えぴそーど 9
ルミナスの王に面会し、病弱な両親にも会い、サーシャとダグラルはカフェ・マリーで寛いでいる。
マリーは姉の言葉に、不満をぶつける。
「本当にハイヒットの家に泊まらないの?」
「ええ、もう宿も取ったしね」
サーシャの育った自宅は、すでにマリーとマリウス達の家となった。
気を使うよりも宿でゆっくりと休みたい。
「もう、サー姉様ったら…。他人行儀よ」
「マリー、許してよ。ダグラルと久し振りに陸を味わいたのよ、2人きりでね」
「うわぁ、姉様が惚気てる…」
「あのね、惚気るのはフィーだけのものじゃないわよ?」
「そう、そうよね」
と、サーシャが絵に目をやる。
ガナッシュでも見たことのある作者の絵を見つめた。
「この絵、ここでも飾ってるの?」
「え?まあね。好きなのよ」
「いい絵よね、ガナッシュの絵も、好きだわ。けど、売らないんでしょう?」
大好きな姉に作者を明かしていないことに罪悪感を感じながら、話を進める。
「そう、作者が興味ないのよ」
「だけど、マリーは購入している。でしょ?」
「転売しない約束なのよ」
「そう、残念だわ」
罪悪感が大きくなる。
「まぁいいじゃない」
「けどね、この絵が好きな子がいるのよ」
その言葉にダグラルが頷く。
「ああ、スティーヴは良く眺めていたね」
「そうなのよね。この絵を見てると、心が落ち着くんだって」
「スティーヴって?」
「ほら、私達にの所に家出してきた男の子がいるって、いってたでしょう?その子のこと」
マリーが思い出して頷いた。
「ああ、そういえば、そんな話してたわね。その子、どうなったの?」
「今、ルミナスに来ているの。両親を説得して、私達に会わせれば正式に雇ってあげることになってるわ」
「ふーん、けど、貴族の息子さんだったんでしょ?」
「そう、ズレイグ家のね」
「姉様…ズレイグ家って、本当?」
マリーは絶句した。
ルミナスでは有名な貴族だ。ズレイク子爵。今は確かルミナスの税務を取り仕切っている筈。
「だ、大丈夫なの?」
「さあね、けれどもスティーヴの父君には内緒でお知らせしてあるの、陛下にお願いしてね」
「そうなの」
「それで、子爵からは5年程預かって欲しいって連絡があったのよ」
「豪儀ね…」
「そう思うわ。で、5年経ったからお返しにきたって感じ」
「お返しって、寂しくないの?」
サーシャはダグラルを見た。ダグラルの瞳は優しい。
「そりゃね、私達、子供がいないし。けど、貴族の息子さんだもの。それ相応の場所があるわ」
「まぁね、仕方が無いことだわ」
「だから、お別れにね、あの絵を贈りたかったのよ」
「そうなの…」
姉に対する罪悪感で一杯のマリーだ。
「だけど、私達、スティーヴの事を、息子みたいに思っちゃった、ね?」
「そう、だね。会えなくなるのは寂しい、ね」
大きい体のダグラルは涙腺が脆い。今も危険な状態。
「ダグラル、泣かないのよ?」
「う、うん…」
「後で慰めてあげるから、ね?」
姉は大胆になったものだとマリーは感心する。
「明日は城での食事会よ。姉様達の婚礼も兼ねているんだからね、程ほどにね」
と嫌味をいってみた。
「あら、そうね」
とかわされただけに終わる。
姉は人生を楽しんでいる、マリーは心が温かくなる。
そして、妹は、きっと、この部屋の片隅でこの話を聞いて、少し怒っているに違いないわね。
私とデュークさんの方がラブラブなんだから、て。
わかったわよ、フィー。みんな元気よ?安心しなさい。