悪役令嬢の焦りの夜会。
ちらりと扇の陰からエリスをエスコートしていた騎士をみれば、真っ青な顔色をしている。
前回エリスがおとなしく謝罪に回っていたため油断したのだろう。私もまさかここに来るとは思っていなかった。
視界に王妃様たちがゆっくりこちらに向かっているのがみえた。私のすべきことは何とかエリスを目立たせずに到着するまでやりすごすこと!
そう思って、エリスに
「エリス様。ヴァンディミオン殿下は皇太子になられたし、ここは学園ではないのだから殿下とお呼びすべきですよ。」
なるべく、刺激しないよう・穏やかに・にこやかに精一杯心がけて話しかけたが、エリスはこちらをちらりとみただけで
「ヴァンディミオン殿下になったんですね。おめでとうございます。エリスです。同じ学園でしたが覚えていらっしゃいますか~。」
ヴァンディミオン殿下の方が高位なのに話しかけている。身分の下の者から話しかけてはいけないとあれほど学園でも散々注意してきたのに!しかも相手は他国の皇太子!
カイン殿下が隣で固まっているので袖をつんつん引っ張ってみた。
何とか我に返ったカイン殿下がエリスに話しかける。
「エリス、今こちらで話をしているんだ。後でゆっくり話をしよう。彼とダンスをしてきたらどうかな?」
手で合図をして騎士を呼び、エリスを連れて行かせようとするがその前にエリスの言葉の方が早かった。
「ヴァンディミオン殿下、カイン殿下がお願いしていたネックレスは持ってきていただけましたか?」
首を少しかしげて可愛らしい笑顔でヴァンディミオン殿下に聞くが、それを聞いた殿下が真顔で
「手紙でも尋ねたし確認もしたけれど、一体どういうつもりかな?このままここで話をするのかな?」
と少し不穏な声でカイン殿下に聞く。
ちょうどその時王妃様方が到着し、エリスは側室方に回収され王妃様が声をかける。
「ヴァンディミオン殿下、楽しんでいただけてますか?少々無作法な対応の者がいたようですが後で改めてお話させていただきたいんですけど、よろしいでしょうか?」
扇で口元を隠し眉を寄せ心苦しそうにおっしゃったことで、殿下も少し考えて
「では、夜会の後お時間をいただけますか?こちらの国の主だった方々にお話があります。」
エリスの態度だけが不快だったわけではないようで、何とかその後は他の方々と踊り、会話をして本日の夜会の後、国王様が私たちに収集をかけた。
王国の貴族達が集まる謁見の間ではなく、少し広めの貴賓室において国王夫妻を中心にカイン殿下と私が並んでソファーに腰をかけ、宰相は国王様の横に立ち、騎士団長は国王様の後ろに立ち、その向かいにヴァンディミオン殿下が数人の護衛の騎士の中心に一人腰掛けこちらに話しかけてきた。
「お時間をとっていただいてすみません。」
「いや、先ほどは大変な失礼をしたようで。何か話しがあるとのこと。聞かせてもらえるだろうか?」
国王様が促すと、数枚の手紙を国王様に差出した。それを読んでいくうちに最初は眉をしかめていた国王様の顔が、だんだん顔が赤くなり血の気が引いていった。
宰相と王妃様も国王様の後に手紙を読んでいたが、宰相は震え、王妃様は今にも倒れそうなご様子。
一体何が書かれているのだろう?こちらの王家の紋章が入っているし、先ほどの会話からカイン殿下からの手紙のようだけれど・・・。
不思議に思い見つめていると国王様が低い声で
「カイン、お前はジュエル・オブ・インペリアルをヴァンディミオン殿下に欲しいと手紙に書いたのか?」
とカイン殿下に尋ねた。




