えぴそーど 72
「アリス?」
アンドレアは寛いだ様子で椅子に腰掛けていた。
彼は思わずアリスの全体を見詰めてしまう。
そしてその美しさにため息を漏らした。
上品な白絹の夜着がアリスの紫紺を引き立てている。
「アデュ、」
そう言ってから、アリスはアンドレアのすぐ前に立って彼を抱きしめた。
アンドレアは気付いた。
「震えてる?」
「ちょっと、怖いから、」
そんなアリスの髪をゆっくりと撫でるのはアンドレアの手。
繊細で美しい指であるが、どこか力強い指である。
「さあ、アリス」
立ち上がった彼はアリスを抱き上げた。
しっかりと抱き上げるアンドレアの腕は逞しいのだ。
アリスは甘えて顔をアンドレアの胸に近づける。
「ほら、約束通りだろう?アリスを抱き上げて歩ける程に良くなったよ?」
「うん…その通り…」
「だから、君の願いを叶える」
「うん…」
アンドレアはそのままで、アリスをベットへと連れて行く。
アリスの心臓がドキドキとする。
手に心臓が付いたのかと思うくらいに手まで震えていく。
不安そうにアンドレアを見詰める。
「アデュ、私、どうしたら、いいの?」
アンドレアの瞳は優しいままだ。
「素敵な質問だね」
「もう…」
アリスをベットに下ろすと、念の為に彼は幕を張った。
隣に座る。
それから、ゆっくりとアリスの頬を撫で、その感触を楽しむ。
アリスの不安そうな瞳が徐々に潤んでくる。
ようやくアンドレアが囁いた。
「キスをしよう?」
「うん、あ…」
2人はベットの上に腰掛けて口づけを交わした。
軽く何度も交わした。
だが、そのキスは段々に激しく深くなっていく。
アリスの戸惑いは消え、応えるように激しくキスを繰り返す。
「あっ、」
彼女がそんな声を上げたのは、アンドレアがアリスをベットに寝かせたからだ。
「うん?」
「アデュ、私…」
火を消さないように、アンドレアが言葉を続ける。
「ここには私達しかいない」
「うん、」
息がかかるほどに近く、アンドレアの言葉が続く。
「なんて綺麗なんだ、アリス、本当だよ?」
そっと、服が脱がされていく。
「美しいよ…、」
アリスの白い肌が、アンドレアによって薄桃色に染められている。
現れた肌に彼の唇が触れた。
「あ、…」
アリスが恥らうように声を上げた。
服を脱がされたアリスはアンドレアの前に全てを晒した。
「恥ずかしい、わ」
「どうして?こんなに綺麗なのに?」
「だって、…、」
「私しか見てないよ?」
「そ、そうよ?アデュにしか、見せないもの」
「嬉しいなぁ、見せておくれ?」
「愛してる…」
彼はアリスの唇にキスをした後、首から肩へ唇で触れて、そう、舌を動かした。
「あ、ぁ…」
愛撫が続く。
初めての刺激にアリスは我を忘れる。
彼の愛撫はアリスの胸にも及んだ。
「あんっ、あ、」
アンドレアは言葉を出すことなく、アリスの体の全てに、彼の唇で触れるのだ。
優しく、ゆっくりと。
その度にアリスの声が、恥ずかしそうに漏れ出る。
「あ、アデュ、あ、、あぁ、、」
それは生まれて初めての、素敵な刺激である。
アリスの体が熱くなっていく。
彼女の体の中にあった情熱に火が灯されたのだ。
「ぅん、…、もっと、ぁ、」
そして、熱の向こうからアンドレアの囁きが聞こえる。
「もっとかい?素敵だ。そう、もっと、感じていいんだよ」
その意味が分からずに、それでも、熱が急かすから、アリスは返事をする。
「アデュ…、もっと…」
待ちきれない彼はアリスを刺激する。
「あつぅ!」
その刺激は、想像を超えた刺激だった。
波がアリスを襲っているかのような、甘美な刺激だ。
刺激が全身に襲い掛かる、声が上がる。
「あああ!」
アンドレアの囁きも激しくなっている。
「アリス、いいかい?」
「え、あ、いい、アデュ、あ、」
アリスの声にアンドレアが反応する。
波は早く激しくなっていく。
「アデュ、あ、あっぅ!あーーーん!、…、はぁ…」
どうしていいのか分からないほどの刺激にアリスは身を委ねた。
全身の力が抜ける。
アリスに果てが訪れたのだ。
グッタリとアンドレアの腕の中で息をする。
アンドレアが見詰めている。
「あ、わたし、どうしたの?」
そんな言葉を紫紺の瞳が言うから、アンドレアは愛しさで満たされてしまう。
「アリス、なんて可愛いんだろう…、もう、離さないからね」
「アデュ、」
その紫紺の瞳がなんとも悩ましく彼を見る。
「私も、素敵過ぎて、…、アデュから離れられない」
優しくアリスの髪に触れる。
当然、彼も何も身に纏ってはいなかった。
その裸体をアリスは眩しそうに見詰めた。
「私を受け入れてくれるかい?」
「うん、知ってるの、最初は、ね、痛いって。けど、愛してるから、大丈夫」
「素敵だ、優しくするよ、愛してる、アリス…」
「ええ、、あっ!」
アンドレアがアリスの中へと入っていく。
アリスの痛みは想像よりも強かったみたいだ。
「うぅ!…」
それでも、アンドレアの優しさが伝わった。
「うっ、ごめん、アリス、あ」
「愛し、てる、わ…」
刺激が痛みから快感に変わるころ、アンドレアが果てる。
「あ、、うっぅ、、アリス…、ああ!」
無言で見つめ合う。
互いの息が激しくなっている。
アンドレアがアリスを強く抱きしめた。
熱い。
潤んだ瞳が全てを物語る。
「なんて素敵なんだ…」
アンドレアの指がアリスの頬を撫でる。
その指は優しく温かい。
「アリス、離さないよ」
「うん、ずっと、一緒、でしょ?」
「ああ、ずっとだ」
キスを交わす。
ゆっくりと優しいキスをだ。
「私だけのアリスだ」
「うん。それにね、アデュは私だけのものよ?」
「そうだね、いい響きだ。」
「うん」
アリスはその胸に顔を埋めた。
その愛しい人の匂いに包まれたかったのだ。
「もう少し、こうしていて?」
「いいよ、アリス」
こうして2人の初めての夜は過ぎて行ったのだ。
こうして2人は時々夜を共にした。
王は知っていたが、知らない振りをした。




