えぴそーど 79
春になり、アリスとアンドレアの挙式まで後1ヶ月となった頃。
アリスの挙式に参列するためにジュリアがルミナスを訪れた。
春が盛りの王宮。
色取り取りの花が咲き誇っている。
セーラは女の子を出産した。
名前はカンナと名付けた。
どこか日本風なのには訳がある。
幼かった頃に母が教えてくれたのだ。
母がカナコと呼ばれる由来をだ。
その時に尋ねたのだ。
『じゃ、お母様。他に日本風の名前ってどんなのがあるの?』
『そうね、カンナとか、アヤコとか、ね』
『カンナ?可愛い。もし私が女の子を産んだら、そう名付けようかな?』
『まぁ、嬉しいわ。そしたら私は名付け親ね?』
『名付け親?』
『そうよ、赤ちゃんの名前をつけた人を、そう呼ぶの』
『じゃ、お母様は名付け親ね?』
『わかりましたよ、セーラ』
そんな懐かしい会話を忘れることが出来なかったのだ。
「じゃ、ジュリアンとカンナは?」
「お義母様が見てくださっているの。たまには羽を伸ばしていらっしゃいって、言って下さって」
「ビクラード夫人は素敵な方だわ…、あ、私のお義母様もね、素敵な方なのよ?」
「知ってるわよ」
姉妹の会話は終ることなく続いた。
そこに、ルイがジュリアを連れて現れる。
「姉様達、ここにいたのですか?」
「そうよ、中々お目に掛かれなくて、待ちくだびれたわ」
「そう」
2人はルイの隣にいる少女に視線を移した。
ルイの妃になるのだ。
ジュリアはルミナスに着いてから様々の場所での挨拶をこなしていた。
やっと、時間が取れたのだった。
ジュリアは初めて会うルイの姉達を前に、緊張しながら挨拶をした。
「初めまして、ジュリアです」
小さな少女は、ルイの隣で礼をする。
春色のドレスがフワフワと揺れた。
彼女の可愛らしさに、とても似合う装いだった。
「ジュリア、セーラ姉上とアリス姉様だよ?」
「はい、お2人とも、とてもお綺麗です、こんなに素敵なお義姉様がいてくださるなんて、嬉しいです」
2人の姉は、ジュリアの言葉に感動して喜んだ。
「まぁ!」
「なんて可愛いの!」
そんな感嘆詞付きの言葉でジュリアを歓迎する。
姉達は初めて会う義妹の可愛さにやられてしまったらしい。
「ジュリアちゃんって、お人形みたい!」
「ほんとね。私、妹が欲しかったから嬉しいわ!」
ルイの事など眼中にない様に、2人はジュリアの手を取った。
そして、お構いなしに話を続ける。
「ジュリちゃん、って可愛くない?」
「それ、可愛い!私もそう呼ぶわ!」
ルイは姉達のテンションの高さに驚いている。
「あ、あの…、姉様?」
ルイの声など、届いていない。
それどころか、ルイは弾き飛ばされてジュリアから遠ざけられてしまっている。
2人の姉の興奮は納まらない。
セーラが提案する。
「ねぇ、アリス。ジェシカの店に行かない?ジュリちゃんに服を作りましょうよ?」
「姉様、そうしましょう!」
「じゃ、今から、行きましょうよ?」
「うん!ねぇ、ジュリちゃん?」
と、ジュリアを見る。
「行きましょう?」
ジュリアは目を丸くしたままで答える。
「あ、はい…、けど…」
ジュリアは言葉を濁した。
そんな事もお構いなしの2人はまだ話を続ける。
「ジュリちゃんには何が似合うかしら?何着も誂えたいわ」
「そうすればいいのよ、どうせ、ルイが支払うんだし、」
「そうよね、ついでに、靴も扇も誂えて…」
「私達とお揃いも、いいわ!」
「賛成よ!」
そんな義理の姉達の喧騒に、嬉しいのだけれども戸惑うジュリア。
「あ、あの…」
そんな声も届いたのか届かないのか、セーラは受話器を取ってジェシカと話し出す始末だ。
「ジェシカ?セーラだけどね、今日って伺っても大丈夫かしら?」
ようやく、気を取り直したルイが姉達を掻き分けて、ジュリアの手を握った。
ちゃんと自分の隣にジュリアを取り戻す。
そして、2人の姉にモノを申した。
「セーラ姉上!受話器を置いてください」
その言葉通りにするしかなかった。
「ジェシカ、ごめんなさい。また後で電話するから…」
そう言って電話が終る。
ルイはセーラに釘を刺す。
「いいですか、ジュリアはルミナスに着いたばかりなんです。疲れているんですよ。そんなに振り回さないで下さい」
「あ、けど、ルイ…」
「それに、アリス姉様!ジェシカは姉様達の支度で手が一杯です。だいたい、義兄さんと姉様、今日は衣装合わせじゃないんですか?早く出かけて下さい」
「あら、そうだったわ…」
反省して大人しくなる2人。
そうしてから、ルイはゆっくりとジュリアを目線を合わせて、とても優しく言うのだ。
「ジュリア、ここの庭を案内するよ。少し遅いけど、紅藤の花がまだ咲いているから」
「紅藤?!ルイ様がお手紙に書いてくださった花ね?」
「そう、ジュリアの花だ」
2人が見つめ合って、嬉しそうに話ている。
ルイが女性に対して、こんなに優しい顔で話すところを初めて見た姉達。
「庭に行こう?」
「うん!セーラお義姉様、アリスお義姉様。ルイ様と庭に出てもいいかしら?」
姉達は、ようやく自分達こそお邪魔であったと気付く。
2人は顔を合わせて、互いに苦笑いとなった。
まさか自分達がお邪魔虫になる日が来ようとは、考えた事もなかったからだ。
素直に2人を見送ることにした。
「ええ、楽しんでね?」
「私達はここでお茶しましょう?」
「そうね、話すことは沢山あるもの」
「そう、」
セーラはジェシカに断りを入れることにしたから、再び受話器を取った。
「ジュリア?」
ルイは満足気にジュリアに腕をさし出す。
その腕を掴んだジュリアはニッコリと笑うのだ、あの可愛い笑顔で。
「それでは、失礼します」
去っていく2人を見送った姉達。
シミジミと恋する2人を見届けてから、話が始まる。
「ねぇ、アリス?」
「なに?」
「お似合いね、あの2人」
「本当に。仲がいいわ…」
「お父様も喜んだんでしょう?」
「ええ、そう聞いているわ」
アリスはもう直ぐ夫になるアンドレアから聞いたのだった。
それは、昨日の出来事であった。




