えぴそーど 58
2人はそのまま抱き合っていた。
そこに、だ。
「あー、と」
ルイが入って来た。
「えーと、この状況は、いったい…」
アリスは慌てて離れようとしたが、アンドレアはゆっくりとその手を緩める。
「あ、あのね…」
言い訳をしようとしたアリスを制して、アンドレアはアリスから離れた。
そしてルイに対して正式な臣下の礼をし、ルイの目をしっかりと見て、こう申し出た。
「ルイ殿下。私、アンドレア・ヴァルファールとアリス・カナコ・ルミナス王女との婚姻、何卒、お認め下さい」
その正式な申し出に、ルイは真摯に答えた。
「ヴァルファール殿、それは本心ですね?」
「はい、アリス様を私の妻に」
ルイは軽く頷くと、顔を赤くしたままの姉に尋ねた。
「姉様も、それでいいのですね?」
「ええ、ルイ。私はアンドレアさんの元に嫁ぎたいの」
「わかりました」
ルイは左手を差し出した。
立ち上がり、アンドレアはその手を握る。
「弟として言わせてください。姉をよろしくお願いします」
「殿下…」
「人よりも不器用な性質ですが、弟から見ても素敵な女性ですから」
姉を思いやるルイの言葉に、アンドレアは心を打たれた。
「ルイ殿下、必ず幸せにいたしますので」
「お願いします。父も喜ぶと思います」
「はっ」
再度礼をしたアンドレア。
彼は、自分の隣にいるアリスを見た。
そして何事もないように言葉を出すのだ。
「アリス、愛してるよ?」
「え?アデュ、ルイの前でいうの?」
「誰の前でも言うよ。私が愛してるのはアリスだけだからね。結婚しよう、幸せにするから」
「アデュ…」
そのままキスをしそうな2人をルイが止める。
「すまないんだけど、そこから先は、父上の許可が出てからにしてくれないかな…」
2人の距離が少し離れた。
「あ、そうですね」
「そうよね…」
ルイは苦笑いとなる。
けれども、ルイも嬉しかったのだ。
思わず姉を見た。
「姉様。父上には、俺から連絡する?」
「そうね、その方がいいわ」
「じゃ、今、電話するよ」
王宮の居間から城の中にある王の執務室へとルイが電話をする。
アンドレアとアリスは仲良く手を繋いだままだ。
どうやら繋がったらしい。
「父上、今日は早目に御戻りください、え?アリス姉様が、話があるそうですよ。ええ、え?」
ルイの声が大きくなった。
「ポポロと?そんな約束、今朝は聞いてないですよ?父上?急に決まった?」
「なんて言ってるの?」
「ちょっと、待ってください…、父上が、今晩はポポロと約束があるから、3人で食事してくれ、だってさ」
アリスはため息をついた。
「…、私が話すわ」
「まぁまぁ、姉様。心の準備くらいさせてあげてよ。いいね?」
「けど…、」
アンドレアも苦笑いになる。
「アリス、陛下にも時間が必要だよ?」
「うん、わかった…わ」
ルイは改めて父と話す。
「分かりました。では、明日ですからね?いいですね?」
父が返事をしたのだろう。
受話器が置かれた。
「アンドレアさん、明日、もう一度ここへ来て頂けますか?」
「もちろんです。アリスとの事を陛下に認めていただけるまで、伺います」
「アデュ、ゴメンなさい。私の事になると、頑固なの…」
「大丈夫だよ。私がアリスを愛していることは変わらないからね」
「ええ」
簡単に2人の世界に入り込もうとする姉達に、ルイは思わず咳払いをした。
「えーと、では、アンドレアさん、今宵は私達と食事をしませんか?」
「ありがとうございます。ですが、殿下。今宵は家に戻り、父に報告したいと思います。勿論、相手が姫であることは陛下のお許しを受けてから話します」
「そうですか…」
「アデュ、寂しい、わ」
「アリス、明日、会えるよ?」
「そう、そうね」
「それに、これ以上一緒にいたら…」
「え?一緒にいたらって、私といたくないの?」
見る見る間にアリスの顔が曇っていった。
相変わらず鈍感な姉に、どう言ったらいいのか悩んでいるアンドレアを、ルイは心から同情した。
なんとかアリスを慰めようとするアンドレア。
「アリス、そうじゃないよ。これ以上一緒にいたらね、…」
「うん…」
ルイが言葉を挟んだ。
「姉様、アンドレアさんを困らせないもんです」
「だって、ルイ…」
「だって、じゃありません」
助け舟を出してくれたルイに感謝しつつ、アンドレアはアリスにこう告げた。
「アリス。また、明日会おう?そうだ、朝露を君に運んで来くるよ?」
「…アデュ。分かった。待ってるから」
「いい子だね」
男として、この状況に耐えたアンドレアにルイは同情するしかない。
心の中で呟く。
この姉様だもの。
早目に式を挙げないと、アンドレアさん、大変だよ…。
そんなルイの視線を感じたのか、アンドレアは苦笑いとなった。




