もちろん両名ともにヴァンディミオン殿下に要望があれば引き渡すつもりでいる。この国で処分をというのなら毒杯を与えようと思っているがいかがだろうか?」
公開処刑を提案できないのは、カイン殿下のした事が重大なため他国に知られたくないという理由がひとつ。
もちろん国王様たちはヴァンディミオン殿下が公開処刑を望んだらそうするつもりだろうが、もうひとつの理由は、この国は死刑を公開するというのを神への冒涜だと考え忌避している。死刑はあるが、教会の司祭が立会い来世への祈りを捧げられ個室で処刑される。罪科によって死刑の方法は違うが毒杯を望んだのは親心だろう。
私はカイン殿下が馬鹿なことをしたのはわかっているが、幼い頃からの婚約者であり一緒に学んできて、道は誤ったけれども後悔して謝罪したカイン殿下を死なせたくはないと思った。
罪が重いのわかっているし、国家を危険にさらすほどのことをしたのはよく理解している。
でも、せめて王太子の地位を剥奪するだけでいいじゃないかと言いたい。
しかし今口を挟むのはヴァンディミオン殿下に対しての罪を重ねることになってしまう。
蒼白な顔色で悲壮な表情を浮かべたカイン殿下を横目に私は考える。
私がきっとカイン王子をゲームのキャラクターとしてみていたことでカイン王子に劣等感を感じさせていたし、恋愛感情はなくても私には負い目も情もある。謝罪された時にゲームのカイン王子してしか接していなかったと実感した。
国王様の言葉を聞いて少し考えていたヴァンディミオン殿下は
「カイン殿下は王太子の地位の剥奪だけで結構です。本当に知らなくて要求したようだし、学友として過ごした時期があったので。今回のことで過剰に罰を与えては両国の間に禍根を残すようなものでしょう。あとはそちらに任せます。その女性に対しても身柄は引き渡してくれなくて結構です。いりません。カイン殿下は廃嫡となるなら・・・」
「な・・・で、な・・んで、なんで私のことをいらないなんて言うの?」
謝罪の最中に下を向いていたエリスがヴァンディミオン殿下の『いりません』に激しく反応した。




