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えぴそーど 78

慌しく全てが決まって行く。

驚くほど素早く順調にだ。


この結婚は仕組まれたものなどではなく、2人が望んで叶うものである。

それは、ルイとジュリアの2人の笑顔を見れば誰もが確信できた。

特にジュリアの初々しい笑顔は、見るものを魅了する。




彼女の母ですら、幼い娘が急に大人の女性になっていくことを認めてしまうほどの変貌である。

ルイとジュリアの母と2人きりの時にこんな会話がなされていた。


「ルイ殿。これほどまでに娘が綺麗になると思いませんでしたわ」

「義母上、その様に嬉しい言葉、ありがとうございます。ただ、ジュリアがこれ以上美しくなってしまうと…」

「なにかしら?」

「他の男に取られないかと、心配になります」


アルホートの王妃は笑った。


「大丈夫です。ジュリアの瞳は貴方しか見ていませんもの」

「だといいのですが…」


意外に弱気なルミナスの世継ぎを、この王妃は好ましく思う。


「ルイ殿。ジュリアは婚姻の前から、ルミナスに行くことになるでしょうね?」

「そうなります」

「幼い娘を余所に嫁がす不安はありますが、ルミナスに馴染むこと、それがジュリアにとって1番大切なことですものね」

「申し訳ありません」 

「けれども、貴方にならば安心して娘を託せます。どうか、あの子を幸せにしてやって下さい」


王妃の願いに、ルイは重々しく答える。


「妃殿下、必ずです。ジュリアを幸せにします。その為に俺は生まれてきたのでしょうから」

「まぁ、ルイ殿はお口が上手だわ」

「いえ、本心ですよ!」

「まぁ、そうでしょうね、そうでなればその様な言葉、出ないでしょうから」

「良かった、信じて頂けて。安心しました」

「本当にルイ殿は可愛いわ、ホホホ」



それはシミジミと穏やかな時間であった。 





数日後のこと。


調印式が行われている。

ルイ・デューク・ルミナスとジュリア・エミ・アルホートとの婚姻が認めるために、両国の間で正式に取り決めが交わされるのだ。

式の間も2人は仲良く並んで座り、時折会話を楽しんでいた。


「ルイ様、今日のルイ様は、とっても素敵です」

「ありがとう。ジュリアの為に頑張ってみたんだ。似合っているかな?」

「はい、とっても」

「嬉しいな。ジュリアも素敵だよ?」

「嬉しい!」

「可愛いなぁ…」


そんな初々しい会話に、両国の関係者も安堵の表情であった。

温かな空気の中行われていた式であったが、この話題の時だけは一瞬違う空気に包まれた。

元々のお見合いの相手であったマルガッテへ贈られるはずの品の処遇についてである。


「さて、こちらはマルガッテ様に贈る予定の品だったのですが…」


アンリが少し弱った表情で話を進める。


今回、ルミナスが持参した品々はジュリアの姉の為のモノである。

15歳の娘に相応しいものとして選ばれた品々である。

決して、ジュリアの為ではなかった。


「よろしければ、私が受け取ります」


そうジュリアは答えた。

これ以上の負担をして欲しくなかったからだ。


「私もあと3年したら15歳になりますもの。その時に使わせて下さい。良いでしょう、ルイ様?」


そんな無欲な紅藤の瞳が、赤紅を見詰めた。

ルイは彼女の言葉に、こう答えた。


「義父上、ルミナスで今回用意したものは、全てジュリアの姉に渡して下さい。俺はそれで構いません」


アルホートの王がルイの言葉を確認する。


「ルイ殿、貴殿の妻はジュリアと決まった。元々貴殿の妻になる人間の為に用意された品々だ。それにマルガッテは今回の話を嫌がって下りた娘だ。この品々はジュリアが受け取ってもいいのでは?」

「いいえ、それでは俺が納得できないのです、義父上」

「納得できない?」

「はい」


ルイは隣のジュリアを優しい瞳で見詰めてから、こう言った。


「ジュリアに贈るものは、俺が吟味して届けます。ジュリアの為だけに贈りたい」

「ルイ様…」

「ジュリア、俺の我が侭を聞いてくれないか?」

「ありがとう、ルイ様」


さらっとこんな惚気を言えるようたルイ。

同席した面々は暫し呆気に取られたのだが、ルイの男気に感動した。

であったので、これらは特別に姉のマルガッテに贈呈された。

この件に関しては、ルイの希望が尊重された。



そして、調印式は無事に終了した。







別室にて。


今はアンドレアとルイしかいなかった。

一連の日程を振り返り、アンドレアが呟いた。


「殿下も言うようになりましたね…」


その言葉が聞こえたのだろう。

苦笑いのルイはアンドレアを咎める。


「義兄さんに言われたくないですよ」

「いやいや、私よりも甘そうだ」

「俺はジュリアの為だけに言いますから、義兄さんとは違うと思いますよ?」

「いや、私だって…」


そう反論しそうになったアンドレアは言葉を止めた。


「私達、なに子供みたいにムキになっているんでしょうね、笑ってしまいます」

「本当だ」


2人は互いに笑っている、


「けど、義兄さん」 


アンドレアの事をそう呼ぶことに決めたルイは、口も軽くなっているようである。


「愛しい女性がいるって、素敵ですね」

「その通りです。最愛の女性を失うなど、ありえない」

「まったく」


2人の男はそれぞれの女性を思い浮かべながら語り合っていった。

そこに息子との再会を果たしたアンリが戻った。


「戻りました」


アンリが、どこかいつもと違う2人の様子に気付いた。


「もしかして、惚気合戦など繰り広げていたのでは?」


元祖乙女殺しのアンリが言うのもどうかと思う。 


「義兄さん、知ってますか?アンリ伯父上はね、甘い言葉にかけてはルミナス一の称号を得ていた話を」

「知りませんでした、アンリ殿が?」

「いや、昔の話です。今はそんな事を言わなくても、グレイスとは気持ちが繋がっているので」


昔のままだと思うのは気のせいだろうか?


「さて、それよりも…」


話はルイとジュリアの婚礼までの詳細についてだ。

決めても決めても話が出てくる。




1週間後。




ジュリアと暫しの別れを惜しんだ後に、ルイはルミナスに戻った。

王はルイの報告に喜び、ルイとジュリアの婚約が直ちに発表された。




王太子、ルイ・デューク・ルミナス殿下、ご婚約、決定!




5日に1回発行されるルミナス新聞も、今回は号外を発行した。

2人の肖像画が発売され、歓迎の雰囲気が広がって行く。






そう、ルミナスはお祭り騒ぎとなったのだ。





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