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えぴそーど 74

王は話を別の方へ持って行く。

少しはルイのお妃探しを進展させなければいけないからだ。



実は前々からアルホートの王よりの申し入れがあった。


「アンリ、あの話はまだ生きているのか?」

「アルホートですか?」

「そうだ」

「是非にと、催促が来ております」

「なら、進めるか?ワシなら構わんぞ?」


アルホートの現王からルイに縁談が来ている。

しかし、ルミナスの王と前の妃との事があった為に、この話は進んではいなかった。



だが、消えた訳でもなかった。



リリフィーヌ・ジャンヌ・ルミナス。

ルミナスに嫁ぐ前は、アルホートを名乗っていた。

彼女はアルホート王家の王女だったのである。

前王妃の型破りな行動と言動は、今でもルミナスの記憶に残っていた。

そう、ジョゼの言葉を借りれば、彼女は生まれながらの娼婦、であったのだ。


それがルミナスの懸念となって残っている。 


だが、当たり前ではあるが、アルホートの現王はリリフィーヌの父ではない。

彼はリリフィーヌの異母弟にあたった。


これには語られるべき話がある。

リリフィーヌがルミナスに嫁いで1年もしない頃、本来の世継ぎであったリリフィーヌの異母兄がルミナスで事故に遭い寝たきりになってしまったのだ。

寝たきりの人間には政を任せられない。

そこで、彼女の父である前王は新しい妃を娶り、子を成した。 

その子が現王である。

そして、現王には2人の姫と世継ぎの幼い王子がいた。


長女マルガッテは15歳。 

ルイの相手としては申し分ない年頃である。 

彼女がお妃として名乗りを上げているのだ。


アンリが念を押した。


「しかしながら、陛下。相手はアルホートの姫です。よろしいのですか?」


それは、噂で聞いたリリフィーヌの事が関係している。

それほどまでに彼女は強烈な女性であったのだ。


「リリフィーヌの事だろう?あれは、あいつが特別だったんだ。それに、ワシはリリフィーヌに感謝してる」

「感謝ですか?」

「当然だ。リリがいなければカナコに会えなかった。あいつはワシの恩人だ」


場が静かになった。

今でも王の最愛の女性は、亡き王妃であった。


ルイが父に尋ねる。


「俺はアルホートに行けばいいのですか、父上?」

「そうだが、いいのか?」

「構いません。会ってみて嫌なら断ります」

「それは中々難しいかもしれんぞ?」

「大丈夫です。ルミナスで暴れられるよりは、マシですから。それに、」

「なんだ?」

「たまには船旅でもしたいんですよ」


相当、嫌気が差しているらしい。


「そうだな、気分を変えるのも必要だ」


王は息子の決断を後押しする事にした。


「それでは、アルホートに書簡を。訪問の日程を詰めろ」

「畏まりました。で、同行者は?」


ルイは決めていた。


「アンリ伯父上はもちろんですが、アンドレアさんに同行してもらいます。どうでしょう?」

「それは、いいな。けど、少し長い滞在になる。アリスが怒るぞ?」

「そうですね、何か考えますよ」


弟は姉の脹れた顔を思い浮かべた。

アンドレアは少し深刻そうな振りをする。


「殿下、お願い致します。アリスのご機嫌を損ねたままでは旅立てませんから」

「ええ、任せて下さい」


結局、ルイのアルホート訪問は2週間後になった。

同行者はアンリとアンドレア。

持ち込む品々は15歳の少女に喜ばれそうなものをメインに、王家に送る品々が選ばれたのだ。




冬の海は荒れることが多い。

アルホートでの滞在は短くて2週間になる。





別の日の打ち合わせ。

今日はルイとアンドレアの2人であった。


アンドレアからはアルホートの王家についてや、貴族達の人となりを聞いたのだった。


「なるほど、やはりアンドレアさんは詳しいなぁ」

「学校やサロンが同じでしたからね。昔の繋がりがお役に立てて嬉しいですよ、殿下」

「やはり、異国に行くのだから事情に詳しいアンドレアさんは不可欠ですね」


けれども、これから姉は婚約者と離れるのだ。

それも仕事とはいえルイの為にだ。


すまなそうにルイがアンドレアに言う。


「姉様と離れるのは寂しいでしょう?」

「それは、もちろんです。ですが殿下のため。アリスも分かってくれます」

「それはそうだけど、…、あ!そうだ」


急に悪戯小僧になったルイが、少しにやけて言うのだ。


「あえて、義兄さんと呼びます。義兄さん、2,3日アリス姉様と一緒に休日を楽しんで下さい」

「殿下、しかし、それでは?」

「父は俺が説得しておきます。でないと、姉様に恨まれそうだ」

「これは、また、粋な計らいですね?」

「義兄さんがどれだけ姉様を大切にしてくれてるか、誰が見たってわかりますから。その努力に敬意を表した訳ですよ」


アンドレアは笑ってしまった。


「こんな敬意を見せられたら、殿下の為になんでもしたくなりますね」

「それが狙いです」

「さすがだ」


ルイも笑いながら言う。


「どこか素敵な場所に、姉を連れて旅行にでも行って来て下さい」

「旅行ですか…、そうですね、父の屋敷がネバーユにあるんです」

「ネバーユ?温泉ですね?」

「ええ、」


温泉は亡くなった王妃が情熱を注いだモノの一つだ。

ネバーユはルミナス唯一の温泉街で、大勢の貴族が屋敷を造り温泉を楽しんでいる。


「それはいい。姉も母の影響で温泉は大好きです」

「いい事を聞きました。早速、手配します。嬉しいなぁ…」

「え?」

「いや、なに、アリスの嬉しそうな顔が見られるんですよ?こんな嬉しい事はないです。何をプレゼントしようか、うーん、悩みます」

「プレゼント?ですか?」

「そうです。イベントですからね、盛り上がりを作らないと。余り高価ではなく、けれども、アリスの心をくすぐるもの…。殿下?」

「はい?」

「休暇は何時からでしょう?」

「それは義兄さんの都合の良い日で、構いませんよ?」

「ありがとうございます。ああ、忙しくなる」

「けど、義兄さん?」

「なんでしょう?」

「仕事に支障が出ないようにお願いします」


アンドレアが笑った。


「もちろんです。未来の妃殿下と会う旅ですから、殿下の為に周到に準備しますよ」

「頼みました」


割と真剣に念を押したルイである。







で、今に至る。

2人はネバーユの地にいた。


早速、ヴェルファールの別邸にある温泉に入っているのだ。


「温泉って、いいわね。何度入っても思うの」

「ああ、素敵な場所だろう?」


アリスの肌が薄っすらと桃色に染まっている。

そっと、アリスはアンドレアの肩に首を乗せた。


「ええ。素敵な場所。アデュとこうして温泉を楽しめるなんて、嬉しいわ」

「私もだよ?」


アリスの濡れた髪をそっと撫でながら言うのだ。


「アリスを独り占めだ。私は幸せな男だな」

「もう、アデュったら」


最愛の人の頬に触れ、キスを強請る。


「キスして?」

「わかったよ」


2人の唇が重なる。

長く深いキスであった。


「湯当たり、しそう…」

「そろそろ上がった方がいいみたいだね?」

「うん、けど…」

「なんだい?」

「あのね…」

「アリス、願い事はちゃんと口にして?」


真っ赤な顔になったのは、上せたせいではないようだ。


「だ、抱いて欲しいの…」

「キスを強請るのは上手になったのに、これはまだまだだね?」

「もう!だって、恥ずかしいんだもの」

「私達しかいないのに?」

「そうでも、なの!」


アンドレアは唇でアリスの肩に触れた。

そこがアリスの感じる場所であることは、既に知っているのだ。

その唇はアリスの胸に到達している。


すっかりアンドレアの愛撫にも慣れてきたアリスの声が、湯気の中で響く。


「あ、あん…、っ、」


急に、アンドレアの動きが止まって、彼はアリスを見詰めた。

アリスが潤んだ瞳で抗議する。


「あ、もう…」


アンドレアの瞳も潤んでいる。


「やめる?」

「それは、いや…」

「じゃ、続きはベットだ。いいね?」

「うん」


甘えるようにアンドレアに抱きついてしまう。

彼はアリスを抱かかえると、そのままで、隣に用意されている部屋へと入った。


今回の為に、温泉の隣に寝室を用意したのだ。


濡れたままだろうが、好きな時に愛し合えるように。

誰にも邪魔されないように。

存分に2人の時間を堪能するために。


「アリス、愛してる」

「愛してるわ」


囁きが交わされた。

熱い時が始まる。







暫し離れる恋人達は、惜しむように求め合ったのだ。







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