悪役令嬢は交渉する。
ジュエル・オブ・インペリアルとはランスロット帝国において、皇后が皇太子に渡すネックレスで国宝である。皇太子が結婚する時に正室に送り、例えば皇帝、皇后、皇太子がいなくなったとしても皇族として遇されるべき女性であるという保証になる。
継承権は皇后から生まれた子が一番で、その後は側室の子供の生まれた順番、皇帝の兄弟というように帝国では決められているが、皇帝の子供が幼い時場合、誰の子供でも皇后が皇帝の代わりとなり成人まで王権を持つ。
他にも皇后が好き勝手できないようにするための他国の知らない決まりは色々あるらしいが、ネックレスについてはそれだけの価値があると教えていただいた。
それを譲れと他国が言うのは、極端な言い方をすると王位の簒奪を企てていると思われても仕方のないことだけに重大な問題である。
私はみたことがないが、大きなダイヤモンドを中心にレース編みのようになっていて要所に小さなルビーとサファイヤがはめ込まれていてとても豪華なネックレスらしい。カサンドラ様とダリア様がおっしゃっていた。お二人とも実家の関係で実物をみたことがありカサンドラ様は以前絵に描いて教えてくださった。ダリア様は、ビジュー・オブ・インペリアルはほとんどの人が <后妃のネックレス> と呼んでいるジュエル・オブ・インペリアルがモデルとなりそれを自分の予算で組み合わせることができるから流行しているのではないかと分析なさっていた。
貴賓室では、カイン殿下だけが何を言われたのかわかっていなかった様子で
「はい。エリスがランスロット帝国の皇太子となったヴァンディミオン殿下の扱っているネックレスでダイヤモンドとルビーとサファイヤで作られたものがあると言っていたものですから・・・。何か問題でも・・・?」
公には <后妃のネックレス> として有名でジュエル・オブ・インペリアルという正式名称を知っている人は少ないが、自国の王太子が知らなかったでは済まない。
ヴァンディミオン殿下が
「どんなものか、本当にそれが欲しいのか確認したところ、ダイヤモンドを中心としてルビーとサファイヤが埋め込まれているものが欲しいとのことなので、帝国とこの国に近いところに兵を連れてきています。
返事次第ではこちらに攻め込み開戦します。安心なさってください。民はなるべく傷つけないよう言ってあります。」
今開戦したら、敵本陣に自分がいるいうことになるのにそんなことを言うなんて、多分合図をして自分は安全だという方法があるのだろう。
貴賓室の中はカイン殿下を除き、私を含めて無言で重苦しい空気が立ち込めている。
「ヴァンディミオン殿下、大変申し訳ないのですがカイン殿下は何か勘違いしてお手紙を送ったようです。よく話を聞き、明日また改めてお話する機会を設けるのでいかがでしょう?こちらの都合の良い話ばかりで恐縮なのですが、王太子妃として王太子であるカイン殿下のなさったことを知らなかった私にどうか知る時間を与えていただけないでしょうか?」
国王様・王妃様を差し置いて僭越なことだと思ったが、会話したことのあるヴァンディミオン殿下ならこの言い方ならチャンスがもらえるかもと思いつい口から出ていた。
多分カイン殿下は勘違いしているが、エリスがわざと勘違いさせている気がする・・・。勘違いでも王家の紋章入りの手紙という証拠がある以上どうにか対応策を練らなければならない・・・!
「・・・セシリア皇太子妃にはよくしていただいたので、そうおっしゃるなら・・・。また明日の夜会の後に結果を教えてください。」
エリスと出会っていたカイン王子の代わりに私が学園内の案内をしてくれたという理由で時間を与えると、ヴァンディミオン殿下は一言言ってから自室に帰っていった。




