えぴそーど 61
新しく義理の親子になる2人を祝福するかのように晴れた冬の初めの日。
城から王宮に向かう道をゆっくりと2人は歩いていた。
「アリスの何処に惚れたんだ?」
王の質問はありきたりだった。
「全てです。アリスは全てが素晴らしい女性ですから」
「全てか…、お前も惚気るなぁ?」
自分達のことを棚に上げて、王は苦笑いをする。
「仕方ありません。事実ですから」
「サラッと言うんだな?」
「はい」
その言い方に厭味が無いために、王も認めるしかない。
「今朝、アリスとどんな話をしたんだ?」
そう問われて、アンドレアは今朝のことを思い出していた。
今朝、普通よりも早い時間にアンドレアは王宮を訪ねた。
早かったために、アリスの支度が整うまでかなり待ったが気にもならなかった。
「アデュ!」
アリスがアンドレアの胸に飛び込んでくる。
思わず抱きしめて、口づけた。
「おはよう、アリス。愛してるよ?」
「アデュ、私も、愛してるわ」
2人きりのままだ。
「こんなに朝早く、どうしたの?」
「君にね、朝露を運んでくるって約束しただろう」
そう言って差し出された花には数滴の朝露が付いていた。
「朝露が付いている花の匂いは恋人達を幸せにするって言うんだよ、知ってた?」
「ううん、それはアルホートの言い伝え?」
「そうだよ。けど、ルミナスでも効き目はあると思うんだ」
「そうね、だって、私、とっても幸せだもの」
「良かった、私と同じだ」
そっとテーブルに花を置いた。
「アリス」
「なに?」
「今日、私は陛下にお願いに行ってこようと思うんだ」
「お父様に?」
「そう、城の執務室に伺って、直接、アリスとの婚姻の許可を頂いてこようと思う」
一瞬、アリスの瞳に不安の色が浮かぶ。
「悪戯に時間が過ぎると良くない。私という人間を陛下に見て頂いて知って頂いて、許可を願うよ」
「アデュ…」
「大丈夫、私は常に本気だと言っただろう?アリスの笑顔のためならば、何だってするんだ」
「嬉しい、アデュ」
アリスはアンドレアを抱きしめた。
「嬉しいなぁ、アリスから抱きしめてくれた」
「もう!」
「ハハハ、しかも、可愛い」
「アデュったら!」
口づけをしない理由がない。
2人の唇が重なる。
「だけど、なんだ。もし、お許しが出なかった時は、ね、アリス」
「はい」
「私と一緒にアルホートで暮らさないか?」
「はい、アデュのいる所なら何処へでも行くわ」
「ありがとう、アリス。安心したよ」
「けど、その時は…」
「アリエッタさんも一緒だよ。もちろんだ。それにアリスには何処へ行っても絵を描いていて欲しい」
「いいの?」
「ああ、そのくらいの甲斐性はある男だから、安心しておくれ」
「ありがとう、嬉しいわ」
互いの温もりを確かめるように抱きしめ合う。
「あ、そうだった。これを」
アンドレアがポケットから箱を取り出した。
どう見ても指輪が入っているような箱だ。
アリスの手の平にそっと置く。
「ルミナスの母上が、輿入れの際に付けていたものらしい。結婚するって言ったら、差し上げて欲しいって」
蓋を開けると、そこには小粒ながら美しい輝きを放つダイヤの指輪が入っていた。
「綺麗…」
「王室の物と比べると見劣りするだろうけど、母の思いが詰まっているんだ。受け取ってくれるかい?」
「そんなに大切なものを、いいの?」
「もちろんだ。私の妻はアリス以外にいないんだから」
「ありがとう!」
アンドレアは指輪を出すと、アリスの左薬指に填めた。
「似合ってるよ?」
「綺麗だわ、お義母様にお礼を言わないと…」
「時期が来たら紹介するね。まずは順番だ」
「そうね、アデュ、私、ここで待っているわ」
「分かった。上手く行くから、待っていておくれ」
「ええ、ねぇ、お父様にね、伝えて。お父様とお母様のように仲睦まじく暮らすからって」
「分かったよ、アリス」
そう言って別れたのだ。
王は返事を待っている。
アンドレアは気持ちをそのまま伝えた。
「愛してると、伝えに」
「そうか…」
王の背中が寂しそうに見えた。
「陛下…」
「いや、それでいい。相手がお前で良かった…」
「…、」
2人はその後、無言で歩き続けた。
王宮の門の辺りで、アリスは立って待っていた。
その指には指輪が…。
2人の影が見える。
近づいてきた父に声を掛ける。
「お父様!」
「アリス、こんなところで、どうした?寒くはないか?」
「大丈夫よ、ねぇ、お父様…」
そういいながら視線はアンドレアを見ている。
「おいおい、アリス。婿殿ばかり見ないで、ワシを見てくれないのか?」
「婿殿、って、え?」
「アリス、陛下のお許しが出たよ」
「本当?」
アリスはやっと父を見た。
「ああ、アリス。幸せになるんだぞ?」
「はい!アンドレアさんと一緒に、必ず、幸せになるから…」
「うんうん、分かったから、中に入ろう。風は冷たくなってきておる」
「はい」
王は気を利かせて先に中に入った。
「アデュ、良かったわ」
「アリス、君が後押ししてくれたお陰だよ」
「ううん、貴方ならお父様は気に入って下さるって思ってたもの」
「そうかい?」
「そう、だって、私の事、愛してくれているもの」
「そうだね。ずっと、だよ。ずっと愛してるよ」
「私も、よ?」
当然の様に口づけが交わされた。
「さ、陛下がお待ちだ」
「うん」
2人は手を繋いで中に入っていった。
2月3日20時より、更新再開いたします。
このまま完結までお楽しみください。




